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【東京計器】最高益はどこまで続くのか――船舶・流体計測・油圧が支える利益構造

東京計器は防衛需要を利益と現金に変えられるか――過去最高の受注残とキャッシュフローの壁

冒頭要約

東京計器は、船舶の方向を測るジャイロコンパス、防衛装備品の慣性航法装置、建設機械や工作機械の油圧機器、水道・河川向けの流量計などを手がける計測・制御機器メーカーである。

同社の最大の特徴は、単にセンサーを製造するのではなく、「計測・認識・制御」の技術を、船舶、防衛、水インフラ、産業機械といった停止や故障が許されにくい用途へ組み込んでいることにある。

2026年3月期は売上高611.9億円、営業利益53.6億円となり、営業利益は2期連続で過去最高を更新した。2027年3月期も売上高683億円、営業利益64億円を計画している。最大の成長ドライバーは、防衛・通信機器事業が抱える高水準の受注残である。

一方、利益成長ほどキャッシュフローは強くない。2026年3月期の営業キャッシュフローは1.6億円の支出、フリーキャッシュフローは53.1億円の赤字となった。防衛案件に必要な部材や仕掛品が増え、棚卸資産が32.0億円増加したことが主因である。

したがって、東京計器を見るうえで重要なのは「防衛関連銘柄だから成長するか」ではない。

豊富な受注残を、納期どおりの売上、適正な利益率、最終的な現金回収へ変換できるか。

これが投資仮説の中心となる。


なぜ今、東京計器を調べるのか

日本政府は防衛力整備計画に基づき、防衛関連支出を拡大している。2026年度予算では、防衛力整備計画対象経費として歳出ベース8兆8,093億円、契約ベース8兆2,607億円が計上された。無人アセット、スタンド・オフ防衛、統合防空ミサイル防衛、領域横断作戦能力などが重点分野となっている。

東京計器は、航空機搭載機器、艦艇搭載機器、慣性航法装置、レーダー警戒装置などを供給する。防衛予算の拡大は、同社の受注と売上を押し上げてきた。

ただし、防衛関連企業の評価で起こりやすい誤解がある。

防衛予算が増えても、受注した翌日に売上と現金が入るわけではない。研究開発、設計、部材調達、試験、生産、検収までには長い時間がかかる。受注増加の初期段階では、むしろ在庫、設備、人員、借入金が先に増えることもある。

東京計器は、まさにこの成長局面にいる。

利益は過去最高を更新しているが、現金は設備と運転資本へ吸収されている。この両面を理解しなければ、企業の成長力も財務リスクも正しく評価できない。


30秒で分かる東京計器

項目内容正式社名東京計器株式会社英文社名TOKYO KEIKI INC.証券コード7721上場市場東証プライム創業1896年本社東京都大田区羽田空港社長安藤毅氏決算期3月従業員数連結1,768人主要事業船舶港湾、油空圧、流体、防衛・通信、その他2026年3月期売上高611.9億円2026年3月期営業利益53.6億円

企業情報は2026年3月末および調査基準日時点。

一言で表すなら、東京計器は次のような会社である。

船舶、防衛、産業機械、水インフラなどの顧客に対し、高精度な計測・認識・制御によって安全運航、正確な位置把握、省力化、設備制御を提供する企業。


130年の歴史は「輸入品の国産化」から始まった

東京計器の起源は、1896年に設立された和田計器製作所である。当時、日本が輸入に依存していた圧力計の国産化から事業を始めた。

1917年には株式会社東京計器製作所へ改組し、機械式計器だけでなく電気・光学分野へ進出した。このとき光学部門を分離し、三菱合資会社と共同で設立した会社が、現在のニコンにつながっている。

その後、東京計器は船舶用ジャイロ、油圧機器、流量計、防衛・航空機器などへ技術領域を広げた。

事業は一見ばらばらに見える。しかし、根底にある技術は共通している。

  • 物体や流体の状態を測る「計測」

  • 周囲の状況や位置を把握する「認識」

  • 機械や設備を意図どおりに動かす「制御」

東京計器の歴史は、特定の最終製品を大量生産してきた歴史ではない。顧客固有の厳しい要件へ対応し、計測・制御技術を複数のニッチ市場へ横展開してきた歴史である。


最大事業は防衛・通信だが、利益源は一つではない

2026年3月期の事業構成は次のとおりである。

事業売上高営業利益利益率船舶港湾機器136.8億円13.2億円9.6%油空圧機器118.4億円2.2億円1.9%流体機器54.1億円8.7億円16.1%防衛・通信機器260.2億円23.4億円9.0%その他42.5億円6.8億円16.1%

