「出没注意の種類──山の熊と、もう一種類の熊について」**
山で月の輪熊が出たとき、役所は決まって「外出を控えてください」と言う。 その通知がスマホに届くと、こちらも自然と背筋が伸びる。 熊は牙と爪を持ち、遭遇すれば命に関わる。 だから行政が慎重になるのは当然だ。
一方で、最近はもう一種類の“熊”にも出没注意が必要らしい。 山ではなく、ネットのほうに現れる熊だ。 こちらは物理的に襲ってくるわけではないが、AIが「生成を控えてください」と言い出す。 どうやら、特定の形や色や文脈に近づくと、AIのほうが怯えてしまうらしい。
山の熊は爪が鋭い。 ネットの熊はフィルタが鋭い。 どちらも遭遇した瞬間、こちらの行動が制限される点はよく似ている。
ただ、山の熊は「出た」という事実がある。 足跡があり、目撃情報があり、カメラにも写る。 一方でネットの熊は、こちらが意図していなくても突然“出た扱い”になる。 文章の中の何気ない単語、画像の中の丸い耳、黄色い色味。 それだけでAIが「これは危険な熊だ」と判断する。
人間が熊を怖がるのは理解できる。 しかし、AIが熊を怖がるのはなかなか興味深い。 山の熊は人間を襲う可能性があるが、ネットの熊はAIを襲う。 どちらも遭遇すると“生成不能”になるという点では、ある意味で共通している。
結局のところ、怖いのは牙よりも“判定”なのかもしれない。
山の熊は山に近づかなければ出会わないが、ネットの熊は境界線が曖昧だ。 こちらが意図していなくても、AIのほうが勝手に「これは熊だ」と判断して逃げていく。
出没注意の看板は、山にもネットにも必要なのだろう。 ただし、後者の看板にはこう書かれているはずだ。
「AIが過敏に反応するため、ご注意ください」
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