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【読書】 これは猛毒か、それとも救いか。『イン・ザ・メガチャーチ』が暴く、「推す」という行為の正体 / 朝井リョウ 【読書感想文】ファンダム 経済

この『物語』を読み終えた今、心の中にずっしりと重い何かが横たわっています。
「推し活」を題材にしていると聞いて、どこか煌びやかで、共感に満ちた物語を想像していた私は、見事にその期待を裏切られました。いいえ、裏切られたなんてものじゃありません。これは、いわゆる「推し活」に励む私のような人間にとって、一種の猛毒でした。

読み進めるうちに、何度も本を閉じたくなったほどです。そこに描かれていたのは、日頃から私たちが目にし、耳にし、そして実践している、あまりにもリアルな「あるある」の数々。
ファンダム経済という言葉のもと、人々を熱狂させるための「物語」を仕掛ける側、その物語に救いを求め、のめり込んでいく側、そして、かつては熱狂の中にいたけれど、今は別の「物語」を信じている側。
この小説は、様々な立場から多角的に「推し活」という現象を、冷徹なまでに解剖していきます。その切れ味は鋭く、私の心の柔らかい部分を何度も何度も、的確に刺してきました。

作中では、人の心を動かす「物語」の功罪が、痛々しいほどに描き出されます。
特に私の胸に深い傷を負わせたのは、自分自身の価値観を根底から揺さぶられたことでした。
作中の言葉を借りるなら、私はどちらかというと、自分を『学級委員気質』だと自負しています。物事を客観的に見て、正しいか、社会的な意義があるか、という視点で判断しがちなのです。
だからこそ、「推し」に対して多額のお金を注ぎ込む行為、いわゆる「献金」は、どこか愚かしいものだと常日頃から自問しています。
それよりも、そのエネルギーやお金を、もっと社会的な意義のある活動に向ける方が美しいのではないか、と。

でも、この物語は、そんな私の考えがいかに一面的なものだったかを、容赦なく突きつけてきました。
まるで、「それも一つの視点からのモノの見方でしかないんだよ」と、力強く頬を打たれたような衝撃でした。
人が何かに熱狂し、時間やお金を捧げる心理は、私が考えていたよりもずっと複雑で、切実なものだったのです。
自分の居場所を見つけられない苦しみ、誰にも理解されない繊細さゆえの孤独。そうした心の隙間に、推しという「物語」がそっと入り込み、救いとなる。その構造は、かつて人々が宗教に救いを求めた構図と、驚くほど似ているのかもしれない、と。
私が美しいと思っていた「社会的な意義」だって、見方を変えれば、誰かが作った大きな「物語」の一つに過ぎないのかもしれない。そう思うと、自分の立っている足元が、急にぐらりと揺らぐような感覚に襲われました。

さらに恐ろしかったのは、「推し活」にのめり込む心理と、「陰謀論」に傾倒していく心理が、実は紙一重であると示唆されていたことです。
14章のサブタイトルは、まさにこの事を示す仕掛けとして、威力を発揮していると思いました。
自分が信じたい「物語」を追い求め、そのために情報を取捨選択し、同じ価値観を持つ仲間と連帯を深めていく。その熱狂は、心地よい高揚感と安心感を与えてくれますが、一歩間違えれば、現実から遊離し、排他的な空間に閉じこもってしまう危険性を孕んでいるのだと突き付けられた気がしました。

そして『陰謀論者』を作中に登場させる巧みさに、私ははたと付いてしまったのです。
陰謀論者の論理展開と誇大妄想は、私も含め一般的な「推し活民」にも異様に映ります。だからこそ、この小説と言う「物語」がフィクションであると意識できる。それはある種の防御壁のようなものだと感じました。
そのようにして『陰謀論者』を異端として排斥することは、「まだ、私はまともな推し活民だな」と自分を肯定する材料となり得るのではないかと……。
しかし、そのように他者を見下して得られる安心感に甘んじる私は本当に『まとも』なのかと……
頭がぐるぐるします。



読み終えた今、私は自分の「推し活」を、以前と同じように純粋な気持ちで楽しむことができなくなってしまいました。でも、それは決して悪いことではないのかもしれません。
この猛毒は、私に痛みを伴う深い内省の機会を与えてくれました。
なぜ私は「推す」のか。私が求めているものは、本当は何なのか。熱狂の渦の中で見失いがちな、自分自身の心と向き合うための、これは必要な痛みだったのだと、今はそう感じています。
朝井リョウさんは、この時代の熱狂と、そこに生きる私たちの心の在り方を、標本のように瓶詰めにして見せてくれたのかもしれません。


あなたの感想や、推し活のエピソード、些細なことでもいいのでコメントで教えて下さると喜びます😊




ここまでお読み頂きありがとうございます。それでも、まだこの作品を読んでみたいと思えた「覚悟ある推し活民」のあなたは、ぜひ手に取ってみてください。




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