『時空郵便局 第二便』他人の目が気になる貴方へ——清少納言からの手紙
「..….これをお読みになったら、すぐに炭火にくべなさい。」
他人の目ばかりを気にして、
己の心の中に『誰一人住んでいない』おんしの様があまりに哀れで、筆を執ったまで。
あな、いとわろし。
他人の庭に咲く花の色を数えて、
日が暮れるまで嘆いているなんて、
なんと愚かで、風情のないことでしょう。
今の方々が耽(ふけ)っておられるあの「噂の小箱」は、まるで四六時中、
御簾(みす)を上げ切ったまま、
通りすがりの者すべてに顔を晒しているようなもの。
誰に褒められた、誰に蔑(さげす)まれたと、
そんな他人の定めた「値打ち」に一喜一憂して、
何が楽しいのですか。
「己を認める」などという、
近頃流行りの甘ったるい言葉は、
わたくしは嫌いです。
それは、自分の美しさを決める物差しを、
見ず知らずの他人に貸し出しているのと同じこと。
冬の朝の、
あの冴え冴えとした白さ。
あるいは、
炭が白く灰になった、
あの潔さ。
そんな、
他人が何と言おうと動かぬ「あなただけの真実」を、ただ一つ持てば良いのです。
他人の目という「さざ波」をすべて消し去り、
独りで「をかし」と言い切る。
その凛とした強さこそが、
真の知というものです。
清少納言
まだそんな頼りない顔をして。
良いでしょう。
わたくしが宮中でいかにして『わたくし』を守り抜いたか、その血の滲むような裏側を、
少しだけ教えて差し上げます。
さて、ここからは少し本音を。
「自分には値打ちがない」と、
いつまでそんな湿っぽい顔をなさるつもり?
厳しいことを言いますが、
この宮中で「己の形」を持たぬ者は、
ただの背景として消えていくのみ。
それは道理です。
わたくしが草子を書いたのは、
誰かに媚びるためではありません。
ただ、わたくしの目に映る世界が、
他の誰よりも鮮やかであることを証明したかっただけ。
わたくしを貶(おとし)める言葉など、
わたくしの「をかし」の速さの前では、
届く前に消え失せる塵(ちり)に過ぎません。
おんし、今すぐその「呪いの鏡」を伏せなさい。
他人の称賛という「おこぼれ」を待つ飼い犬として一生を終えるのか。
それとも、
たとえ独りであっても、
己の美学という「刃」を研ぎ澄まして生きるのか。
どちらを選ぶのですか?
命を惜しむよりも、
誰にでも代わりのきく「数合わせ」として生きることを恐れなさい。
おんしの心の底にある、
誰にも譲れぬ「一点のこだわり」。
それを今すぐ、
扇を広げるように鮮やかに示してごらんなさい。
それが、おんしをこの醜い比較の沼から救い出す、唯一の「光」になるのです。
おんしの命、
ただの飾り物にしておくな。
清少納言

「他人の色に染まらぬこと。それが、この世で最も贅沢な『をかし』です。」
