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感傷だけでは救えない 世田谷イチ古い洋館の家主になる 山下和美

本日は漫画の感想です。

漫画家・山下は水色のかわいい洋館に一目惚れ。だけど館は土地ごと売却される話が進んでいた! SNSでの呼びかけに、保存を望む声が続々と。開発計画を阻止するため、区役所までも巻き込んで!?

Amazon商品ページより

『天才柳沢教授の生活』でお馴染み、山下和美さんが、ご近所にある取り壊しの決まっている洋館に一目惚れして、その洋館を残すべく奮闘する、という漫画です。
実はこの洋館、「憲政の神様」、「議会政治の父」と呼ばれた旧尾崎行雄邸。元は麻布に建っていたものを移築した建物なのです。
日本家屋や古い日本風の洋館がお好きな山下和美さんが、こうしたものが取り壊されて、面白みのない近頃よくある建売住宅になることを寂しい、嫌だ、と思うところから行動は始まります。
ご自宅の普請の様子を書かれた『数寄です!』に登場された蔵田さんが一緒にアドバイザーとして保存運動を立ち上げるのですが、元の持ち主とはなかなか話せず、工務店からは相手にされず、と中々厳しい状況。それでも建築家である蔵田さんのアドバイスのもと、近隣住民を巻き込んで、どうにか開発を止めようとするうち、賛同してくれる人もちらほら。買取を検討してなんとか共同購入にできないかと模索しますが、工務店側はなかなか実際の金額を明らかにしないし、難しい状況。
そんな中、Twitterの発信を見て区議の女性が助力を申し出てくれたことから保存活動はまた大きく動き出します。行政を巻き込めるか、文化財保護に持ち込めるか。それと同時に購入の道も模索していきます。
ネタバレ、というか、旧尾崎行雄邸で検索をかけると、山下さんたちの保存活動が上位の結果で出てきますので、隠す必要もないかと思い書いてしまうのですが、結果、漫画家繋がりで購入資金のメドが立ち、無事山下さんたちはこの洋館を手に入れ、修繕しながら利用していこうという形に落ち着き、今は修繕費用のクラファンが続いている、という状況です。
土地開発に関わる用語や保存活動のための行政とのやりとりなど、難しい話もあるのですが、漫画にしてくれているため、素人でも読みやすいです。なにより作者の山下さんが素人の手探りで始められたことなので、その目線から描かれているというのも読みやすい理由かもしれませんね。
館と縁のあった人たちとの出会い、尾崎行雄という政治家の今なおあり続ける影響(政治家やワシントンも反応して保存運動を後押ししてくれます)、そうしたことも含めて、熱い漫画だなあと思います。
それにしても、元の持ち主の方がそもそも文化財にできないかと行政に相談していたのに突っぱねておきながら(もちろん文化財にするハードルの高さはわかりますが)、ムーブメントが大きくなると接触してくるお役所というのもどうなんだかなあ、と思ったり。
もちろん、区議の方が保存運動を知って働きかけてくれたことや、マスコミに取り上げられたことで区長や都知事が知ることになり役所への口添えがあってのことだというのはわかりますが。
市民の相談、というか、こうした文化財に関することでも相談窓口で止まってしまって、上には上がらないものなんだということを改めて実感。コネやツテというのはあまり良い意味でいわれませんが、こうした場合はやっぱりコネやツテがある方が強いですよね。動かしどころを知っているのと知らないのとでは戦い方が全然違う。そのことが区議さんが力添えするようになってからよくわかります。
そして交渉が具体的になっていくのですが、ここからがさらに悩みどころ。行政の力を借りれるに越したことはないけれど、全てを行政に委ねてしまうと、行政の管轄の建物になってしまい、山下さんたちが思い描くような、その土地の生活と地続きの洋館ではなくなってしまう。
それでも東京の一戸建てですから、地面だけでも個人でどうにかできるような金額じゃない。修繕にも億単位。金策をどうするか、それとも諦めて行政に頼るか。
そうしたことも生々しく描かれていて、失われる古き良きものへの感傷だけではどうにもならない現実が突きつけられます。読んでいると山下さんと同じように次から次へと難しい問題を突きつけられている感覚になってきます。
それだけに、土壇場で差し伸べられた救いの手になんだか胸が熱くなる思いです。ちょっと感動してしまいます。
この洋館を残したい、そこにあるだけでなく、人の生活と共にある建物として残したい、という思いを共有する人たちのパワーってすごいな!と素直に思えてきます。
いやあ、それにしても、このマンガがすごい!オンナ版2021、3位に選ばれた、『薔薇はシュラバで生まれる』の笹生那実さんのご主人が『静かなるドン』の新田たつおさんだったとは。そして、ドンすげえ、と言いたくなります。
クラファンのリターン品にもいろんな漫画家さんが参加されているし、山下さんの人徳を感じますね。『ドラゴン桜』の三田紀房さんも修繕費を助けてくれたりと、漫画家さんたちの繋がりも垣間見えるのもまた楽しい。
ちなみに超文系な姉と違って理系な妹は建築関係の仕事をしておりまして、読ませてみたところ、開発物件としてはかなり特殊な状況が重なっていて、だからこそやれた搦め手がかなりある、とのことでした。ちなみに細かいことを説明しても私がわかるわけないと思っているので、ざっくりとも説明してくれませんでした。お姉ちゃん悲しい😭
そんなこんなで実際建築関係のお仕事をしている方が読んでも面白い漫画じゃないかな?とも思います。
この件はそもそも始まりから山下和美さんという著名人の方が関わっていたので、活動や支援が広がりが大きかったのかな、と思ったりもしますが、何もせず、何も発信せず、では動くものってないんですよね。ああ、寂しいなあ、残念だなあ、で終わってしまっていたら、そのまま失われてしまう。初めは徒手空拳だとしても、行動を起こして突っつくべきところを突っつけば、もしかしたらなんとかなるのかもしれない。たとえそれが無名の素人が始めることであっても。
なんだかちょっと熱い気持ちになる漫画です。
青い素敵なかわいい洋館。
素敵な写真が見られますので、旧尾崎邸保存プロジェクトの公式インスタ貼っておきます。

いつか、見にいきたいなあ。ギャラリー利用をされるようなので、ぜひ行ってみたい。
漫画家さんたちの原画を見てカフェでお茶ってほんと素敵空間ですよね。どんな風になっていくのか楽しみです!

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