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今回はわが子が不登校になって、初めての夏休みの体験をお話しします。



徳島に来た


十数年前のこと、高速バスが止まると私たちは初めてこの土地に降りた。

徳島県鳴門 ー ここでは私たち親子のことを知る人は100%いない。
それだけでも開放感は十分にあった。


ここも家の近所と同じなんやね!
駅前にあるチェーン店のご飯屋さんを見て息子は言った。

まだガラケーを使い始めたばかりの
あの時の中2の息子は、四国という土地をどのように思っていたのだろう。

息子からこの言葉を聞けただけでも、来た甲斐があったと感じた。
そう、日本は広い。こんなに遠くに来ても普段とさほど変わらずに暮らして行ける ー

あの小さな街で窮屈に暮らすのが嫌になれば、どこかほかの街で暮らしてもいいのだ。

このまま学校に行けなかったとしても、誰も知らない土地で自分をもう一度始めることもできる。

そんなことに気が付いてくれたらいいなと思った。

わが子は自分が育った地元と、おばあちゃんの家のある街しかよく知らない。

普段は大体が車移動だったし、通り過ぎる街の景色を人が暮らす場所として、見ていたのかどうかもわからない。

何はともあれここまで来た。
ご飯を食べたら、前もって調べておいた自転車屋さんで自転車を買うことになっている。


お遍路参りの旅へ

この旅のキッカケは … 随分前に見たあるTV番組だった。

不登校の(または不登校だった…)青年がマイwifiとパソコンを持ち、たった一人でお遍路参りをする旅を特集していた。

私の記憶では、まだ十代半ばくらいの若者だったと思う。

このお遍路の沿道では “お接待” といって、地元の人がお遍路さんに食べ物ををふるまったりする風習があるそうで

青年は地元の人達とのやり取りを通して人々の温かさに触れた。初めは心細そうだったのが、だんだんたくましくなっていく様子が印象的だった。

こういう心の回復の仕方もあるんだね、という応援の気持ちで見ていた私は、その時わが子が不登校になるとは微塵も思っていなかった。


お遍路とは

平安時代初期の僧侶である 弘法大師 (こうぼうだいし)さまが修行された、四国にある八十八箇所のお寺(霊場・札所)をお参りする旅のことです。

正式名称は「四国八十八箇所しこくはちじゅうはっかしょ」で、ほかにも “四国(お)遍路”、 “四国巡礼”、“四国巡拝”ともいわれ、巡礼者のことを「お遍路さん」と呼びます。

弘法大師さま縁りの四国八十八箇所のお寺を巡るお遍路は、人間が持つとされる88の煩悩を一つずつ消して心を清淨にしていき、功徳を積み、願いが結ばれるとされています。

ワゴコロ https://wa-gokoro.jp/tourism/Shrines-temples/725/ 


春に不登校になってから初めての夏休み
これまでの3ケ月間は本当に大変だった。

はじめの頃は昼も夜も寝ていることが多かった長男は、この頃になると少し元気になってきた様子。
次男はまだ不登校ではなかったけれど、二人を連れてここに来ようと思っていた。

夫は仕事があったし結局次男は行きたくないと言ったので、二人は義実家にお世話になることになった。

外に出て日光に当たるのは “幸せホルモン” のセロトニンを増やす。
またリズム運動も同様の効果があると本で読んだので、自転車が最適だと思った。

夏の炎天下はどうだろう
無理せずにできる範囲でやってみよう

とにかく気分を変えたかった。
長男を連れだすこともあったけど、私がもうギリギリだった。

何かが 変わるのかどうかは分からない
これからわが子が出会うものと、見えない何かが化学反応を起こし別の何かを生むかも知れない。

全天候の備えをして出かけよう。

あとは行ってから考える。
決めたのは自転車を買う店と、帰りに自転車を買い取ってもらえる店。


宿泊はお遍路さんの泊まる宿やホテルが点在しているし、その日の午前中なら予約が取れるようになっているらしい
私達にとって、旅というよりは殆ど冒険に近い。


人間切羽詰まった時は、結構大胆に行動できるものだと自分でもびっくりする。


ママチャリでまわる

自転車をゲットしてスタートした。
手元の地図を見ながら先ずは一番札所『霊山寺』を目指す。

( 因みに八十八番札所『大窪寺』までの総距離は1200キロ、人間の足で歩くと40日から50日かかるらしい )

