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最後の踏切  【毎週ショートショートnote】

 鉄道がすべて地下へ潜った時代。地上から線路は消え、踏切もまた役目を終えた。歴史にその姿を刻むため、最後に一基だけを保存しようと、「踏切オーディション」が開かれることになった。

 全国から集められた踏切たちは、それぞれの来歴を語った。

「私は海辺の町にありました。潮風で何度も錆びましたが、七十年間立ち続けました」

「私は一日に二千人が渡る通学路でした」

「映画にも映りました。主演俳優が泣く場面の後ろで、私の警報機が鳴っています」

 審査員たちは頷き、記録を取る。どの踏切も誇らしげだった。

 やがて最後の一基が呼ばれた。地方都市の外れにあった、小さな踏切だった。塗装は剥がれ、警報機の赤は夕焼けに色を預けたようにせている。

「あなたの思い出を聞かせてください」

 審査員が尋ねた。しかし踏切は何も語らなかった。

「何か印象的な出来事はありませんか」

 それでも答えはない。


 答えない踏切の代わりに、保管されていた記録映像が再生された。映ったのは、特別な事件ではない。

 ランドセルを揺らす少女。
 部活帰りの少年。
 買い物袋を提げた老夫婦。

 誰かが渡り、また誰かが渡る。ただそれだけの映像が、何十年分も続いていた。

 この踏切には、自分の物語はない。だからこそ、無数の人の物語が残っているのだと。

 踏切は何も語らなかった。語るべき人生を持っていなかったからではない。自分の声で上書きしないよう、ずっと見守っていたからだった。

 結果発表の日。

 保存される一基として選ばれたのは、その無名の踏切だった。





#毎週ショートショートnote #踏切オーディション
#短編小説

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棚島 香帆汰(たなしま かほた) よければ応援していただけると嬉しいです。 いただいたチップは、私の物語のページを少しずつ彩る力に変えさせていただきます。