営業利益はセグメント間調整前。計算は営業利益÷売上高、小数第1位へ丸めた。

防衛・通信機器事業は、売上高の42.5%を占める最大事業である。航空機搭載機器、艦艇搭載機器、慣性航法装置、宇宙関連機器、移動体衛星通信用アンテナなどを扱う。

ただし、防衛事業だけが利益を生んでいるわけではない。

流体機器事業とその他事業の営業利益率は16%台で、防衛・通信機器事業を上回る。流体機器では官公庁や水インフラ向けの超音波流量計、ガス系消火設備などが収益を支えている。その他事業には、鉄道のレール探傷・軌道検測や検査機器が含まれる。

この構成は重要である。

東京計器は防衛需要の恩恵を受ける一方、防衛事業だけに依存した企業ではない。成熟したニッチ事業から利益を得ながら、防衛や新規領域へ投資するポートフォリオを持つ。

一方、油空圧機器事業の営業利益率は1.9%と低い。販売価格の適正化や高付加価値製品への移行は進んでいるものの、会社全体の資本効率を改善するには、この低収益事業の立て直しが欠かせない。


売上を決めるのは「受注量」と「売上化までの時間」

東京計器の売上構造は、一般的な量産型メーカーとは異なる。

概念的には次の式で整理できる。

売上高=過去の受注残の売上化+当期受注・当期売上分+保守・修理・更新需要

防衛機器、艦艇用機器、大型流量計、鉄道検測装置などは、受注から納入まで時間がかかる。受注高よりも、受注残の内容、納期、生産能力、検収時期が将来売上を左右する。

2026年3月期の全社受注高は646.5億円、期末受注残高は598.8億円だった。受注残は年間売上高の約98%に相当する。

特に防衛・通信機器事業の受注残は432.4億円で、同事業の年間売上高260.2億円の約1.7倍に達する。

これは将来売上の可視性を高める材料である。ただし、受注残の全額が翌年度に計上されるわけではない。複数年度にまたがる研究開発案件や長納期案件も含まれるため、売上化の速度を確認する必要がある。

また、防衛・通信機器事業の2026年3月期受注高は前期比23.5%減少した。前年度に大型開発案件を受注した反動が大きく、直ちに需要減退を示すものではないが、受注残だけを見て長期成長を直線的に延長するのは危険である。


東京計器の競合は、事業ごとに異なる

東京計器と事業構成が一致する上場企業は見当たらない。そのため、競合は事業別に考える必要がある。

競合・比較対象重なる領域東京計器との違い古野電気船舶用航海・通信機器船舶電子機器への集中度と海外サービス網が大きい日本無線/日清紡HD船舶用航海・通信、防衛・社会インフラ無線通信やシステムの事業領域が広い油研工業工作機械・産業機械向け油圧機器油圧専業で製品系列が広いアズビル工業用流量計・計測制御工場・建物のオートメーションを含む総合制御企業大手防衛電子企業艦艇・航空・通信・センサー研究開発資金と案件規模は大きいが、企業規模が異なる

古野電気は、航海機器、漁労機器、無線通信装置などを世界各地へ展開し、90カ国超の販売地域と多数のサービス拠点を持つ。東京計器にとって、船舶用電子機器では強力な直接競合となる。

日本無線を傘下に持つ日清紡ホールディングスは、マリンシステムとして船舶用航海機器と無線通信機器を展開する。東京計器の船舶・通信事業と重なる。

油空圧機器では、油研工業がポンプ、制御弁、サーボ弁、アクチュエーター、油圧ユニットなど幅広い製品を持つ。

流体計測では、アズビルが電磁流量計、差圧流量計、マスフローメーターなどを提供している。

東京計器の優位性は、各市場で常に最大の規模を持つことではない。複数分野のセンサー、慣性技術、制御技術を持ち、顧客の用途に応じて組み合わせられる点にある。

反対に弱点は、各市場で専業大手と競う必要があり、研究開発資源が分散しやすいことである。


競争優位性は「製品性能」より顧客工程への組み込みにある

東京計器の競争優位性は、次の因果関係で整理できる。

長期に蓄積した計測・制御技術
→ 顧客用途に合わせた設計と認証
→ 船舶・防衛・インフラへの組み込み
→ 交換や再評価に必要な時間とコスト
→ 継続採用、修理、保守、更新需要

