【考察】Jリーグ百年構想における地域密着の課題
はじめに
プロ野球北海道日本ハムファイターズの札幌ドームからの移転などからメディアでも取り上げられはじめたように、近年、主にJリーグクラブの新スタジアム建設にまつわるトラブルが各地で起こっています。
トラブル事例
ブラウブリッツ秋田の新スタジアム建設・改修
水戸ホーリーホックの新スタジアム建設
栃木シティFCのスタジアムを巡る訴訟
東大阪市花園ラグビー場の保守メンテナンスを巡る問題
SC相模原の新スタジアム建設を巡るホームタウン移転騒動
こうしたトラブルが起きる背景、原因を考察してみます。
Jリーグの地域密着・百年構想とは?
以下Jリーグ公式に以下記述があります。

短くまとめると、町に様々なスポーツクラブがあり、誰でもスポーツを楽しめる街作りを目指し、幸せな国へ。
というのが、骨子です。
しかし、ここには自分たちが試合できる豪華なスタジアムが欲しいJクラブ、JFA、サポーターと公共性の点で疑問を持つ自治体関係者、市民の間に大きな隔たりがあるのではないでしょうか。
トラブルの内容
ほぼどこのスタジアムでも建設、改修に伴う公的資金(つまり税金)の投入規模または投入そのものの是非
建設に前向きな首長、自治体の場合そこまで問題になることは無い(ただし、栃木のように住民訴訟まで発展したケースも)
背景
以下のような背景を含んでいる事が多いと思われます。
箱物行政に対する住民の不信感
バブル〜平成初期にかけ、各自治体は様々な公共事業を行ってきましたが、なかには負の遺産と後に呼ばれるような建設事業も多く行われました。
下記はバブル期の失敗事業を多く出してしまった代表例、「ふるさと創生事業」です。
この他にも最近では2021年コロナ延期を乗り越えて行われた東京オリンピックは莫大な赤字になったとも言われています。
東京オリンピックでは加えて電通による汚職も発覚し、イメージ共に最悪のオリンピックとなりました。
こうした公共事業の負のイメージが多くの人に残っていると考えられます。実際下記アンケートでも公共事業に対し、ネガティブイメージが先行してることが伺えます。
https://www.nilim.go.jp/lab/peg/img/file1628.pdf

ただし、2012年に発生した中央自動車道の笹子トンネル天井板落下事故、2011年の東日本大震災を境に、インフラの老朽化や耐震補強といった課題が露となるにつれ、全ての公共事業を「無駄」と断ずる傾向は変わってきており、事業の内容によっては住民の理解を得られる公共事業も多くなってきています。
自治体の予算不足
サッカースタジアム建設には少なく見積もっても数十億規模の費用が必要になりますが、大都市圏や一部の政令指定都市を除き、自治体の予算不足が厳しくなってきています。
特に昨今の少子高齢化による人口減や農業等の一次産業主体の地方都市は消滅都市間近なところも少なくなく、サッカースタジアムのような興行的投資に対する費用対効果が疑問視されています。
高い理想を追い求めるJFA/Jリーグ
JリーグスタジアムにはJ1/J2/J3各リーグでプレイするためのスタジアムに関する規定があります。
主にAFCやヨーロッパサッカーに近い内容になっていますが、ヨーロッパやサウジアラビアのような比較的経済的に恵まれた先進国、主要都市クラス向けの規定で、地方都市にはかなり厳しい内容となっていて、これが前の自治体の予算不足の影響も重なって、スタジアム建設の話が進められない一因ともなっています。
公共性を巡る議論
公共事業で建設される建造物は当然「公共物」であるため、市民が一般利用できることが前提となります。
学校、消防署等、市民への恩恵が一目でわかるものであれば、ある程度理解は得られるでしょうが、殆ど市民利用(ピッチでプレイすること)が出来ないサッカースタジアムの公共性を定義する事が難しい事もこの問題の難しさを示しています。
※例えば、もし仮に劇団四季の劇場や宝塚歌劇団の劇場を「公共物」として建設するという話があれは、やはり住民の反発や公共性の議論が巻き起こると思います。
要因
①民意が見えづらい
正確には民意が正しく把握しづらい事にあると思います。
例えば、先日ホームタウン移転を発表したSC相模原の場合、スタジアム建設の署名を約十万筆を集めましたが、その中に相模原市民の署名が約三万であったことが、市長から報告されています。
