一つの投稿を、公開まで通してみます|第4回(最終回)

第1回で、こんな例を出しました。
「初めて受診するとき、何を持っていけばいいですか」
受付でよく聞かれる質問です。
これを、実際に一つの投稿にして、公開するところまで通してみます。
ここまでの3回で、素材と構成の話は終わりました。残っているのは、形にして出すところだけです。
全部で、五つの手順になります。
この記事で分かること
一つの投稿ができるまでの、五つの手順
公開する前に、医療機関として何を確認すべきか
誰が「出していい」と決めればいいのか
まだアカウントを作っていない先生も、そのままお読みください。話は同じところに着地します。
手順1。溜まった一行から、一つ選ぶ
最初の手順は、選ぶことです。考えることではありません。
前回、こう書きました。受付で聞かれた質問を、その場で一行だけ残しておく。
その一行が何本か溜まっているとします。
初診時の持ち物を聞かれた
予約の変更方法を聞かれた
子どもは何歳からか聞かれた
この中から、一つ選びます。
選び方に難しい基準は要りません。同じ質問が何回も来ているものから選ぶ、で十分です。
回数が多いということは、それだけ多くの人が同じところで迷っている、ということだからです。
ここでは「初診時の持ち物」を選びます。
この手順にかかる時間は、ほとんどありません。すでに書いてあるものを見るだけだからです。
投稿が止まる医院の多くは、この手前で止まっています。一行が溜まっていないので、「今月は何を出そうか」から始めることになる。そこがいちばん重いところでした。
手順2。構成の三つを決める
次に、第1回で書いた三つを決めます。
誰に向けるか。
この投稿は、まだ来ていない人に向けたものです。すでに通っている患者さんには要りません。
何を一つ伝えるか。
来院時に持ってきていただきたいもの。これだけです。
ここで「ついでに診療時間も入れておこう」としないことが大事です。二つ入れると、どちらも伝わりにくくなります。
一枚目に何を出すか。
複数枚のカルーセル投稿では、最初の一枚がフィードやプロフィールに表示されます。
なので、一枚目には結論を置きます。
「初めて受診される方へ。来院時にお持ちいただきたいもの」
これで、必要な人だけが指を止めてくれます。
そしてもう一つ、ここで決めておくことがあります。枚数です。
持ち物が三つなら、表紙を入れて四枚。これくらいが読みやすい長さです。
決めるのはここまでです。所要時間は、慣れれば数分だと思います。
手順3。文章と画像を作る
ここでようやく、作る作業に入ります。
一つコツがあります。文章と画像を、一度に頼まないことです。
同時に頼むと、画像の見た目に気を取られて、文章の誤りを見落とします。二段階に分けます。
一段階目。文章だけを作る
生成AIに、こういう形で渡します。
歯科医院のInstagramに掲載する、4枚のカルーセル投稿案を作ってください。
・マイナ保険証または資格確認書
・お薬手帳(お持ちの方)
・紹介状(お持ちの方)1枚目:「初めて受診される方へ。来院時にお持ちいただきたいもの」
2〜4枚目:持ち物を一つずつ説明提供していない情報を推測して追加しないでください。
まず、各画像に載せる文章とキャプション案だけを作ってください。画像はまだ作らないでください。
長く見えるかもしれませんが、中身は手順2で決めたことを書いているだけです。
大事なのは最後の二行です。
「提供していない情報を推測して追加しないでください」と書いておかないと、AIは親切のつもりで情報を足します。診察券、印鑑、問診票。自院で案内していないものが並ぶことがあります。
そして「画像はまだ作らないでください」と止めておく。ここで文章を確定させます。
二段階目。確定した文章を画像にする
文章を読んで、直すところを直したあと、こう渡します。
この確定した文章を使い、縦型4:5、落ち着いた配色で画像案を作ってください。文章は変更しないでください。
「文章は変更しないでください」が効きます。これがないと、画像を作るときに文言が微妙に書き換わります。