故障が許されにくい用途

船舶の方位、航空機や艦艇の位置、河川や水道の流量、鉄道レールの傷といった情報は、安全性に直結する。

顧客にとって重要なのは、単純な購入価格の安さではない。

  • 必要な精度を維持できるか

  • 長期間安定して動作するか

  • 既存システムへ接続できるか

  • 故障時に修理・保守を受けられるか

  • 認証や試験をやり直す必要がないか

こうした用途では、新規参入企業が同等性能の製品を開発しても、採用実績、品質保証、長期供給、保守体制を短期間で再現するのは容易ではない。

船舶の設置台数が保守需要を生む

船舶用機器は、新造船向けの販売だけでなく、就航後の保守、修理、交換需要を生む。

2026年3月期の船舶港湾機器事業は、新造船向け機器と保守サービスの双方が堅調だった。一方、売上増加にもかかわらず、自動運航関連などの研究開発費が増えたため営業利益は15.1%減少した。

既存の設置基盤は安定収益の源泉となるが、競争力を維持するには次世代製品への投資も必要である。現在の利益を守るために研究開発を削れば、将来の自動運航市場で後れを取る可能性がある。

防衛事業は参入障壁が高いが、顧客集中も大きい

2026年3月期の防衛省向け売上高は132.5億円で、連結売上高の約22%に相当する。

防衛分野では、長い開発期間、試験、品質管理、情報管理、継続供給能力が参入障壁となる。その一方、主要顧客が国に集中するため、予算、調達時期、仕様変更、検収時期の影響を強く受ける。

高い参入障壁と高い顧客集中は、同じ構造の表裏である。


5年間で利益率は大きく改善した

東京計器の連結業績を5年間で見ると、2024年3月期以降に利益水準が明確に変化している。

単位は億円。営業利益率とROEは小数第1位へ丸めた。

3月期売上高営業利益営業利益率純利益ROE2022年415.116.43.9%14.94.6%2023年443.013.13.0%8.72.7%2024年471.727.75.9%22.86.5%2025年576.548.68.4%38.09.8%2026年611.953.68.8%40.19.3%

2022年3月期から2026年3月期までの年平均成長率は、売上高が約10.2%、営業利益が約34.6%だった。売上増加以上に営業利益が伸び、営業利益率は3.9%から8.8%へ上昇した。

利益率改善の主因は、防衛・通信機器事業の増収と採算改善である。2026年3月期は、本社移転に伴う費用や人件費増加を吸収し、営業利益を前期比10.4%増やした。

ただし、ROEは2025年3月期の9.8%から2026年3月期には9.3%へ低下した。利益は増えたが、棚卸資産、設備、純資産も増えたためである。

利益額だけでなく、増加した資産からどれだけ利益を生み出せるかが、次の課題となる。


最大の課題は、利益が現金へ変わっていないこと

営業利益は過去最高だが、営業キャッシュフローは弱い。

3月期営業CF2022年+22.6億円2023年▲28.3億円2024年▲28.4億円2025年▲4.6億円2026年▲1.6億円

2026年3月期は税引前利益52.6億円を計上したものの、棚卸資産が32.0億円増加し、法人税等の支払いも13.9億円発生したため、営業キャッシュフローは1.6億円の支出となった。

さらに、固定資産取得へ46.5億円を支出した結果、フリーキャッシュフローは53.1億円の赤字となった。現金及び現金同等物は75.5億円から39.5億円へ減少した。

これは直ちに財務危機を意味しない。自己資本比率は53.7%であり、純資産は461.6億円ある。

しかし、成長の質を見るうえでは重要な警告である。

受注が増える
→ 部材と仕掛品を先に確保する
→ 棚卸資産が増える
→ 設備投資も必要になる
→ 利益より現金回収が遅れる

この構造が一時的なら、納入と検収が進むことで在庫は減り、営業キャッシュフローが回復する。

反対に、納期遅延、仕様変更、部材滞留、生産能力不足が続けば、受注が増えても現金は増えない。

東京計器自身も、2024年3月時点で棚卸資産回転期間が219.4日まで長期化していることを課題として挙げ、在庫圧縮とCCCの改善を中期経営計画に盛り込んでいる。


成長投資を優先し、配当はまだ低い

東京計器は、株主還元より成長投資を優先する方針を明確にしている。

2027年3月期の設備投資計画は40.0億円、研究開発費は33.8億円である。設備投資の約半分は防衛・通信機器事業へ向けられ、油空圧機器事業でも生産コスト改善のための設備整備を計画している。

