ナインクラブ テネミーの挑戦 シーズン1第9話イタリア系オーストラリア人
あらすじ
15歳のテネミー・スカイ・サークルエアは、ストリート・リーグ・スケートボーディングでの世界制覇を夢見るスケーター。メルボルンの練習場で、圧倒的なスピードを武器に14歳のイタリア系オーストラリア人、ロイエル・シー・エディエルと出会う。ライバルの出現に刺激を受けたテネミーは、世界大会への道を切り開くため、新たな一歩を踏み出す。
登場人物
テネミー・スカイ・サークルエア

15歳。170cm。スリム。AB型。金髪。オーストラリア国内ナンバーワンの実力を持つ女子高校生スケーター。SLS専門。
ロイエル・シー・エディエル

14歳。170cm。スリム。B型。イタリア系オーストラリア人。スピード重視で荒削りだが迫力のあるトリックを得意とする。
もくじ
出会いと衝撃の滑走
呼応する速度
シドニーへの戦略
夢への計画
1出会いと衝撃の滑走
爽やかに晴れ渡った空の下、15歳のテネミー・スカイ・サークルエアは、いつものように愛用のスケートボードで、メルボルンの屋外練習場へ。

午前中の澄んだ空気が心地いい。お気に入りのスニーカーの紐を締め直し、キャップを被り直す。オーストラリア国内ナンバー1という周囲の評価に甘んじることなく、今日も新しいトリックの精度を上げるつもりだった。
しかし、エリアのゲートをくぐり、コンクリートの路面にボードをドロップしようとしたその瞬間。 テネミーの身体は、言葉の通り釘付けになった。
「――速い!」
思わず心の声が口から漏れる。 視線の先、セクションの間を猛烈なスピードで縫うように滑り抜ける、1人の少女の姿があった。
その滑走音は、テネミーがこれまでに聞いた誰の音とも違っていた。 風を激しく切り裂く「シューッ!」という鋭い高音。それに続いて、ウィールがコンクリートを力強く捉えるゴツゴツとした重低音が、練習場全体に響き渡っている。

滑っているのは、14歳のロイエル・シー・エディエルだった。 170cmのスリムな体躯。風になびく髪と、情熱的なイタリア系の血を感じさせる意志の強い瞳が印象的だ。 普通なら恐怖で身体が縮こまるような超高速のスピード域。にもかかわらず、彼女のフォームには1ミリの迷いもなかった。重心を極限まで低く保ち、ハイスピードのままR(傾斜)を駆け上がり、オーリーで空中へと飛び出す。

ミスをすれば大けがに直結する速度だ。しかし、ロイエルは怯むどころか、むしろそのスピードを楽しんでいるかのように、大胆不敵な笑みを浮かべているようにさえ見えた。
(男性のトップライダーでも、ここまでのスピードを出せる奴はなかなかいない……!)

テネミーの胸の奥で、ドクドクと激しい鼓動が刻まれ始める。 圧倒的な才能を目の当たりにした恐怖。いや、違う。それは、まだ見ぬ強敵に出会った興奮だった。その荒削りながらも圧倒的な迫力を放つロイエルの滑りから、テネミーは一瞬たりとも目が離せなくなっていた。
2呼応する速度
ロイエルが放った圧倒的な熱量に、テネミーの闘争心が完全に火を噴いていた。 「……見てるだけなんて、性に合わない」 テネミーは小さく呟くと、愛用のボードをコンクリートの路面にドロップした。
170cmのスリムな身体を深く沈め、いつもより意識的に強く路面をプッシュする。1回、2回。加速するごとに、顔を叩く風が冷たく、鋭くなっていく。これほどのスピードで障害物にアプローチするのは、テネミーにとっても未知の領域、恐怖との戦いだ。しかし、不思議と足元がすくむことはなかった。すぐ近くで、ロイエルのあの激しい滑走音が響いているからだ。

