【Face to Face】Liberation
「Liberation」とは、拘束から解き放たれる意味だけではなく、何事にも「自分らしさ」という自信を持って突き進むという意思の現われだと思う。

4月が終わり、入社した新入社員も1ヶ月が経ち、それぞれの会社に慣れてきた頃だと思います。入社式が行われた頃は、新入社員であふれていた東京も、大分落ち着いてきました。日本では、新入社員の採用を一括で行う企業が多いため、同じ様な格好をした新社会人があふれるという状況になります。新入社員の服装の色は黒もしくは濃紺といったものが一般的であるため、一目で新入社員だと分かります。海外では、どうなのでしょうか。日本だけの習慣なのでしょうか。この新入社員も1ヶ月が経つと、自分たちに合った服装へと変わっていくと思います。私たちの人生の中では、数々のイベントがあり、そのイベントに合わせた服装というものがある様に感じます。学校の入学式や卒業式、会社の入社式、幸せいっぱいな結婚式、淋しさが漂う告別式など、その場にあった形での服装というものがあるように思います。制服など決められた服装があるときは、その制服を着用するしかありませんが、そうでない時は自由な服装がいいのだと思います。イベントに合った形の服装が通例だからといって、皆が同じ服装になってしまうのは残念なことです。そういう中でも、イベントの雰囲気を壊さず、個性を活かし工夫した服装をしている人を見かけると好感が持てます。先日、ドレスをデザインされている方の発表イベントがあり、訪問する機会をいただきました。そのイベントは「DRESS Liberation」というタイトルがつけられていました。「Liberation」という言葉に惹かれたので、「Liberation」について考えてみることにしました。



