ゼレンスキー政権の「親ロ政党禁止法」その後、ポーランドの新法-それは両国だけにとどまるのか?-

おことわり
今回の記事は「『親ロ派』『ロシア寄り』のレッテル張りの危険性」という記事の続編です。本来はすぐに書く予定でしたが、反転攻勢・ダム決壊・火薬輸出問題と相次いだため時間が空いてしまったことを最初に述べておきます。

ノルドストリーム爆発、ポーランド拠点に破壊工作か 独が捜査=WSJ | Reuters(6/11)
「[10日 ロイター] - 米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は10日、ドイツの捜査当局が昨年9月に起きたロシアから欧州に天然ガスを送る海底パイプライン「ノルドストリーム」の爆発について、破壊工作を実施したグループがポーランドを活動拠点としていた可能性を示す証拠を検証していると報じた。同紙によると、当局はノルドストリームの爆発に関与したとされる船舶「アンドロメダ」の2週間の航海を完全に再現。この船舶が目標から外れてポーランドの海域に入ったことが無線・航行装置などのデータで示されたという。」(上記記事より直接引用)
  米紙が報道したから真実とは単純に考えませんが、先日のワシントンポストの報道、今回の報道から、爆破当初しきりに言われていた「ロシア政権による自作自演」は完全に消えたと思います。ノルドストリーム爆破はロシア政権にとって損害が大きいですから、「自作自演」はおかしいわけですが、かなりそちらに誘導されたと思います。
 ノルドストリーム問題とダム破壊問題をからめて論じた興味深い論考として舛添氏の下記のものがあります。
【舛添直言】ウクライナのダムを破壊したのは誰か、双方が情報操作で火花 ノルドストリームを破壊したのはロシアではなかった、もしかするとダムも…(1/5) | JBpress (ジェイビープレス) (ismedia.jp)(6/10)
 ダム破壊によりウクライナだけでなくロシアもデメリットを受けています。
「「嘘をつくのはロシアで、ウクライナやアメリカやイギリスの言うことが100%正しい」などと信じている無邪気な国民は日本人だけである。戦争は、情報戦であり、とくにSNSが発達した現在では、情報を制するものが勝利する。嘘は当然の手段である。」とは舛添氏の上記論考の言葉です。双方相手の攻撃と非難しあっていますが、現時点では原因は不明です。今は非難は、背景にあるロシアの侵略占領にとどめ、まず人命救助・被害拡大阻止を関係各国は最優先すべき、そのためにも即時停戦と主張します。