(スピードなら、私だって負けない……!)
視線の先に、狙いを定めたハンドレール(手すり)のセクションが迫る。 テネミーは驚異的な集中力で、ボードと自らの身体の軸を完全にコントロール下に置いた。
助走をつけて、絶妙なタイミングでテールの末端をコンクリートに叩きつける。 「パチン!」 静まり返った練習場に、硬質で、あまりにもクリアな破裂音が響き渡った。

テネミーの身体がボードとともに宙へと舞う。空中での彼女の姿は、まるで時間が止まったかのように洗練されていた。金髪が鮮やかに翻り、ボードが空中で華麗に、そして正確に1回転する。ロイエルの野生的な迫力とは対照的な、緻密に計算され尽くしたテネミーの技術(スキル)が光る瞬間だった。
重力に引かれ、路面へと急降下する。 「ガタン!」 ウィールが地面を捉えた瞬間、想定以上の速度による強い衝撃がテネミーの膝を襲った。上半身が一瞬グラリとふらつき、冷や汗が背中を伝う。
しかし、テネミーは持ち前の体幹の強さとAB型らしい冷静さで、瞬時に重心を中央へと戻した。 ボードのブレを力ずくでねじ伏せ、滑らかな滑走へと移行する。なんとか着地を成功させたのだ。
大きく息を吐き出しながら振り返ると、そこにはいつの間にか滑りを止め、驚きの表情でこちらを見つめるロイエルの姿があった。2人の視線が真っ直ぐに交錯する。言葉はなくても、お互いの実力を認め合った瞬間だった。
3シドニーへの戦略
激しいセッションを終えたメルボルンの練習場には、少しずつオレンジ色の夕暮れが忍び寄っていた。 心地よい疲労感に包まれたテネミーとロイエルは、コート脇にある木製のベンチに並んで腰を下ろした。ついさっきまで火花を散らしていた2人の間には、不思議と departure(出発)を共にする comrades(同志)のような、爽やかな空気が流れている。
「はい、これ。よく冷えてるよ」 テネミーはバックパックから取り出したスポーツドリンクのボトルをロイエルに手渡した。 「グラッツィエ! 助かる!」 B型らしいフランクさでボトルを受け取ったロイエルは、14歳らしい無邪気な笑顔を見せ、喉を鳴らして一気に飲み干した。170cmの長い脚を投げ出して座る彼女は、滑っている時の野生的な迫力とは裏腹に、どこかあどけなさが残る。

テネミーは息を整えながら、膝の上にタブレットを開いた。画面に映し出されているのは、シドニーの予備予選会場のマップと、メルボルンからの航空便の時刻表だ。
「ここがSLS予備予選の特設パーク。路面はコンクリートだけど、メルボルンよりセクションの傾斜が急みたい。私たちのスピードを活かすなら、このバンク(傾斜)でのアプローチが鍵になるね」 テネミーが画面を指さしながら冷静に分析を述べると、ロイエルは熱心に画面を覗き込み、力強く頷いた。 「なるほどね。あの高いハンドレール、私のスピードなら一発で飛び越えられる。でも……」
ロイエルは時刻表の横に表示された航空券とホテルの金額に目を留め、少しだけ眉をひそめた。 15歳と14歳。世界制覇を夢見るトップスケーターであっても、中身はまだ保護者の扶養下にある学生だ。
「宿泊施設や遠征費、親と相談しないと厳しいかもね」 テネミーが現実的な壁を口にすると、ロイエルも同意するように深く溜息をついた。 「だね。うちのマミィとパピィも、成績が伴わなきゃ財布の紐は締めたままだ。でも、今回のシドニーは何が何でも行かなきゃ」
2人はタブレットの画面を見つめ合い、お互いの連絡先と、遠征費を捻出するための「親へのプレゼン作戦」の情報を交換した。世界大会という共通の、そしてあまりにも巨大な目標に向けて、2人は確かな一歩を踏み出しつつあった。すっかり日の落ちた練習場を後にする2人の影は、長く、力強く伸びていた。
4夢への計画
夜、テネミーの部屋は、デスクライトの柔らかな光に照らされていた。 壁にはお気に入りのSLS(ストリート・リーグ・スケートボーディング)のポスターが貼られ、部屋の隅には、今日何度もコンクリートを叩いた愛用のボードが静かに佇んでいる。

