EU AI Actは8月2日に「始まった」——ただし、一番痛い部分は消えていた
2026年8月2日、EUで世界初の包括的AI規制「AI Act」が本格適用されました。報道の多くは「世界初のAI包括規制、ついに執行開始」と伝えました。日本でも「罰金最大3,500万ユーロ」「違反で売上高7%の制裁金」といった見出しを見かけた人は多いはずです。
ただ、実際に条文と欧州委員会の公式資料を追ってみると、話はもう少し複雑でした。8月2日は「全部が始まる日」ではありません。正確には、「始まったもの」と「その直前に消えたもの」がはっきり分かれた日です。そして消えた側にこそ、この規制の核心があった——そう整理したくなる経緯を、調べた順に書いていきます。
8月2日に実際に始まったもの
まず、ほかの説明資料と重複する部分は手短に。2026年8月2日から適用が始まったのは、主に次の3つです。
1. 透明性義務(第50条)
ChatGPTのような対話型AIが「これはAIです」とユーザーに明示する義務、AI生成画像・音声・映像に機械可読のマーキングを埋め込む義務などです。第50条の実体義務(第1〜6項)は改正なく、当初予定どおり8月2日から適用されました。よく「Digital Omnibusで前倒しされた」と説明されることがありますが、正しくは据え置きです。
2. 欧州委員会のGPAI制裁金権限(第101条)
汎用AIモデル(GPAI)の提供者に対して、欧州委員会が直接制裁金を科せる権限です。上限は1,500万ユーロまたは全世界売上高の3%(いずれか高い方)。GPAIモデル自体の技術文書整備や訓練データ要約の公開などの義務は2025年8月2日から既に適用されていましたが、「違反したら委員会が直接罰する」部分はこの日まで待たなければなりませんでした。
3. 認証と登録のインフラ(第III章第5節)
整合規格の運用、適合性評価、CEマーキング、EUデータベース登録の仕組みです。ここは混乱しやすいポイントで、高リスクAIの「義務」は後述のとおり延期されたのに、それを支える「制度」は8月2日から動いています。
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