 まず、表題のテーマと関連して下記のようなことが生じていることを紹介したいと思います。
野口和彦(Kazuhiko Noguchi)さんはTwitterを使っています: 「スワンソン氏「オーストリア・ウィーンでの国際平和会議が始まる48時間前に、開催が突然キャンセルされた。平和について、特にウクライナの平和について、議論することはできないようだ…会場のオーナーはこう説明したという。"ウクライナとオーストリアで活動するウクライナ大使館の意向に従うことにし、来週末のイベント『ウクライナ平和のための国際サミット』のためのÖGBカタマランの全室のレンタルをキャンセルしました。" オーストリアのウクライナ大使は、平和活動家が第5列でありロシア政府の子分であるとツイートしたのだ。そして、ウクライナ政府の意向に全世界が従わなければならないという考えを作ったのは誰なのか。それは米国政府である。 これらの検閲で示される見解においては、戦争当事者の両方に反対することは、片側に反対するのと同じくらい受け入れられない。ここが私たちがたどり着いた場所なのだ。平和のための交渉を提案することは…戦争支持者にとっては非常に受け入れがたく、どんな大きな集会でも、議論することができない。しかし『民主主義』の名のもとに戦争が行われているにもかかわらず、このような検閲が、民主主義によって、どのように実行され、民主主義の価値観と一致して行われているのかは、明らかではない」。」 / Twitter
 ゼレンスキー政権が「ロシア政府の子分」と決めつけるとなぜそれが正しいとなってしまうのでしょうか?またなぜゼレンスキー政権の判断・意向にみなが従わなければならないのでしょうか?こうした動きが生じていることを強い危惧と批判を込めて最初に指摘しておきます。
 ゼレンスキー政権は昨年3月下記のような措置をとりました。
ウクライナ安保会議、親露政党の活動を禁止を指示 (ukrinform.jp)(22年3/20)
  これにより親ロ政党として活動禁止とされたのは、「野党プラットフォーム・生活のため党(野党生活党)、シャリー党、私達党、野党ブロック党、左野党党、左派同盟党、国家党、ウクライナ革新社会党、ウクライナ社会党、社会主義者党、ヴォロディーミル・サリド党」です。率直にいってウクライナに野党第一党を含めこれほど多くの親ロ政党が存在していたとは思えない、そもそもウクライナの議会に議席を有する政党でロシア政権による侵略容認の政党などなかったはずです。
 その後「親ロ政党禁止法」の制定へと進みます。
ゼレンシキー宇大統領、親露政党禁止法に署名 (ukrinform.jp)(22年5/14)
 そして野党第一党は活動禁止・資産差し押さえ、そのほか10政党が禁止されました。
ウクライナ、親ロ政党の活動禁止 資産差し押さえ 写真6枚 国際ニュース:AFPBB News(22年6/21)
 野党第一党の同党はロシア政権による侵略は容認などしておらず非難していたはずです。そして与党に次ぐ議席、つまりそれだけの支持を集めていたわけですが、禁止されました。結局現在ウクライナにおいては与党以外事実上すべて禁止されている状態となりました。
 「国家緊急時には人権制限は許容される」との議論がありますが、そうした形式論ではなく、実際にどのように運用されているか、という視点でみるべきです。そうであればやはり「政敵つぶし」となってしまっていることは否定できないのではないでしょうか。
 この記事の最初の写真には、野党第一党の設立者の有罪を求める市民が、たいまつをもって集まっている風景が写っています。「ウクライナの文化」なのかもしれません。しかし「政治集会とたいまつ」という組み合わせはどうしても「ナチス」を思い起させるもので、この写真をみたとき不気味に感じたことは否定できません。
 またこの記事は、野党第一党を「親ロ政党」と当然のようにレッテル張りしていますが、同党を「親ロ政党」としているのはゼレンスキー政権側の判断にすぎません。それでもそのまま安易に「親ロ政党」とレッテル張りがなされてしまっています。こうした動きは危険ではないでしょうか?ここで「親ロ政党」として禁止対象となった政党の構成員・支持者(その数は決して少なくない)はその後ウクライナ社会においてどのような扱いをなされているのでしょうか?
 そしてこうした動きに続こうとしているのがポーランド政権です。
ポーランドで大規模デモ=「野党排除」新法に反対 - 海外経済ニュース - 時事エクイティ (jiji.com)(6/5)
  内容からいって「親ロ派」とレッテル張りによる政敵排除となるものでしょう。ポーランドはEU加盟国、それゆえEUサイドは懸念を表明しこのままではEU司法裁判所に提訴を辞さない、ともしています。
ポーランドで「ロシアの影響」受けた政治家ら追放法 波紋広がる | 毎日新聞 (mainichi.jp)(6/9)