https://www.city.sagamihara.kanagawa.jp/shisei/1026709/mayor/1009760/1032917/1033130.htm
私も10万4,000筆強の署名をお預かりした身といたしまして、やはり多くの市民の皆様、その中で市民の皆様は約3万筆強でありましたが、市内外の多くの皆さんから期待を寄せられて、そして本当に市内でも1等地と言われているような、相模総合補給廠は平地であり、脱炭素のまちづくりができる15ヘクタールのまちづくりを示す形の中で、ぜひ、JR相模原駅前に欲しいというご要望をいただいてきたことは重く受け止めておりますし、私も今もそうなのですが、現在も庁内でスタジアムの検討は職員の皆さんとしております。そういった中で今回、私たちはこれまでもホームタウンチーム4チームの皆さんと、色々な場面で対話をしてまいりました。その中で、やはりスタジアムが欲しいというだけではなかなかこれは前に進まない部分もあります。私も、スタジアム賛成論者でありましたから、庁内の中では慎重・反対の方もいらっしゃるし、様々な意見がありました。その中でやはり、行財政構造改革もやってきたし、スタジアムの建設で300から400億円と言われていた時代から、さらに物価高騰等、人件費の高騰で、もう本当に当初の2倍ぐらいの予算がかかるということでありますので、そういった中で、後世に誇れるまちづくりをしていく中の一つとして、三つ残したケースの中の一つにスタジアム構想もございましたけれども、今回私たちも民間活力を使うということで、今回の民間提案の中に、市としては、道路とか公園とか、そういった公共の整備はするのだけれども、ぜひ民間の活力でまちづくりの提案をしていただきたいというボールを投げさせていただきました。
相模原市は人口約72万人の神奈川県第三の大都市です。その中の約3万人という数は市民の約4%となり、決して少なくはないものの、賛成多数といい切るにはやや寂しい数です。
残りの96%の住民は賛成、反対、無関心どれか見えづらい事にこの件が自治体としてもなかなか進めづらい要因になっているのではと思います。
②民意を測る仕組みや制度が無い
日本は民主主義国家ですが、基本的に選挙や投票といった民意を測るイベントは衆参両院の選挙、地方自治体の首長、議員選挙といった限られた時のみで、それ以外の行政については基本的に行政の裁量の中で行われます。
ただ、ハコモノ行政や行政の失政、不正に対する市民の目は厳しくなってきていることは事実で、特にスタジアム建設事業のような大金を投じる事業に対する透明性、公正性は一層求められることになります。
例えば、Jリーグが理想とするドイツでは、Vereinという公共団体による市民参加によるクラブ運営が行われています。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsss/29/2/29_29.2.1/_pdf/-char/ja
※ただし、昨今のヨーロッパサッカー市場の資本主義化の波によって、この制度を採用してるクラブも減少傾向にあるようです。
同じように巨大なスタジアムを多く持つアメリカでは、資金調達に公金(公債を発行)を使用する際、住民投票が必要になっていて、そこで民意を集約する制度になっています。
これらの事例と比べると日本では、公共事業に対して市民が参加するハードルが上がってしまっていることが、結果的に民意を測ることを難しくしてしまい、行政に二の足を踏ませてしまっているのではないかと思います。
行政や司法のルールを変えることは難しく、また住民投票もお金がかかる
では、日本もドイツのVereinやアメリカの住民投票を法で定めればと思ったりもしますが、実際、行政や司法のルールを変更するのはかなりコストもかかるため、あまり現実的ではありません。まして、今の衆参両院はねじれ国会と言われる与野党の逆転が起きているため、なお一層そのコストや難易度が上がってしまっています。
また、住民投票もあまりコスト的にはよくありません。
下記は大阪市の都構想の是非を問う住民投票への予算計上ですが、人口約280万人の大阪市で約10億円計上されています。
実際、スタジアムのような巨額建設であれば、まだ、住民投票の方が安いとも見れますが、財政が逼迫している地方自治体でそう簡単に取れる方法ではないことは想像に難くありません。