当時現地で手に入れた地図


炎天下を想像していたけれど、幸運なことに台風の影響で曇り空だった。 

台風と言っても太平洋のはるか南の方を進むらしく、直撃するようなことにはならない予報だ。そうなるならまず中止するに決まっている。


大きな通りを携帯の地図通りに進む。
初めは私が先導していた。
現地が近づくと細かい場所や近くの店をチェックした。


その検索は息子の方が早くて正しい
(スマホはまだ世に出回っていない時代で)ガラケーを自転車を止めて時々チェックするうち、私が後をついて走るようになった。


一番札所では必要なものを揃えることができた。
本格的にキチンと参るというよりも
雰囲気を味わう程度で良いと思った。
その気持ちもちょっと中途半端。


とりあえず 御朱印帳納札を買った。
白衣(はくえ)輪袈裟(わけさ)すげ笠 のような、お遍路参りをしていると一目でわかるものは今回はいらないと思った。

お参りの仕方にも手順がキチンとある…というのも後から知った。

私達がしたことは

1.  門前で一礼
2.  手水場で手と口をすすぐ
3.  本堂でロウソクと線香をあげる(※1)
4.  わにぐちを鳴らす (※2)
5.  納札を納札箱に入れる
6.  さい銭をあげる
7.  経本を見ながら読経する
8.  納経所で御朱印をいただく

※1 本堂で行った3~6は大師堂でも同じことをするそうです。
※2『わにぐち』とは、さい銭箱の前に下がっている太い縄です。

何だかそれらしいことが出来ている
かたちから入る
そうかもしれない

真夏のお遍路は歩く人も少ない
私たちも当然、全部の札所をまわるつもりではない。

今度来るときは、わが子も自分の意志で来るべきだし

私もこういうかたちで来たものの、本当に来るべきは今じゃないということがわかっていた。

朝は早いうちに出発して、日が高く昇り気温が上がってくると長めの休憩をとった。


誰に言われたわけでもない。
それでも走る
ひたすら走る
汗と一緒に煩悩が消えたかどうか
それはわからない

でも・・・
御朱印が増える度に前に進んでいると思えた。


お寺が閉まるのは夏場は17時。その時間にどの辺りにいるのかを計算して午前中に今日の宿泊場所を予約する。


熱い夏のこと
お遍路参りはシーズンオフで
出会う人がまばらだった


お参りの段取りもだんだんと慣れ
あっという間に3日目になった。


確かにこの旅のあいだは、日常を忘れられた。
核心をついた話はせずに、この行程をこなすことに集中していた。
夜は明日の予定をチェックして、あとはバタンキュー。


3日目の後半あたりから息子が身体の不調を訴えていた。

この3日間は飲み物を制限していない。
コンビニに寄るたびに何かしら好きな物を買っていたから、とうとう胃の方がくたびれて来たみたいだ。

3ヵ月自宅に籠りきりだったわが子の体力に限界が来た。

「帰ろうかー」
どちらともなくそう言った。


2日半の移動は
一番札所から十一番札所まで

      
累計距離 (㎞)
1番        霊山寺      ー
2番        極楽寺      1.4 
3番        金泉寺      4.0
4番        大日寺      9.0    
5番        地蔵寺      11.0 
6番        安楽寺      16.3
7番        十楽寺      17.5
8番         熊谷寺     21.7
9番         法輪寺     24.1
10番        切幡寺     27.9
11番        藤井寺     37.2

鳴門から計算すると、これまでの移動距離は大体40キロくらいになる。


最終日の明日は、帰りのバスのチケットは徳島駅発のものが取れた。宿泊する(藤井寺近くの)宿から徳島駅に行く間に通る寺をお参りしよう。

翌朝、お昼過ぎのバスに間に合うように出発する。

16番 観音寺
17番 井戸寺
    ↓
   徳島駅 

最終日の移動距離はおよそ20キロ


予定の行程を終え、ギリギリ高速バスに乗った。

明日からのことは帰ったら考えよう。


感想

無事に帰れたのでまずはホッとした
心配した色々なことは案外大丈夫だった

行き当たりばったりのこの旅にどんな意味があったのか…

でも気分をリセットできた。

これからもきっとまた、同じような気持ちが押し寄せてくるだろう。

一日いちにちを、淡々とただ生きるのみだ。

この時以来、お互いにこの旅の話をすることは未だにない。


記録

各お寺では お経を奉納した証として
御朱印と御影(みかげ・おすがた)をいただくことができます。
このことを納経というそうです。

《御朱印》

一番 霊山寺
御朱印帳半分の頁には、各お寺の挿絵と詠まれた歌が印刷されています

御朱印帳
二番以降の “お寺の挿絵” は省略しますね。

《御影》みかげ・おすがた
ご本尊様の分身です


四国はとても水が綺麗なところでした
飲めるのではないかと思うくらい綺麗な水が流れる用水路の、壁にびっしり張り付く鮮やかなピンク色の貝がとても印象的でした。

十数年以上経ってこの記事を書いて
旅の意味があったとわかりました。
それについてもまたいつか、お話したいと思います。



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