 ポーランドの強権政治についてはEUサイドは警戒していましたが、開戦後ポーランドが最も熱心な、というより最も好戦的な軍事支援国ということもあり、関係が改善、それを考えるとEU側がポーランド政権に対しどこまで原則を貫けるか、疑問もあります。そう考えるのはほかならぬウクライナに対する対応のゆえです。
 EUはウクライナを加盟候補国としましたが、実は現時点でウクライナを加盟候補国とすることには、EUの原則から疑問があります。
【解説】 ウクライナがEU加盟候補国へ 何が変わる? ロシアの反応は? - BBCニュース(22年6/23)
  「ただ加盟国となるためにはさまざまな審査、国内法の整備が必要です。
まず欧州委員会が、申請した国が加盟候補にふさわしいかどうかを判断する。安定した民主主義政府があるかどうか、人権が尊重されているか、自由市場経済が存在しているかどうかなどが基準となる。この手続きの後、欧州委が申請国を加盟候補に推奨すると、次は全加盟国の承認が必要となる。全加盟国が承認し、正式な加盟候補となった国は、数年をかけてEU法や規制を国内法に適用していく。」(上記記事より直接引用)
  ウクライナの場合戦時中とはいえ「親ロ政党禁止法」が存在し、実際には政敵つぶしとして運用されているので、上記基準からすれば加盟候補国になれないはずです。なぜEUサイドがウクライナについてはそうしたことに目をつぶって加盟候補国としてしまったのでしょうか。最も好戦的な軍事支援国ポーランドにEUがどこまで原則を貫けるか疑問、と考えるのは、このようにウクライナがからむと原則があいまい化される傾向があるからです。
 「親ロ派のレッテル張りで政敵排除などは、戦時下のウクライナ、その隣国のポーランドの特殊事例、心配するのは杞憂」、という意見もあるかもしれません。しかしそうでしょうか?
「犠牲を払ってもウクライナ解放」vs「今すぐ停戦」――国際世論調査にみる分断(六辻彰二) - 個人 - Yahoo!ニュース(4/7)
 この記事の中で今年2/22に発表された「ウクライナに関する世論調査」結果が紹介分析されています(この調査自体興味深いものですが、それに対する本格的検討は別の機会に行いと思います、なお調査についての原文は以下のもの United West, divided from the rest: Global public opinion one year into Russia’s war on Ukraine | ECFR)。
 この中の最初の表を見ていただくと、調査対象のEU諸国でも「徹底抗戦支持」は4割未満、つまり半数以上の人はそれを支持していません。逆に「領土一部割譲となることになっても戦闘を早く終わらせるべき」は3割の人が支持しています。「領土の一部割譲となることになっても」と受け入れることを躊躇する条件がしめされていても、3割が戦闘の早期終結を支持、徹底抗戦支持と8パーセントポイントしか差がありません。「早期に戦争はやめてほしい」という意見はEU内で根強いといえると思います。
 そしてこの調査結果発表の少し前2/14の朝日新聞の国末氏のツイートです。
「ウクライナ国民のほとんどが「戦う」と答える意識は、現地取材で得た感触とも一致します。相変わらず一部で根強い(欧州ではそうでもないが)即時停戦論は、少なくともウクライナ人の意識を反映してはいないでしょう。どこか別の人の意識を代弁しているとしか思えません。
午前8:23 · 2023年2月14日
 同氏ははっきり「欧州ではそうでもない」と断言しています。同氏の視野にこうした動きがはいっていないか、失礼ながら同氏の取材能力の問題なのかもしれません。ただもうひとつ考えられるのは、こうした意見は表明しにくい、表明すると「親ロ派」とレッテル張りされるから外にはださないようにしている、とも考えられます。事実六辻先生は論考の中で「「即時停戦」は犠牲を少なくする選択肢であっても、西側では「親ロシア派」のレッテルを貼られかねない。」とも指摘しています。
 「親ロ派」とレッテル張りされると、交友関係その他生活のさまざまな面で支障がでかねない、それゆえそうレッテル張りされかねない言動は控える、はかなり広く存在しているのでしょうか?
  最初に危惧と批判を込めて指摘したように、ゼレンスキー政権が「ロシア政府の子分」と判断するとそれが正しいとなり、同政権の判断・意向に従わされる、先の記事のように、ゼレンスキー政権がそのように判断しているだけなのに、「親ロ政党」と堂々となんの疑問もなく記載される、がすでに生じています。ウクライナの「親ロ政党禁止法」、ポーランドの新法のような法律は存在しなくても、その法律と同様の機能を果たす社会規範・暗黙のルールはすでに広く存在しているのではないでしょうか。
 改めて「親ロ派」「ロシア寄り」のレッテル張りの危険性を強く訴えます。

白井邦彦
青山学院大学教授
 



 


 
  


  


 
 



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