出てきたものが違っていたら、違うところだけ言い直します。「文字を大きく」「色をもう少し薄く」で直ります。
素材と構成が決まっていれば、この手順はいちばん短いところです。
逆に言うと、素材と構成が決まっていないままここに来ると、いくら道具が良くても止まります。第1回で書いたのは、そういう話でした。
二つだけ、注意があります
一つ目。AIは、医学的な正しさや、自院の運用との一致を保証できません。
出てきた文章は、必ず読んで直します。判断できないのではなく、その判断の責任を渡せない、ということです。
二つ目。患者さんの情報、未公開の院内資料、患者さんやスタッフが識別できる写真は、医院が利用を承認していない生成AIへ入力しないでください。
投稿を作るのに、それらを入れる必要はありません。手順2で決めた三つと、自院で案内している内容だけで足ります。
手順4。公開する前に、三つ確認します
ここが、この連載でいちばん大事なところです。
第1回でも第2回でも第3回でも、「公開前の確認は第4回で書きます」と送ってきました。ここでまとめます。
作る作業は簡単になりました。ただ、医療機関の投稿は、作れたからといってそのまま出せるものではありません。
確認するのは三つです。
① 個人情報と、公開の同意
まず、患者さんです。
顔が写っていないかだけでは足りません。撮影のときに気づきにくいものが、いくつもあります。
モニターに表示された氏名や診療情報
カルテ、予約表、受付票
スタッフのネームプレート
鏡やガラスへの映り込み
声(動画の場合)
治療部位など、本人が見れば分かってしまう特徴
患者さんを特定できる写真、映像、声、診療情報などを公開する場合は、原則として明確な同意が必要です。映像や音声も個人情報になり得ます。
スタッフについては、患者さんの情報とまったく同じ整理にはなりません。ただし、肖像権やプライバシー、そして雇用関係があることを考えると、本人の同意を取る運用にしておくのが適切です。
このとき、入職時の一括同意だけに頼らないほうが安全です。次のあたりまで決めておきます。
どの媒体に使うのか
何のために使うのか
いつまで掲載するのか
退職したあとはどうするのか
あとから同意を取り消せること
断っても不利益がないこと
最後の二つは、特に大事です。断りにくい関係の中で取った同意は、同意として弱くなります。
そして、業者が撮影した写真を使う場合は、医院がそれを公開できる立場にあるかを確認します。
② 内容が、自院の「いまの運用」と合っているか
ここは、見落とされやすいところです。実例を一つ挙げます。
初診時の持ち物です。
2026年8月から、期限切れの健康保険証を持参しただけでは、通常どおりの保険診療を受けられなくなりました。窓口で必要なのは、マイナ保険証または資格確認書です。
つまり、去年作った院内掲示や投稿が残っていると、いまは案内として正しくありません。
制度は変わります。医院の運用も変わります。確認するのは、たとえばこういうところです。
持ち物の案内は、現在の制度と合っているか
診療時間や休診日は、いまのものか
電話番号やリンク先は正しいか
その写真やイラストを、医院が使える権利を持っているか
AIが、存在しない設備やサービスを付け足していないか
最後の項目は、手順3で「推測して追加しないでください」と書いた理由でもあります。それでも紛れ込むことがあるので、目で確認します。
初診の持ち物、予約の変更、休診のお知らせ。この種の投稿では、医療広告よりも先に、ここが効いてきます。
③ 治療内容を投稿するなら、医療広告まで確認する
治療について発信する場合は、もう一段の確認が要ります。
見るのは、このあたりです。
虚偽、誇大、他院との比較優良にあたる表現になっていないか
治療内容や効果に関する患者さんの体験談を使っていないか
治療前後の写真(ビフォーアフター)を、そのまま載せていないか
自由診療なら、必要な情報が揃っているか
自由診療の場合に必要なのは、治療の内容、費用、主なリスクや副作用、そして通常必要となる治療期間と回数です。