●ドレスと解放
「Liberation」は「解放」という意味の名詞です。抑圧や束縛からの解放、または特定の場所や状況からの解放を指します。政治的、社会的な文脈でよく用いられ、人々の自由や権利の獲得を意味することもあります。何かに拘束、制限、制約されていることから解放されるということだと思います。実はDRESS(ドレス)という言葉とLiberation(解放)という言葉には深い関係があることをご存知でしょうか。そこで、ドレスの歴史について少し調べてみました。ドレスは女性用の衣服の一種であり、上半身から脚部までを単一の布によって被う、いわゆるワンピースの形態をとっているものが一般的です。ヨーロッパ地域の白人女性の民族衣装が元とされているそうです。中世期には西洋貴族の女性用のフォーマルウエアとして装飾性の高いデザインが取り入れられ、近世以降は全世界で女性の正装として認識されています。そして、19世紀の頃はドレス着用時に女性の体形を美しく見せるためにコルセットを着用することが多かったそうです。当時のコルセットはウエストラインを細く見せるために、身体を過度に締め付けていました。そのために呼吸器疾患や肋骨の変形、内蔵の損傷、出生異常、流産の原因になることもあったと言われています。そのようなところから、ドレスは女性の身体を拘束するものとしてとらえられることもありました。この様な状況から、ドレスによる身体の拘束と女性の地位の拘束に関係性を持たせていったように感じます。その身体の拘束を解放することが、女性の行動や意識の変化、そして地位の向上へと繋がっていくと考えたようです。ドレスを女性の服装の代表と考えると、女性の服装はその時代背景に大きく影響を受けているといえそうです。
●ファッションと平等思想
女性のファッションは、男女の社会的・政治的・経済的平等を目指す思想や運動と関連づけられました。現在では、ジェンダーの多様性が大きく取り上げられているので、男女という考え方は古いのかもしれません。しかし、ジェンダーフリーについて語られる前提には、男女の平等思想があったからだと思います。19世紀のヨーロッパにおいても女性は家庭にとどまるべき存在であり、社会における発言権はありませんでした。学校教育の機会も、ほとんど与えられていなかったそうで、上流階級の女性であっても、教育の目的はあくまで良妻賢母になるための教養を身につける程度だったそうです。それが変わり出したのが、産業革命で工場が建てられ女性も労働するという環境に変わってきたことです。しかし、同じ労働をしていても賃金が男性より低いことに不満を抱える女性たちが、労働運動を起こすようになります。女性が社会の意思決定に関与することができない矛盾に気づき、やがて女性参政権を求める運動へと発展していきました。ちょうどこの頃に、女性が労働するための服装についても、変化が発生してきます。この頃から仕事をするスタイルとしてパンツ(ブルーマー)スタイルが考案されたそうです。まだまだ世間では馴染みがなく、当初はスキャンダラスな格好として話題になったそうです。一方、その当時のドレスは、きついコルセットを締めて重いスカートを引きずって歩くという、身体に負担を強いて、健康的とはいえないファッションが主流だったようです。このような身体的な拘束からの解放を求めるファッションが考案されていきます。
●自由発想のファッション
女性の活動も家庭にとどまらず、ますます活動的になっていきました。その活動に合わせてパンツスタイルの活用やコルセットのないドレスの考案、男性下着に使用されていたジャージー素材を使ったドレスなど自由な発想のファッションが登場してくることになります。女性が家庭にとどまるという考え方から抜け出し、仕事を通じた職場や制度の改革を進める政治の世界へと進出するように変化していきます。その後のファッションにおいても、その活動に合わせた自由なものへと変わっていったと思います。そのように考えると、どのような服装が女性に適したものかという考え方ではなく、それぞれの女性が自分自身の立場に合った最適な服装を求めるというのが適切なのかもしれません。また、この考え方は女性に限らず、男性やジェンダーフリーの世界でも同様だと思います。
●自分らしさの原宿
今回訪問させていただいた発表イベントは、東京随一の「ファッションの街」として知られる原宿で行われました。私が原宿と言って思い出すのは、一世を風靡した「たけのこ族」です。当時の原宿・表参道は休日には歩行者天国となり、彼らはこの場所を活動の拠点としていました。ちょうど日本が高度経済成長期を経て社会が安定し、消費文化が花開いていた時期で、日本の若者文化の一大ムーブメントだったと思います。若者たちは経済的な余裕を背景に、自分たちのアイデンティティを自由に表現できる環境を享受していたと思われます。その中で、音楽やダンス、そしてファッションを通じて仲間と楽しむことが、彼らの主な活動の中心だったそうです。たけのこ族は、こうした自由な空気の中で誕生し、当時の若者の「新しさ」や「個性」を象徴する存在でした。また、テレビや雑誌などのメディアがたけのこ族の活動を取り上げることで、全国的に知名度を高めることになりました。たけのこ族のサテン素材を使ったカラフルでユニークなファッションや派手な色使いは、個性を重視するファッション文化の先駆けで、当時のストリートファッションに大きな影響を与えたそうです。このスタイルは、「自分らしさ」を表現する重要な手段となり、その後の原宿ファッションやストリートカルチャーに通じる基盤を築いたそうです。また、独自の衣装を手作りする文化も広まり、DIY精神がファッション界に浸透するきっかけにもなったようです。このような点が、単に一世を風靡した過去の流行ではない、拘束とは無縁な「自分らしさ」を追求し、仲間と共有する喜びの象徴としての「たけのこ族」であったと言えます。因みに「たけのこ族」という名前は、原宿の竹下通りで開業した洋品店の店名に由来しているそうです。派手なサテン素材の衣装は、その洋品店のオーナーがオリジナルでデザインし、販売されていたものだとのことです。そのような街「原宿」で開催された「DRESS Liberation」と名付けられたイベントは、ドレスに自分らしさを与えるものであったと思います。
☆自分らしさを表現し続けるファッションの街「原宿」





●ドレスは大切な分身
今回の発表イベントのデザイナーのメッセージに次のようなものがありました。「嬉しい時も不安な時も『ドレス』を纏う 勇気も奇跡も、自信も、『ドレス』が導いてくれる 『さぁ、一緒にドレスと生きていこう』」。「Liberation」は解放という意味ですが、単純に拘束されている状態から解き放たれるということではなく、何事に対しても「自分らしさ」という自信を持って突き進んでいこうという意思の現われだと思います。突き進んでいくためには、ドレスは衣装としてではなく、ドレスは自分自身を表現する大切な分身だと考えられます。初めてのイベントへ行ってみましたが、ファッションだけではない、いろいろなことを考える機会をいただきました。
