民間死刑執行センター『姫様の野望』“日土井(ヒドイ)造作の場合”上


『日土井 造作(ヒドイゾウサク)の場合』

 中学2年になり、姫のいるクラスはクラス替えになった。姫の家来たちも5クラスに、それぞれ散り散りになっていった。姫にとっては、その方がむしろ好都合だった。家来たちによる、他のクラスからの情報も収集できるからだ。

姫は、また何人か家来を作ってやろうと、クラスメイトを一人一人物色中だった。すると、姫のことをじっと見ている男子がいた。

『日土井 造作(ヒドイゾウサク)』だ。姫と目が合うと、造作はニターッと笑った。姫は思わず鳥肌が立った。

造作は身長145センチのチビで、体重は60キロは軽く越えている。まさに、中学生メタボリックシンドロームで、小さな関取といった感じで、顔はガマガエルのようだった。たとえ姫でなくても、暗がりで彼の風体をいきなり見てしまったら、ちょっとびっくりしてしまうかもしれない。お尻もかなり椅子からはみ出している。

ゲッーッ!何、こいつ。こんなのとクラス?!同じ班でないだけ良かったなぁ〜。

姫は、醜いものが強烈に嫌いだった。


 ある日のことだった。姫は学校から真っすぐ帰宅して、珍しく家で読書をしていた。すると、呼び鈴を鳴らす者がいた。メイドの『木賀 菊子(キガキクコ)』が何やらインターフォンで話している。華具家(カグヤ)家では、姫が中学2年になる少し前にメイドを雇った。

姫の両親の仕事が忙しいというのが表向きの理由だったが、実は両親双方とも、家庭を顧みなくなっていた。父親の方には愛人がいたし、母親の方にも華道の弟子の中に若いツバメがいて、そのツバメにゾッコンで遊び呆けていた。両親たちは、姫に妙な気づかいやヘタな言い訳をするので、仮面家族になりつつあることを彼女は薄々気がついていた。お金や物はふんだんにあり、一見、何不自由なく恵まれた家庭⋯。しかし、中身はスカスカの殺伐とした家庭だった。

両親は、自分たちが姫に愛情をかけてやれない罪悪感か、益々姫には『コズカイ』というマヤカシで満足感を与えようと躍起になっていた。彼女は、ただただ家族が他愛もない話をして、食事をするだけでも満足だったのに⋯。


 来訪者は造作だった。姫はメイドのキクコに、彼が何の用事で訪ねて来たのかを尋ねると、直に姫に渡したい物があるのだと言った。

姫は渋々玄関に行き、造作を家の中には入れずに玄関の外で話した。

「姫になんか用?」

造作は、手にデパートの使い古しの紙袋を持っていた。

「これ、あげます。」

それだけ言うと、その紙袋を姫に差し出し逃げるように走っていった。姫は、その場で紙袋を覗くと、ビニール袋に入った千羽鶴が入っていた。

なぁに?これ?病気でもないし、入院してるわけでもないのに、薄気味悪いし縁起でもないよなぁ〜。

 姫は家に入ると、紙袋のままダストフィニッシュにそれらを投げ入れた。そして、造作を改めて薄気味悪いと感じていた。

 次の日、学校では以前にも増して、造作は姫を見るようになった。何か視線を感じて辺りを見回すと、必ず造作は姫を見ていた。

アイツ、なんとかしないと〜。

姫は困惑していた。


 その日の夕方、姫が帰宅しようと家の門を潜ったときに造作から声をかけられた。造作は、昨日と同じように使い古しの紙袋を持っていた。そしてまた、

「これ、あげます。」

と言い、走って行ってしまった。

「ヒドイ君、ちょっと待って。」

姫は慌てて造作を呼び止めたが、彼の姿は消えてしまった。紙袋の中身は、昨日に比べ少し重かったし、白いタオルに巻かれているようだった。仕方なく姫は、自分の部屋で中身を見ることにした。

