【一寸余談】火の用心
もう、夜の十一時をすぎていました。まだところどころに、広いあき地のある、さびしいやしき町を、火の番のおじいさんが、「火の用心。」ちょん、ちょん……。と、拍子木をたたきながら歩いていました。
「火の用~心、マッチ一本~、火事の元~」
その昔。寒い寒い冬の夜、布団に入って天井を見つめていると、夜警団の方たちが拍子木を手に町内を回る声が聞こえてくることがありました。
冷えた空気に拍子木のカンカンという音が響きわたると、子どもながらに身が引き締まる思いがしたものです。
つい最近、消防署の方がスピーカー付きの車で火災予防の巡回をしているのを見かけたのですが、お決まりの「火の用~心・・・」ではなく、「乾燥で火災が起こりやすくなっていますので、火の元に注意してください」のような説明口調の録音テープが流されていました。
確かに、わかりやすいといえばわかりやすいのですが、火の用心にあるようなキャッチ―さがない。
それにしてもこのフレーズ、時代劇やなんかで見聞きしたこともあるので随分古い言葉なのでしょうが、一体その起源はどこにあるのでしょうか。
東京消防庁のサイトによりますと・・・
火の用心の言葉の起こり
「火の用心」という言葉の起こりは、天正12年(1584年)家康と秀吉が小牧山で戦った際、家康の部下であった本多作左衛門という武士が国元の妻に送った「一筆啓上、火の用心、おせん泣かすな、馬肥やせ」という名文の便りからだという。
へえ!安土桃山?そんな昔からあるんですね。
その作者であるという、本多作左衛門ですが、この作左衛門というのは通称で、本名は本多重次というそうです。
一人の武士が妻へしたためた手紙の文言が、そのまま標語のようになって後世まで使われ続けるというのがすごい。書いた作左衛門さんもあの世で驚いているのでは。
火の用心って確かに語呂がいいですもんね。
それをもじった芸名を持つ俳優さんもいらっしゃいます。
ミステリ劇場や時代劇などによく出演されている日野陽仁さん。
さてここで、いつもの如く「青空文庫」検索で火の用心と入力してみた所・・・
泉鏡花の作品がいくつも出てきました。
「皆さん、申すまでもありませんが、お家で大切なのは火の用心でありまして、その火の用心と申す中にも、一番危険なのが洋燈であります。・・・」
たとえば旅行をする時でも、……「火の用心」と、「雀君を頼むよ」……だけは、留守へ言って置くくらいだが、・・・
「この風が、……何か、風……が烈しいから火の用心か。」
これこれ、火の用心だけは頼むよ、と云うと、・・・
……火の用心さっさりやしょう、 金棒の音に夜更けの景色。
この時は、軒提灯のあと始末と、火の用心だけに家々に残ったもののほか、・・・
そこで、火の用心に、 洋燈はフッと消したんですが、七輪の鍋下の始末をしなかったのが大ぬかり。
・・・ずらっとこんなに。
題がそのままずばりな「火の用心の事」という作品もあって、
この随筆にはこれまで鏡花が遭遇した火事について書かれており、
私が六つから九つぐらゐの頃だつたと思ふ。遠い山の、田舍の雪の中で、おなじ節分の夜に、三年續けて火の過失をした、心さびしい、もの恐ろしい覺えがある。いつも表二階の炬燵から。
特にこの子どもの頃のボヤ騒動の記憶が強烈なトラウマになっていた様子。
また、青年時代には金沢の大火(1892年)で実家が消失し、その後は関東大震災(1923年)も経験したといいます。
生涯にわたってこんなに火事に遭っていたら、火には十分に用心しなければってなりますよね。
・・・と、火の用心火の用心書いていたら、頭の奥の方から拍子木と太鼓の音が鳴り響いてきました。
ドン・ドン・ドンドンドン・・・
〽戸締り用心、火の用心、戸締り用心、火の用心・・・
1970年代から1980年代にかけて、毎日のようにテレビから流れていた謎コマーシャル。そこで流れていた火の用心の歌です。
(頭の中にメロディが流れてきた皆様、あの頃のちびっこ仲間ですね)
夕方ダラけてテレビを見ていたら、突然この歌が流れてきて「一日一善」とか道徳的なことを言われ(て水を差され)る訳です。
確か、曜日ごとに歌詞が違っていて・・・。ちょっと調べてみましょうか。
(某Tubeにあるので、興味のある方検索してみてください)

月曜日:〽月に一度は大そうじ「町をきれいにしよう」
火曜日:〽火には用心 火の用心「火遊びはやめよう」
水曜日:〽水はいのちのお母さん「水を大切にしよう」
木曜日:〽木や草花は友だちだ「自然を守ろう」
金曜日:〽お金は世のため人のため「物を大切にしよう」
土曜日:〽どろんこ風の子元気な子「体を鍛えよう」
日曜日:〽一日一回よいことを「親を大切にしよう」
上記のことを説くためにチンパンジーの子どもが無理なコスプレをさせられたり煙草を吸わされたりしています。それがもう、かわいらしいというより恐怖なのです。
その他、激しく纏を振るう「大きいことはいいことだ」でおなじみ作曲家の山本直純さん。
大太鼓をドンドン鳴らす「二倍二倍二枚二枚」でおなじみ力士の高見山さん。

問題はその中心にいる拍子木を打つおじいさんです。
当時はそれが誰だか知る由もなく、大人になってその正体を知り衝撃を受けました。(CM見た時のざわざわ感、あながち間違いではなかった)
・・・って、おっとっと、話が逸れに逸れてしまいました。
三月半ばとはいえ、まだまだ寒さと乾燥が続く季節です。
お互いに、火の用心いたしましょう。
春はすぐそこ。
