【第41話】ルスタビの17番ゾナ
歩くたびに、靴とサンダルの裏がコンクリートを擦る音だけが響いていた。
面接を終えた50人が列をなして、静かにゾナの内部を進んでいく。
看守の指示で移動を開始した私たちは、両手に衣類の入った袋を持たされた状態だった。
この刑務所の内部は、まるで小さな町。
歩いて5分ほどの場所にまず一棟の建物があり、そこを「15番ゾナ」と呼んでいた。
その外観の形やサイズは、「まるで小中学校のような建物」。
名前を呼ばれた者たちは、そのまま吸い込まれるように中へ入っていったが、この中の様子はまったく見えなかった。
次に到着したのが、「16番ゾナ」と呼ばれる建物。
ここでも再び名前を呼ばれ、何人かが姿を消していった。
残されたのは――15人。
その中に、私、ギオ、ニキ、オタル、レゾの姿もあった。
そして、さらに歩くこと約5分。
私たちの目の前に現れたのは、圧倒的に巨大な建物だった。
名前こそ「新しいゾナ(アハリ・ゾナ)」だったが、
その外観は古びて色褪せ、鉄条網が何重にも張り巡らされている。
むしろ、今までの中で最も厳重で最も異様な場所に見えた。
アハリ・ゾナは、建物の周囲を金網と有刺鉄線に囲まれている。
刑務所の中に、さらにもう一層の“包囲”があるような造り。
そして――私がもっとも衝撃を受けたのは、その内側の光景だった。
そこには、数百人のジョージアンマフィアたちがギッシリと張りつくように集まっていた。
彼らは、まるで新人の到着を“獲物の入荷日”でもあるかのように待ち構えていたのだ。
最初はとにかく、その数の多さに驚き、圧倒された。
群衆による騒がしさも重なり、はじめはケンカでもしているのか?と思った。
だが、すぐにそれがとんでもない勘違いだったと気づく。
目の前に広がるのは、ただの“見物客”ではない。
むき出しの敵意と好奇心が入り混じった、異様な熱気を放つ獣の群れだった。
集まってくる数はどんどん増え、私たち新人15人は、完全に見世物状態。
彼らの目は笑っていなかった。
むしろ――「次の餌はどんな味か」とでも言いたげな目だった。
「見られている」というよりも、“値踏みされている感覚”。
15人の新入りに向けて、茶化し、罵声を浴びせ、見下す視線。
中には黙って、ジッと様子を伺っている者もいた。
人間ではなく、飢えた野獣たち――そんな表現がしっくりくる。
その圧倒的な空気に、私の呼吸は乱れていた。
看守による軽い身体検査ののち、金網のゲートが開く。
そして、網の中へと一歩踏み出した瞬間――
地響きのような声。
罵声、囁き、そして値踏み。
それらが、まるで津波のように襲いかかってきた。
「コロッセオに放り込まれたグラディエーター」――まさに、そんな心境だった。
その空気に飲み込まれそうになりながらも、周囲を見回した。
……が、気づけば、さっきまで一緒にいた連中の姿が見えない。
警戒しながら目を光らせていると、1人の若い男がこちらに近づいてきた。
彼は「ニカ」と名乗り、私の持っていた袋を取って、部屋まで案内してくれた。
ゾナ17番の建物内部には、さらに異様な光景が広がっていた。
構造は、まさに日本の学校そのもの。
だが、中にいたのは――全身にタトゥーを刻み、睨みを利かせた者たちばかり。
ニカによると、ゾナ17番だけで2000人以上が収容されているという。
それぞれの部屋は、マフィアのグループや派閥で分けられていた。
衝撃的な現実と、目の前の情報量の多さに戸惑いながらも――
ついに、私の“新居”に辿り着いた。
ルスタビ刑務所・ゾナ17番――308号室。
ここが、これから始まる新しい地獄のスタート地点だった。
(続く)
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