ホリダの帰還
地震の後、植物と鉢と用土を繋ぎ合わせる、果てしないパズルゲームが始まった。
確か、この鉢には白鯨が入っていたはずだ。センナはこっちの伝市ウロコ、オベサはセリアのスリット鉢に……。
床に散乱した日向土主体の用土をホウキとチリトリでかき集めては、根が乾かないうちに素早く、根を傷つけないように優しく、デリケートな植物を鉢へと戻していく。
割れた鉢の代わりには、余っていたプラ鉢を宛てがいながら、その途方もないパズルは続いた。
元どおりとはいかないまでも、まぁなんとか、植物達は平穏を取り戻したかのように見えた。
たったひとつ、鉢と用土はそっくりそのままなのに、植物だけが消え失せた一鉢を除いては。
不思議なことに、そこに何が植わっていたのか、どうやっても思い出せない。その鉢だけが行き場を失ったまま、ベランダの隅に取り残され、放置された。
地震から1か月弱が過ぎた頃、私は復旧作業を「初夏の植え替えフェア」と、もっともらしい名前で呼んでいた。そうでもしなければ、とっくに心が折れていただろう。

この1か月弱の間、猫の額ほどの庭は、雑草パラダイスと化していた。適度に雨を受け、遮るものの無い陽光を欲しいままにした雑草達は、生命力の塊とでも言うべきほどに生き生き艶々ビンビンとしていた。
うちの植物達も、こんな感じで生き生き艶々ビンビンになってくれれば、さぞ良いでしょうね。
なんか不公平な気がしたので、腹いせに草刈りをすることにした。
……とはいうものの、すべての植物が輝く季節に最高の環境を与えられた雑草は、まさに「手に負える」代物ではない。
そこで、アイリスオーヤマ充電式グラストリマーJGT230TC出撃である。
「アイリス、いきまーす」
白い悪魔JGT230TCの威力は凄まじく、いともたやすく雑草を刈り続けていく。
そんな中、まるで初夏の雲の切れ間から差し込む一筋の陽光が照らし出したかのように、わずかに残った雑草の根元の隙間から、なにやら見覚えのある緑色の塊が現れた。

こ、これは。あの鉢から忽然と消えた、ユーフォルビア・ホリダではないか!
何が植わっていたのかさえ忘れていたくせに、奇跡の再会にはやけにドラマシックな気分になった。いい気なものである。

似非ドラマチックな物語(?)を経て、ホリダ(だと思う)は、何ごともなかったかのように、以前とまったく同じ顔をして、元の鉢に収まっている。
地震にも、記憶の欠落にも、1か月に及ぶ雑草の侵略にも、ホリダは律儀に生き延びていた。
思っていたほど、植物はヤワではないのかもしれない。
壊れやすいのは、高価な鉢と、私の記憶だけだ。