一方、年間配当は次のように増加している。

  • 2024年3月期:32.5円

  • 2025年3月期:35円

  • 2026年3月期:40円

  • 2027年3月期予想:48円

2027年3月期予想配当性向は15.8%である。

増配は続いているが、利益に対する還元率は高くない。投資家にとってのリターンは、配当よりも、設備投資と研究開発が将来利益へ結び付くかに左右される。


中期計画はすでに上方修正後の水準を超えた

東京計器は2024年度から2026年度までを、成長へ向けた「飛躍の期間」と位置付けている。

当初の2027年3月期目標は、売上高603億円、営業利益48.1億円だった。その後、大型防衛案件などを反映して、売上高683億円、営業利益55.8億円へ上方修正した。

現在の2027年3月期会社予想は次のとおりである。

指標2026年3月期実績2027年3月期予想増減率売上高611.9億円683.0億円+11.6%営業利益53.6億円64.0億円+19.4%営業利益率8.8%9.4%+0.6ポイント純利益40.1億円50.0億円+24.8%EPS243.75円304.27円―


営業利益64億円という予想は、上方修正後の中期目標55.8億円も上回る。

会社は、防衛・通信機器事業の大型研究開発案件、船舶需要、流体機器の拡販、油空圧機器の採算改善を見込んでいる。

注意点は、防衛・通信機器事業の売上が第4四半期へ偏る見通しであることだ。第1四半期や上期の利益が弱くても通期計画未達とは限らない一方、年度末の納入や検収が遅れた場合、業績への影響が大きくなる。


売上1,000億円への道は、防衛だけでは届かない

長期目標「東京計器ビジョン2030」では、2031年3月期に次の水準を目指している。

  • 売上高1,000億円以上

  • 営業利益100億円以上

  • 営業利益率10%以上

  • ROE10%以上


2026年3月期の売上高611.9億円から1,000億円へ到達するには、5年間で年平均約10.3%の成長が必要となる。

2027年3月期計画の683億円を達成しても、なお317億円の差が残る。

既存の防衛・船舶事業だけで埋められるかは不明である。会社は次の領域を成長ドライバー候補としている。

慣性センサーと無人化

MEMS半球共振ジャイロスコープなど、小型・高精度の慣性センサーを開発している。航空、船舶、防衛、無人機、鉄道などへの展開可能性がある。

宇宙・衛星通信

マイクロ波応用機器や衛星通信アンテナなど、既存の通信技術を宇宙領域へ広げている。宇宙関連売上は増加が見込まれるが、案件単位の変動が大きく、現時点で独立した大規模収益源とは確認できない。

エッジAI

独自デバイス「DAPDNA」や画像鮮明化技術を活用し、ネットワークへ常時接続せず現場側で画像を処理するエッジAIへ取り組む。ロジック・アンド・デザインへの出資も、この分野の製品開発を補完する。

