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いいの、いいの。

近くに住む両親が「焼肉に来い」というので、
サチボンを連れて出かけた。
肉をたらふく食べて、さて帰ろうかというときになって、
梵と幸のどちらかが、隣の部屋に粗相をしていたことが発覚した。

申し訳なくて謝ると、母は笑って言った。
「いいの、いいの。拭けばいいんだから」

私は小学2年生までおねしょをしていた。
毎朝、目を覚ますと布団が濡れていることに落ち込んだものだ。
自分の意思ではどうにもならなくて、無力感にさいなまれるのだ。
一生このままなんじゃないかと、本気で思っていた。
けれども、母から叱られたことは一度もない。小言一つ言われたことさえない。
だから、おねしょをするのは嫌だったけれど罪悪感みたいなものはなかった。

ある夜、尿意で半分目が覚めた。
眠くてトイレに行くのはめんどうだった。
いつもおねしょしているんだもん。このまましちゃえばいいかという気持ちになった。
「おかあさん、おしっこ」とつぶやくと、隣に寝ていた母は飛び起きた。
「待って、待って! ちょっとだけ我慢して」
台所にダッシュして戻ってきた母の手には、ミロのおまけでついてきたプラスチックのコップが握られていた。
おかあさんは何も言わないけど、本当はおねしょはしないほうがいいんだなあ、でもコップは嫌だよ……。
ぼんやりとそんなことを考えながら、また眠りに落ちた。

私のしつけが甘かったのか、サチボンはよく粗相をする。
もちろん、してほしくない。
だけど、飼い主だって50年生きていても尿意はままならない。
だから、まあしょうがないよな、と思いながら床を拭き続けている。
でも、時々「んもう~」と小言を言ってしまう。
そのあとで、母のことを思い出して苦笑いする。
敵わない。
床を拭きながら、「いいの、いいの、拭けばいいんだから」と真似して言ってみる。


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