そして、それらをその投稿の中で、一体的に確認できる形にしておく必要があります。
自院ホームページへのリンクを置いておけばよい、とは限りません。厚生労働省の「医療広告規制におけるウェブサイト等の事例解説書」は2026年3月に第6版が公表され、SNSや動画についての事例も扱われています。リンクだけでは足りない例も示されています。
細かいところまでこの記事では書きません。ただ、治療内容、特に自由診療を投稿するときは、一度その資料に目を通しておくことをお勧めします。
三つ書きましたが、身構えなくて大丈夫です。
初診の持ち物や休診のお知らせでは、治療内容に関する詳しい医療広告の確認までは、通常必要ありません。
ただし、①個人情報、②内容の正確さ、そして写真やイラストを使う権利。この三点は、どの投稿でも確認します。
手順5。誰が「出していい」と決めるか
最後の手順です。ここを決めていない医院が、けっこうあります。
作る人と、出していいと決める人を、分けます。
作るのはスタッフでも構いません。ただし、医学的な内容を含む投稿は、医院として責任を負う管理者・院長が最終確認する運用にしておきます。
ここで大事なのは、確認する人は複数でよいということです。分けたほうが、むしろ早くなります。
受付が、日時や持ち物などの事実を確認する
担当の歯科医師が、医学的な内容を確認する
そのうえで、一人の最終承認者が、公開してよいかを決める
確認は分担、最終判断の窓口は一人。
全員で最終判断まで見る形にすると、誰も自分の責任だと思わなくなります。結果として、誰も見ていない投稿が出ます。
決めておくのは、これだけです。
誰が作るか
誰が、どこを確認するか
誰が「出していい」と言うか
どこに置いて、どうやって回すか
紙一枚に書いて、置いておけば十分です。
一度決めてしまえば、毎回考えなくてよくなります。
止まる医院は、投稿ができてから「これ出していいのかな」と迷って、そのまま止まります。迷う場所を先に潰しておく、という手順です。
できあがったのは、こういう投稿です
五つの手順を通すと、こうなります。
1枚目
初めて受診される方へ。来院時にお持ちいただきたいもの
2枚目
マイナ保険証、または資格確認書
3枚目
お薬手帳(お持ちの方)
4枚目
紹介状(お持ちの方)
これだけです。
新しい企画を考えたわけでも、撮影に出かけたわけでもありません。
受付で何度も聞かれていたことを、外から見える形に変えただけです。
そして、この一枚が出たあと、受付で同じ質問を受けたときに「投稿にも載せているので、よかったら見てください」と言えるようになります。
道具の名前は、覚えなくて大丈夫です
ここで、少し正直な話をします。
この記事に、特定のツールの操作手順は書きませんでした。理由があります。
名前が、変わり続けているからです。
たとえばGoogleの画像生成は、この一年で四回、名前と世代が変わりました。ChatGPT側の画像生成も、去年とは中身が別物になっています。
つまり、いま操作手順を丁寧に書いても、半年後には画面が違っています。
なので、覚えるべきなのは道具の名前ではありません。
渡すものです。
誰に向けるか
何を一つ伝えるか
一枚目に何を出すか
自院で案内している、正確な中身
これさえ手元にあれば、その時に使えるものに渡せば形になります。
そして、ここが今回いちばんお伝えしたいところです。
新しい道具を、ずっと追い続ける必要はありません。
素材を残しておけば、必要になったときに、その時点で使えるものを確認すればよいからです。
追いかけなければいけないのは、道具ではありません。手元に何が残っているか、のほうです。
動画も、作れるようになってきました
一つだけ、お伝えしておきます。
2026年6月、ByteDanceがSeedance 2.5という動画生成のモデルを発表しました。
三十秒程度の動画生成や、画像・動画・音声など複数の素材を参照した生成が案内されています。
いま使う必要はまったくありません。利用できる機能や提供地域は変わりますので、実際に使うときは、その時点の公式の案内で確認してください。