水素・エネルギー

油圧技術を応用した水素圧縮装置や小型水素ステーションを成長候補としている。

鉄道検測

超音波レール探傷に加え、慣性式軌道検測装置などへ製品範囲を拡大している。

これらは成長の選択肢ではあるが、売上1,000億円を支える規模へ成長した事実はまだない。

したがって、2030ビジョンを評価する際には、研究開発テーマの数ではなく、新規事業売上、受注、顧客採用、営業利益を確認する必要がある。


株価には相応の成長期待が織り込まれている

2026年8月3日の終値は6,820円だった。年初来高値は9,540円、年初来安値は4,850円であり、株価変動は大きい。

会社予想EPS304.27円を使用すると、予想PERは次のようになる。

6,820円÷304.27円=約22.4倍

2026年3月期BPS2,770.05円を使用したPBRは約2.46倍、予想配当48円に対する配当利回りは約0.70%である。

この水準を、単純に割安とは評価しにくい。

営業利益が過去最高で、翌期も約19%の増益を計画していることを考えれば、高い倍率には一定の理由がある。

一方、予想PER22倍台、PBR2倍台半ばという評価を維持するには、次の条件が必要になる。

  • 防衛受注残を予定どおり売上化する

  • 営業利益率を9~10%で維持する

  • 在庫を減らし、営業キャッシュフローを黒字化する

  • 2028年3月期以降も成長を続ける

  • 新規事業が研究開発段階から収益段階へ移る

業績が会社計画どおり伸びても、将来成長率が市場期待を下回れば、PERの低下によって株価が上昇しない可能性がある。

企業としての成長性と、現在の株価の魅力は別の問題である。


Bull・Base・Bearシナリオ

シナリオ主な条件業績への影響Bull防衛案件の納入が順調、船舶需要継続、油空圧の利益率改善、在庫減少売上・利益が計画超過し、営業CFも大幅黒字化Base会社計画に沿って受注残を消化、研究開発費と人件費を増収で吸収2027年3月期は増収増益、利益率9%台Bear納入・検収遅延、部材高、船舶価格競争、在庫滞留、次年度受注減利益未達、FCF赤字継続、評価倍率低下

Bullケース

防衛装備品の納入が計画どおり進み、原価率も改善する。船舶港湾機器では新造船と保守需要が続き、油空圧機器では設備再編と価格適正化によって利益率が改善する。

同時に棚卸資産が減少すれば、利益成長に加えて営業キャッシュフローも回復する。東京計器が「受注成長企業」から「利益と現金を生む成長企業」へ移行するケースである。

Baseケース

2027年3月期は会社計画に近い売上高683億円、営業利益64億円を達成する。ただし、設備投資と研究開発を継続するため、フリーキャッシュフローの改善は段階的となる。

防衛と船舶が成長を支える一方、2030年の売上1,000億円には新規事業の拡大が必要という状態が続く。

Bearケース

防衛案件の納入や検収が年度末に遅れ、売上が翌年度へずれ込む。部材費、人件費、減価償却費が先に増え、営業利益率が低下する。

新造船市場では中国企業との価格競争が強まり、船舶港湾機器の収益性も悪化する。棚卸資産が減らず、追加借入が必要となる。

業績が悪化しなくても、次年度以降の受注が伸びなければ、将来成長への期待が低下し、バリュエーションが切り下がる可能性がある。


最大のリスク

防衛事業への成長依存

防衛・通信機器事業は売上高の4割超を占める。政府予算、調達計画、検収時期、仕様変更の影響を受ける。

受注残を売上へ変換できないリスク

受注残が多くても、部材不足、生産能力不足、品質問題、納期遅延があれば売上にならない。防衛事業では特に年度末への集中が大きい。

在庫とキャッシュフロー

利益が伸びても在庫が増え続ければ、借入依存が高まり、成長投資や株主還元の余力が低下する。

船舶市場の価格競争

会社は中国製高性能ジャイロコンパスの台頭を競争要因として認識している。新造船向け案件は保守サービスより価格競争が激しく、売上が増えても利益率が低下する可能性がある。

油空圧機器の低収益性

営業利益率は2%弱にとどまる。設備投資を行っても生産性や製品ミックスが改善しなければ、投下資本に見合う利益を生まない。

新規事業の収益化

AI、宇宙、水素などは成長テーマとして魅力的だが、研究開発が売上と利益へ転換する保証はない。テーマ数が増えるほど、研究開発資源が分散する可能性もある。

バリュエーション

株価には増益と防衛需要への期待が一定程度織り込まれている。会社計画を達成しても、その先の成長が見えなければ株価評価が低下する可能性がある。


次回決算で見るべきKPI

次回の第1四半期決算は2026年8月10日に発表予定である。

防衛・通信機器の売上高と営業利益

年度末偏重の計画であるため、第1四半期の絶対額だけで判断しない。ただし、前年同期比の原価率や赤字幅が悪化していないかは確認したい。

防衛・通信機器の受注高と受注残

受注残の減少が売上化によるものか、新規受注不足によるものかを分ける。大型案件の反動だけでなく、2028年3月期以降の売上を支える案件が獲得できているかが重要となる。