 2階の奥の南側が姫の部屋だ。例の荷物をドカッと机の上に置き、恐る恐るタオルに巻かれた物を取り出してみた。すると、それは陶器でできた『ガマガエル』の貯金箱で、貯金箱が包まれている白いタオルには、

『姫様へ 日土井 造作より』

と書かれていた。

なぁに?!これ⋯。家で使っていた物を持って来て、しかもタオルがラッピングペーパーとカードか手紙のつもり〜。アイツ、自分がガマガエルみたいって意識していて、姫の部屋に自分を置いてって意味なんだろうか?こんなの不気味で飾りたくないし、アイツの分身みたいなのを部屋に置いたら、なんかいつも監視されてるみたいで気持ちが悪いし落ち着かないよ。早めにアイツに返してしまわないと〜。千羽鶴も一緒に返せば良かったなぁ。

 姫は、憂鬱な気持ちになった。しかし、明日学校に紙袋を持参すると、みんなにヘンに思われるし、やはり自宅に行って本人に直接、返却するのが最良の方法だと姫は考えた。そして、一人で行くのも誰かに見られたり、変な誤解をされることになるかもしれないと考えて、姫は家来を2人連れて行くことにした。

家来幹部のモトコとツカコに電話して、大まかな説明をして華具家邸に招集をかけた。華具家邸から、徒歩15分で日土井家があった。

 3人は、造作の悪口を言いながら歩き、毒舌のツカコは、

「ガマガエルは、姫にチョッカイ出す権利なーし。」

とまで言い切り、3人は大笑いした。

間もなく日土井家に到着し、『日土井 力作』と書いてある表札の横には、『いじめ撲滅連合楽民シティ(通称 いじ撲連)理事』

『非行防止連絡会(通称

非防連)会長』と書かれていた。


 ツカコが呼び鈴を押すと、直ぐに造作が出て来た。いきなり女子3名のクラスメイトの来客に、彼はびっくりして目を丸くしている。モトコが刺々しく、

「あんたの変な貢ぎ物のせいて、姫様はすんごい迷惑してるんだよ。もう、こんなことよしなさいよ。」

姫も続いた。

「これは、返すわ。千羽鶴の方は、従兄が入院してるから従兄にあげたの。姫は元気だから必要ないから⋯。どんな気持ちでくれたのかわからないけど、もうこんなことしないで⋯。」

ツカコの毒舌ロケットも、容赦勘弁なく発射された。

「だいたい、あんた失礼だよ。こんな売れない骨董屋に置かれたガラクタみたいなもん、誰がいるのさ?!お金あげるから引き取ってって言われたっていらないよ。」

造作は、ツカコのロケットにたじろぎ頭ばかり掻いている。そして、造作は思いがけない言葉を3人に発したのだった。

「実は、オイラ。姫さまのことが小さいときから好きで⋯。んで、お願いがあって⋯。」

造作は話を続けた。

「お願いってのは、オイラも家来にしてくれないでしょうか?ほんの片隅にでも姫さまの傍に置いてやってくれないでしょうか?」

造作の言葉に、3人は唖然とした。今までの姫の家来は、いつの間にか姫の手中に填まり、なった者ばかりだった。あからさまに、こんな風に志願して来た者はいなかった。

モトコが言った。

「いきなり家来って?!あんた、桃太郎じゃないんだから⋯。」

すると、ツカコがすかさず言った。

「桃太郎の家来だって、きび団子が欲しくてなったわけでしょう。あんたも姫様のなんかが欲しいわけ?」

造作は静かに言った。

「オイラは、なんにもいらないよ。ただ、姫さまの役に立ちたいだけだよ。」

姫は、心の中で呟いた。

役に立ちたい?コイツになんの利用価値があるんだろう?まぁ、いずれあるかもしれないかぁ〜。まぁ、少し様子をみるかな?でも、今すぐここで即答するのはマズいね。少し焦らしてやるか⋯。

姫は、しばらく考えたふりをして造作に言った。

「少し考えさせて⋯⋯。」

  下に続く

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