2084年、社会から“消された”…それでも生きている(#nijiclip)

虹くりっぷさんのテーマに応募します。お題は「2084年」

見えない街の住民票

──存在しない者として生きる──

※この物語はフィクションです。ですが、もしかしたら近未来のどこかで、あるいはすでに誰かの身に起きているかもしれません。


第一章:都市2084

2084年。

都市はデジタル管理社会の極致に達していた。

すべての市民は、顔認証・バイオID・行動履歴など、あらゆるデータによって識別され、行政や企業、交通インフラに至るまで、個人の“存在”はデータとして刻まれていた。

だが、そこには例外があった。

ある日突然、記録から「消された人々」。

彼らは「見えない住民」と呼ばれていた。

行政データベースには名前すらない。

医療も受けられず、職も借家も失い、納税も、選挙も、結婚すらできない。

便利なはずの社会で、彼らは「いないもの」として扱われていた。


第二章:削除された日

「昨日まで普通に暮らしていたのに、今日から“存在しない”ことになった」

地下シェルターの片隅で、カエデは静かに語る。

彼女は、離婚をきっかけに旧姓へ戻そうとした際、行政システムの誤処理に巻き込まれた。

ある朝、彼女のIDは無効化され、ログインも、交通カードの使用も、スマートドアの解錠もできなくなった。

「役所に行ったら『あなたのデータはありません』と言われたの」

それはバグでもミスでもなく、「存在の抹消」だった。


第三章:地下の記憶たち

デジタルから排除された人々は、地下に身を潜めるしかなかった。

地下の旧鉄道トンネル。

そこに、小さな「非公式住民コミュニティ」があった。

互いに「君はいる」「ここにいる」と、名前を呼び合うことで、生存の証明をしていた。

誰かが言った。

「記録は消された。でも、記憶までは消えない。誰かに覚えていてもらえたら……私は“いる”のかもしれない」


第四章:ひとつの発案

その日、ソウマが現れた。

元・都市行政局のデータ管理責任者だった。

自らも不正を暴こうとしたことで、システムから“削除”された男だ。

彼は、紙のノートを広げて言った。

「ここに、私たち一人ひとりのプロフィールを書こう。記憶を、記録にしよう」

顔・名前・生年月日・エピソード・誰が覚えているか。

何冊ものノートが埋まりはじめた。

ひとつひとつが、“新しい住民票”だった。


第五章:存在の証明ノート

ノートの表紙にはこう刻まれた。

『見えない街の住民票』
――記録から消された人々の、記憶の手帳。

情報端末では読めない、電力も不要な、人の手による記録。

そのノートが地下の間で共有され、やがて数十冊にも膨れ上がった。

誰もが誰かを知っている。

「君は、そこにいた」

その声が、彼らを社会の外で生かしていた。


第六章:地上への挑戦

ソウマはある提案をした。

「この記録を、地上に貼り出そう」

誰にも知られないまま死ぬのではなく、誰かに気づかれてほしい。

彼らは、自作のポスターとコピーを抱えて、夜明け前の街角へと忍び込んだ。

電柱、掲示板、地下鉄の壁、団地の郵便受け――

そこに貼られた手書きのノートは、ひとつの問いを投げかけた。

「あなたは、本当に“存在している”といえますか?」


第七章:波紋

最初は誰も見向きもしなかった。

だが、一人の女子学生がその紙に気づいた。

「あれ?この人、うちの学校の担任だった気がする……」

SNSでの投稿が、次第に拡散する。

メディアが取材を始め、都市の一部で「見えない住民」の存在が話題になった。

都市議会は重い腰を上げ、住民票の再審査を開始。

「誤って削除された市民の可能性を再評価する」と発表された。


第八章:交渉の席へ

行政庁舎では、冷たく無機質なその会議室に、ソウマたちが立っていた。

「私たちは記録されていない。けれど、私たちには“記憶”がある。私たちの存在を、再び認めてほしい」

行政官は問う。

「その証拠は?」

ソウマは、20冊を超えるノートを差し出した。

どれも手書きで、誰かが誰かを証明している。

「データが真実ではない。“誰かがいた”という記憶こそが、本当の証明だと思いませんか」


第九章:再び名を得る

都市は、異例の再登録を認めた。

手書きのノートが、AI審査の前段階として受理されたのだ。

カエデは、久々に自分の名前が表示された住民票を手にし、涙をこぼした。

「ここに、私は、いるんだね……」


第十章:声をあげ続ける

だが、問題は終わってはいなかった。

ソウマは、地下の仲間とともに「見えない者の記録」を続けていた。

再び消される人が出ないように。

記録ではなく、“記憶”による社会保障の新しい形を築くために。

「この街で、もう誰も“いないこと”にはさせない。私たちが証明する。君がここにいると」


エピローグ:あなたのそばにも

ある日、あなたが通りすがりに見かける紙切れ。

そこには、誰かの名前が書かれているかもしれない。

かつて、この街で確かに生きていた誰かが。

そして、あなたがそれを読むとき――

その人は、もう一度、「ここにいる」ことになるのだ。



追記:先日投稿した短編小説の登場人物「カエデ」のエピソード短編小説を書きました!


最後までお読みいただきありがとうございました。

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