棚卸資産

受注増に備えた在庫であっても、売上以上のペースで増え続ける場合は注意が必要である。受注残の売上化とともに仕掛品が減少するかを見る。

営業キャッシュフロー

利益よりも重要なKPIである。営業キャッシュフローが黒字へ戻り、在庫増加による資金流出が縮小すれば、投資仮説は強まる。

船舶港湾機器の受注と利益率

新造船需要と保守需要の継続性を確認する。売上が増えても利益率が低下する場合、新造船向けの価格競争や研究開発負担が想定以上である可能性がある。

油空圧機器の営業利益率

設備投資、価格適正化、高付加価値製品への移行が、実際の利益率改善へつながっているかを見る。

設備投資・研究開発費

支出額だけでなく、防衛の生産能力、新製品受注、油空圧の原価低減など、具体的成果へ接続しているかを確認する。


投資仮説が崩れる条件

本記事の投資仮説は、次の事象が確認された場合に見直す必要がある。

  • 防衛・通信機器の受注高が複数四半期にわたり低迷し、受注残が売上化以上の速度で減少する

  • 防衛案件の納入・検収遅延が繰り返され、通期売上計画を達成できない

  • 棚卸資産が売上成長率を上回って増え続け、営業キャッシュフローの赤字が解消しない

  • 営業利益率が売上増加にもかかわらず8%を継続的に下回る

  • 船舶港湾機器の受注は増えても、価格競争で利益率が大きく低下する

  • 油空圧機器の設備投資後も利益率が改善しない

  • AI、宇宙、水素などへの研究開発投資が、受注や売上へ結び付かない

  • 中期計画達成後の成長目標が示されず、2030年の売上1,000億円との間に根拠のない空白が生じる

  • 高いバリュエーションのまま、利益成長率が一桁へ低下する

  • 品質問題や納期問題により、長期採用と顧客信頼という競争優位性が損なわれる


まとめ

東京計器は、単純な防衛関連銘柄ではない。

船舶、防衛、流体計測、油圧、鉄道といった複数のニッチ市場で、計測・認識・制御技術を顧客工程へ組み込んできた企業である。

2026年3月期までの5年間で、売上高は415.1億円から611.9億円、営業利益は16.4億円から53.6億円へ成長した。営業利益率も3.9%から8.8%へ上昇している。

防衛・通信機器事業の受注残は高く、2027年3月期も過去最高益を更新する可能性がある。

しかし、投資家が最も注意すべき数字は営業利益だけではない。

棚卸資産、営業キャッシュフロー、設備投資、受注残の売上化速度である。

東京計器の成長ストーリーが完成するのは、受注が増えたときでも、利益が過去最高になったときでもない。

受注残を売上へ、売上を利益へ、利益を現金へ変換できたときである。

企業としての競争力は高まりつつある。一方、2026年8月3日時点の株価には相応の成長期待が織り込まれている。

今後は、防衛予算の増加そのものより、受注、生産、在庫、検収、現金回収までの一連のプロセスを追うことが、東京計器を正しく評価するための鍵となる。


調査基準日

2026年8月3日

主な参照資料

  • 東京計器「2026年3月期 有価証券報告書」

  • 東京計器「2026年3月期 決算短信」

  • 東京計器「2026年3月期 決算説明会」

  • 東京計器「2024-2026年度 中期経営計画」

  • 東京計器「東京計器ビジョン2030」

  • 東京計器「株主還元」

  • 防衛省「令和8年度予算 防衛力の抜本的強化の進捗と予算」

  • 古野電気「統合報告書2025」

  • 日清紡ホールディングス「無線・通信事業」

  • 油研工業「油圧機器製品情報」

  • アズビル「流量計製品情報」

  • 2026年8月3日時点の東京証券取引所株価情報

読者向けの未確認事項・制約

防衛装備品の品目別採算、契約単価、数量、納期などは公開情報が限られるため、本記事ではセグメント単位の開示を使用した。競合比較は事業別に行っており、各社の連結利益率を単純に比較できるものではない。2027年3月期第1四半期決算は調査基準日後の2026年8月10日に発表予定であり、本記事へは反映していない。

免責事項

本記事は、調査基準日時点の公開情報に基づく企業研究であり、特定の有価証券の購入、売却または保有を推奨するものではありません。将来の業績、株価、配当および各計画の実現を保証するものではなく、情報の正確性・完全性も保証しません。投資判断は、最新の開示資料を確認したうえで、読者自身の判断と責任により行ってください。

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