テネミーは机に向かった。 開いたのは、毎日の習慣にしている1冊の日記帳だ。ペンを握ると、昼間にメルボルンの練習場で味わったあの凄まじい風の感触と、耳の奥に残る「シューッ!」という滑走音が鮮烈に蘇ってきた。
少し高鳴る鼓動を抑えながら、テネミーは白いページに文字を刻み込んでいく。
「今日、すごいライバルに出会った。彼女の名前はロイエル。14歳で、信じられないくらいのスピードで滑るイタリア系の女の子。彼女の滑りを見た瞬間、身体が震えた。でも、負けたくない。彼女に負けないために、私はもっと速く、もっと正確にトリックを決められるようにならなきゃいけない」
そこまで書いて、テネミーは一度ペンを止め、ふう、と小さく息を吐いた。 頭をよぎるのは、夕方にロイエルと一緒にタブレットで確認した、シドニーへの遠征計画だ。航空券、3泊分の宿泊費、現地での食費や機材の予備費用。15歳の高校生が簡単に用意できる金額ではない。
(近いうちに遠征費を含めて、ちゃんと親に相談しなければならない。明日、夕食の後に時間を取ってもらおう……)
説得のための材料は、ノートの端に数字を書き出して整理してある。親に頭を下げるのは緊張するし、世界大会、そしてその先にある金メダルへの道のりは気が遠くなるほど険しい。
しかし、テネミーの心に不安はなかった。 日記帳をパタンと閉じ、ベッドに寝転んで天井を見上げる。胸の奥から湧き上がってくるのは、確かな手応えと、未来への純粋なワクワク感だった。
強いライバルが隣にいる。それだけで、世界が何倍も輝いて見えた。テネミーの心は、まだ見ぬシドニーの青空と、夢への希望でどこまでも満たされていた。
あとがき
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
今回の第9話は、主人公テネミーにとって、そして物語の今後を占う上でも、非常に大きな転換点となるエピソードでした。
これまでオーストラリア国内でトップの実力を誇り、どこか孤独にストイックな道を歩んでいた15歳のテネミー。そんな彼女の前に現れたのが、圧倒的なスピードと野性味あふれるスタイルを持つ14歳のイタリア系オーストラリア人、ロイエルです。
全く異なる個性を持ち、数字の上でも年齢や体格が絶妙にリンクする2人の出会いは、単なる「ライバルの出現」に留まりません。お互いの滑り(音や速度)に身体の芯から呼応し、10代ならではのリアルな壁――遠征費や親の説得という現実――に直面しながらも、同じ「世界制覇」という巨大な夢に向かって視線を交わす。そんな瑞々しくも熱いアスリートたちの連帯感を、情景描写とともに丁寧に描くことを意識しました。
テネミーとロイエルの出会いは、これから始まる壮大な物語のほんの始まりに過ぎません。 15歳と14歳の少女たちが、スケートボードを通して互いを高め合い、どのように成長して世界(SLS)の舞台へと羽ばたいていくのか。そして次なる関門、シドニー予備予選への切符をどのように掴み取るのか。
彼女たちの「夢への計画」の行方を、これからも温かく、そして熱く見守っていただければ幸いです。
制作クレジット
■ 作品タイトル 『ナインクラブ テネミーの挑戦』 シーズン1 第9話「イタリア系オーストラリア人」
■ 著作者表記
原案・原作:寄藤 淳
生成支援:Gemini
最終編集:寄藤 淳
■ 免責事項(フィクションの規定)
この物語はフィクションです。
作中に登場する人物、団体、場所、名称、各種設定などはすべて架空のものであり、実在の人物、団体、事件などとは一切関係ありません。
作中の専門的なスケートボードの技術描写やルール等は、物語の演出上の表現が含まれています。
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