見出し画像

#シロクマ文芸部 空の色が薄く見えた日~短編フィクション小説~

小牧幸助さんのお遊び企画「昨日から」に参加です。

締切は2/25(水)23:59だそうです。よろしくお願いします。

※この物語はフィクションです。

空の色が薄く見えた日


昨日から、空の色が少し薄く見える。

いつもと同じ朝、同じ道、同じカフェラテの香り。

それでも何かが違う気がして、私は歩く足を止めた。

「昨日の私」と「今日の私」の間に、うっすらと線が引かれている。

そんな感覚があった。

いつも通りにパソコンを開き、メールの返信を始める。

クライアントからの相談、コラボの提案、請求書の確認。

どれも昨日までは迷いなくこなせていた仕事だ。

けれど、今日は言葉が指の先で止まる。

「これって、本当にやりたかったことだっけ」

問いが不意に浮かんだ。

昨日までは、動き続けることで安心していた。

予定が詰まっていることが、存在の証のように思えていた。

けれど昨日、本屋で出会った老婦人の言葉が、心の奥で静かに響いている。

「あなたは、そろそろ“隙間”を見つける頃ね」

午後の打ち合わせのためにカフェへ向かうと、先に彼女が座っていた。

SNSを通じて知り合った、同年代の起業仲間。

いつも明るく、話していると不思議と励まされる人だ。

今日は、その彼女の瞳の奥に、かすかな影が差しているように見えた。

「最近、どう? 頑張ってる?」

そう聞くと、彼女は少し息を吐いて笑った。

「頑張るの、ちょっと疲れちゃってね。でも、止まるのも怖いの。」

胸の奥に、その言葉がすとんと落ちた。

同じことを、私もずっと感じていたのだ。

気づけば、こんな言葉が口をついて出ていた。

「昨日からね、空の色が薄く見えるの」

彼女は少し目を瞬かせて、それから穏やかに頷いた。

「きっと、それが“はじまり”なんだと思う」

カップの中のコーヒーが午後の光を受けてきらめいた。

沈黙の中で、何かがほどけていく音がした。

言葉では届かない場所で、何かが少しずつ変わっていくのを感じた。


帰り道、風が少し冷たかった。

夕方の空はまだ薄いままだったけれど、どこかやさしく見えた。

スマホのカレンダーを開き、びっしり詰まった予定の中からひとつ削除する。

明日の午前、ほんの数時間。

「空白」と名前をつけて保存した。

それだけのことなのに、胸の奥がふっと軽くなる。

誰に見せるでもない、私だけの小さな革命。

明日の私は、もう少しゆっくり風を見るだろう。

そして、その空がどんな色をしていても、もう怖くはない。


  ~ 終 ~



#シロクマ文芸部



いいなと思ったら応援しよう!

伊藤ようこ| 強み×IT×AIで女性起業家をサポート| 自己受容から始まるしなやかな生き方note あなたの応援が、私の毎日の創作の原動力になっています。最後まで読んでくださって、本当にありがとうございます。いただいたサポートは、書籍の購入など、これからの活動に大切に使わせていただきます。みなさんのおかげで、毎日noteを書くことが楽しみになっています。

この記事が参加している募集