民間投資であれば、法的ハードルは低い
逆に民間投資主体であれば、住民投票のようなハードルや行政との調整の負荷も少なく済みます。ただ問題は今Jリーグでスタジアム問題を抱えている多くのクラブが単独で資金調達できる程の財務力が無いことです。逆説的に、だからこそ行政に頼ってるとも言えますが、平成初期(Jリーグ創設時)と違い、日本は様々な社会問題が現実になりつつある中、これまで同様という訳に行かなくなってきてしまっているのが、今のJリーグのスタジアム問題なのだと思います。
しかし、そのようなスタジアム建設に逆風吹き荒ぶ中、一風変わった経営をされているクラブがあります。
FC今治における地域密着のアプローチ
FC今治は元日本代表監督を務められた岡田武史氏がオーナーになってから、スタートしましたが、年が経つにつれ、地方の過疎化など様々な課題に直面し、「これはいけない」と地元住民達と会話をしながら、信頼関係を構築していった道のりが記されています。
最初は、誰も受け入れてくれませんでした。「有名人が来たところで、どうせすぐ出て行くんだろう」という感じで、よそ者扱いです。
FC今治はバックオフィス6人で始めたのですが、受け入れてもらうために死に物狂いで働きましたね。自分の車にガムテープでポスターを貼ってまち中走り回って、ビラを配って、深夜まで残業して……。
でも2年くらいは、相手にしてもらえなかった。今でこそ笑い話ですが、苦労して取り付けた会食をドタキャンされたこともあります。
そんな状況で、ある時ふと「今治の友達いるやついるか?」と会社の仲間に聞いたら、誰一人いなかったんです。
「来てくださいと言う前に、俺たちが行かなきゃ駄目だ」と気付いて、まずは今治での友達を一人5人作るところから始めました。高齢者の困りごと解決を無償で行う「孫の手活動」を始めたのもこの頃です。
そうしたどぶ板選挙のような地道な活動の結果、観客も増えていき、また、同時期に学校法人(現FC今治高等学校)運営も依頼され、学園長へ就任、「新時代のリーダーを育てる」というビジョンの下、地域の様々なコミュニティと深く関わられています。
昨年行われた今治市内の高校生向けアンケートでも、FC今治、里山校が評価されていることが伺えます。
そんなFC今治ですが、現ホームスタジアム(約40億円)もほぼ自前調達で建設しています。
もちろんこれは岡田武史氏という、長年彼が持ってる繋がりや伝手によるものが大きい事は事実ですが、それでも彼の熱意とこれまで続けてきた地道な活動により、地域との信頼関係を構築できた事が身を結んだ結果となったことも大きいでしょう。
地域密着成功の鍵は信頼関係
今治FCの事例から見ても、地域密着成功の鍵は
①地域住民(サポーター以外も)、地域企業との信頼関係
②地域が抱える課題へ共に取り組む姿勢
なのだと感じます。
前述の記事にもありましたが、
最初は、誰も受け入れてくれませんでした。「有名人が来たところで、どうせすぐ出て行くんだろう」という感じで、よそ者扱いです。
という地域住民から信頼を得ることの難しさがよくわかるエピソードですね。
まとめ
スタジアム問題の背景にはこれまでのハコモノ行政への不信感や、表面化した社会問題、自治体の財政難といった様々な課題が集まっている。
ヨーロッパやアメリカと異なり、市民の行政参加が限られた日本で、民意によって事業を進める事が難しくなってきている。
一方で、多くのJクラブもスタジアムを単独で建設できるほどの資金調達ができる状態ではないため、多くのスタジアム建設は事実上、袋小路に入りかけている。
今はFC今治のように、地域住民との信頼関係構築や、地域が抱える課題に取り組む姿勢を見せることが、真の地域密着なのではないだろうか。
結局、今何かウルトラCで解決できる方法はなく、Jクラブ自体が自立していくか、FC今治のようにもう少し時間をかけ、市民の理解が進むまで、スタジアム建設を拙速に求めず、機が熟すまで待つしか無いと言うのが、今のスタジアム問題の状態なのかもしれません。
むしろJFA会長やチェアマンが全国各地を行脚し、闇雲にスタジアム建ててくれとだけ言い続け、行政や政治家の方しか見ず、一層市民から見放されることがないよう、今のJリーグは少し市民の目や社会情勢を見て、慎重になることを願います。