お伝えしたいのは、こういうことです。
一年前は難しかったことが、いまはできるようになっています。
以前、リール動画を医院で作ろうと思ったら、撮影と編集の技術が要りました。その前提が、少しずつ変わってきています。
だからといって、追いかける必要はありません。さきほど書いたとおりです。
素材が残っていれば、使いたくなったときに、その時点のものへ渡せばいいだけです。
外に頼むなら、どこまで頼むかを決めます
ここまで、自分たちで作る前提で書いてきました。
外に頼む選択肢も、もちろんあります。
外に頼む価値は、「自分たちでは投稿を作れないから」だけではありません。
素材を残す仕組み。公開前の確認の手順。担当者が変わっても止まらない流れ。最初にこの形を作るために、外の力を使うという方法があります。
頼む範囲は、選べます。
最初の設計だけを一緒に決める
文章やデザインの制作だけを頼む
医療広告や個人情報の確認を支援してもらう
投稿まで含めて、運用を頼む
仕組みができたあと、自院で続けても構いません。そのまま制作を頼み続ける方法もあります。
大切なのは、作業を丸ごと渡すことではなく、院内に残す部分と、外に出す部分を決めることです。
費用は、サービスによって大きく変わります。月に数万円のものから、数十万円のものまであります。何をどこまで頼むかで変わるので、金額だけを比べても意味がありません。
そして、第1回で書いたことは変わりません。
頼んでも、素材と「何を伝えたいか」は、院内から出す必要があります。
そこが出ない状態で頼むと、投稿は出てきますが、その医院である必要のない内容になります。歯の豆知識や、季節のあいさつが並ぶことになります。
院内に何を残すかを決めないまま外注すると、止まったときに何も残りません。そこだけ、気をつけていただければと思います。
連載の結論
四回にわたって書いてきました。最後にまとめます。
医院のInstagramは、フォロワーを増やすための道具ではありません。
来る前の不安を減らし、考える材料を渡し、次の接点をつくる道具です。
そして、そのために新しいネタを考える必要はありません。
医院の中で毎日話されていることを、消さずに残して、外に出すだけです。
第1回で、こう書きました。止まっていたのは、やる気でも人手でもなかったと。
その通りだと思っています。
止まっていたのは、投稿という作業が、実際より大きなものに見えていたからでした。企画を考えて、撮影して、デザインして、分析する。そういう一式を想像すると、確かに診療の合間には入りません。
その一式は、要りませんでした。
そして、四回書いてきて、最後に残ったのはこういうことです。
AIによって、投稿を作ること自体は簡単になりました。
けれど、医院に必要なのは「作る技術」だけではありません。
院内の素材を残し、内容の正しさを確認し、誰が公開を決めるかまでをつなぐ、仕組みのほうです。
作る技術は、道具が新しくなるたびに手に入ります。
仕組みは、医院にしか作れません。
もし、できそうだと思われたら、ぜひご自身でやってみてください。
患者さんを毎日見ているのは先生とスタッフです。外の人間が作るより、そのほうが良いものになります。
時間が取れない、始め方や確認の手順だけ先に決めてしまいたい、というときは、そこだけお手伝いもします。
四回、お読みいただきありがとうございました。
※本記事は2026年8月時点の内容です。ここで触れた道具の名称や仕様、制度の取り扱いは、変わっている可能性があります。
参考:厚生労働省「資格確認方法について」/同「医療広告規制について」/同「医療広告規制におけるウェブサイト等の事例解説書(第6版)」(2026年3月30日)/個人情報保護委員会・厚生労働省「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」(令和8年4月 最終改正)
flat Inc./歯科医院のITとデジタル化の伴走支援をしています。
この記事について、詳しく知りたい方のために連絡先を置いておきます。

