私とnote98 13番 微笑みのわけ
三羽烏兄さんの企画に参加します。
つくばねの 峰より落つる みなの川 恋ぞ積りて 淵となりぬる
(後撰集 恋 776)陽成院

(757字)
「つくばねのー」
ぱしっ!
「ばあちゃんの生まれた家からね、筑波山が見えるんだよ。だからね、『つくばねの』は、最初に覚えたんだ・・・。うふふ…」
正月恒例、ばあちゃんと私の、かるた勝負。
読み手は、かあちゃん。
『つくばねの』は、必ずばあちゃんが取り、取った後には必ず同じことを言う。
そして、最後に必ず、
「うふふ…」
と、遠慮がちに微笑む。
この「うふふ…」の意味は何だろう。
聞いてみようかと思いつも、何となく聞きそびれていた。
かあちゃんにそれとなく聞いてみた。
「いろいろ思い出があるんじゃない?」
思い出ってなんだろう。
「さあ…。人には、心にしまっておきたいものがあるのよ。」
と。
…
子どもの頃は負け続けていた、かるた勝負。
いつの頃からか、私が勝つようになった。
負けても、ばあちゃんは楽しそうだった。
ばあちゃんが取れる札は、年々減っていった。
それでも、『つくばねの』だけは、ばあちゃんが取った。
私が取れそうでも、取ってはいけない気がした。
そして、決まって、
「ばあちゃんの生まれた家からね、筑波山が見えるんだよ。だからね、『つくばねの』は、最初に覚えたんだ・・・。うふふ…」
と、遠慮がちに微笑む。
…
…
「つくばねのー」
かあちゃんが、読む。
「峰より落つるー みなの川ー 恋ぞ積りてー 淵となりぬるー」
読み終わっても、ばあちゃんは動かない。
私は、ばあちゃんの手を取って、目の前にある札を握らせた。
ばあちゃんは、その札に目をやると、何か言いたそうに口を動かした。
「ばあちゃんの生まれた家から、筑波山が見えるんでしょ。だから、『つくばねの』は、最初に覚えたんでしょ。」
と、ばあちゃんの代わりに、私が言った。
ばあちゃんは、遠くを見るような眼をして、遠慮がちに微笑んだように見えた。
微笑みのわけを、もう聞くことはできない。
「恋ぞ積りてー 淵となりぬるー」

このお話は、フィクションです。
モデルは、私の母です。
『つくばねの』のエピソードは、母の言葉を元にしています=^_^=
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