アフリカ域内貿易2,138億ドルの転換点!AfCFTAと産業化が変える商機【後編】
コンゴ民主共和国は、アフリカ最大の銅生産国であり、世界最大のコバルト生産国です。
ところがAfreximbank(アフリカ輸出入銀行)の『African Trade Report 2026』によれば、銅やコバルトなどの資源から生まれる付加価値の多くは、大陸の外の精錬業者に渡っています。
掘るのはアフリカ、付加価値の多くを得るのは域外。この構図をどう変えるかが、レポート後半の主題です。

前編では、同レポートをもとに世界経済の分断とアフリカ貿易の全体像を整理しました。
2025年、アフリカの商品貿易は約1.5兆ドルに拡大しましたが、その裏では貿易金融、物流、外貨、産業基盤といった構造的な課題も残っています。
後編では、アフリカが地政学リスクを産業化の機会に変えるための鍵として、商品市場、域内貿易、AfCFTA(アフリカ大陸自由貿易圏)、そしてPAPSS(汎アフリカ決済・清算システム)と貿易金融を読み解いていきます。
1. アフリカ商品市場の追い風とリスク
まず、アフリカ貿易を今も大きく左右する商品市場から見ていきます。
2025年の商品市場は、全体として下押し圧力を受けました。貿易摩擦の激化と世界経済の減速が背景です。
レポートが引用する世界銀行のデータ(WDI 2026)では、商品価格は2025年に約7%下落し、多くの指標が2024年の水準を下回りました。
原油では、指標となるブレント原油の平均価格が2024年の1バレル81ドル(約13,000円)から、2025年には69ドル(約11,000円)へ下がっています。
一方で、逆に値上がりしたものもあります。金です。マクロ経済の不安定さとドル安を背景に、安全資産としての金が買われました。
レポートは、投資資金の流入、公的部門の買い、そして供給の制約が重なった結果、金が2025年に53回もの過去最高値を更新したと説明しています。
銅やコバルトといった金属も、電気自動車や再生可能エネルギー向けの需要に支えられ、しっかりした動きを見せました。
銅は2024年末の1ポンド4.0ドル(約640円)から、2025年12月には5.68ドル(約910円)へ上昇しています。

こうした値動きは、アフリカにとって追い風にもリスクにもなります。
資源価格が上がれば輸出国は潤いますが、価格の乱高下は経済を不安定にします。
しかもレポートは、より根深い問題を指摘しています。銅、コバルト、ボーキサイトといった資源の利益の多くが、大陸の外の精錬業者に渡っているという点です。
域内に加工の力が乏しいため、原料を売っても、付加価値は他国に流れてしまうのです。

レポートは、こうした商品市場の動きを追う独自の指標として、Afreximbank African Commodity Index(AACI、アフリカ商品指数)を用いています。
これは、アフリカの輸出にとって重要な14品目(農産物7、金属5、エネルギー2)の価格をまとめた指数です。
2025年12月末のAACIは195.5で、6月の191.1から2.3%上昇しました。全体では小幅な伸びですが、その中身は分野で大きく分かれています。
とりわけ貴金属の指数は、6月の293.9から12月末には389.5へと大きく跳ね上がりました。

なお、2025年前半には米国が広範な輸入関税を打ち出しました。
ただしレポートによれば、米国とアフリカの貿易はアフリカの商品貿易全体の約5.1%にとどまるため、関税がアフリカ経済全体に与える影響は限定的だと見込まれています。

2. アフリカ域内貿易2,138億ドルの中身
次に、後編の中心テーマである域内貿易に入ります。
2025年のアフリカ域内貿易は5.47%増え、2,138億ドル(約34兆円)になりました。前年の2,027億ドルからの拡大です。
エチオピア、ウガンダ、コンゴ民主共和国、ザンビアなどの伸びが、この改善を支えました。

ただし、金額の大きさよりも注目すべきは、その比率です。
アフリカの商品貿易全体は約1.5兆ドル。そのなかで域内貿易は2,138億ドルなので、アフリカ諸国どうしの取引は、まだ全体のごく一部にとどまっています。
裏を返せば、外の世界に売り買いの多くを頼っているということです。域内貿易を厚くすることは、外部ショックへの耐性を高めるうえで欠かせません。

貢献度には偏りもあります。最大の担い手は南アフリカで、域内貿易の19.2%を占めています(前年は20.8%)。
大陸への輸出は311億ドルにのぼり、機械、自動車、電気機器、加工品などが主力です。
次いで存在感を増しているのがコンゴ民主共和国で、そのシェアは2024年の4.74%から2025年には6.74%へ上がりました。銅とコバルトが、その取引を支えています。

ナイロビで暮らしていると、域内貿易の広がりは日常のなかにも見えます。スーパーの棚には南アフリカのワインや加工食品、ウガンダやタンザニアから届く農産物が並びます。
もちろんこれはレポートの統計そのものではなく、筆者の現場感覚にすぎません。ただ、「アフリカの中でモノが動き始めている」という実感は、この数字の伸びと重なります。

3. AfCFTAはアフリカ貿易をどう変えるか
域内貿易を語るうえで欠かせないのが、AfCFTA(アフリカ大陸自由貿易圏)です。
AfCFTAは、アフリカ域内の貿易を拡大するための中核的な枠組みです。2025年には、AU(アフリカ連合)加盟54か国のうち49か国が批准書を寄託しました。
アフリカ諸国のほぼ半数が、AfCFTAの特恵関税で貿易するために必要な追加手続き(関税スケジュールの確定、AfCFTA事務局の承認、国内法への反映)を終えています。
とりわけ、ナイジェリアと南アフリカという大規模経済が特恵貿易に加わったことは、協定に大きな産業と市場の重みを加えました。

ここで大事なのは、AfCFTAが単なる「関税の引き下げ」ではないという点です。
レポートは、地政学的な分断が進むなかで、AfCFTAを地域バリューチェーン(域内で生産・加工・流通をつなぐ仕組み)の強化に重要な枠組みと位置づけています。
実際に動いているのは関税だけではありません。原産地規則、国家レベルの調整、貿易円滑化、そして決済です。
2024年に採択されたデジタル貿易議定書についても、2025年にはデータ管理や越境データ流通、デジタル決済などの付属書の交渉が進み、ケニア、ナイジェリア、ルワンダなどが国内制度の整合を始めています。

グローバルな供給網が不安定になるなかで、アフリカは域内で「作る・加工する・運ぶ」をつなぐ必要があります。

4. アフリカの未実現輸出ポテンシャル
では、アフリカのどの分野に、域内輸出の余地があるのでしょうか。
レポートは、国際貿易センターの手法を使って、アフリカ域内の「未実現の輸出ポテンシャル(潜在的には輸出できるのに、まだ実現していない輸出額)」を地域別に推計しています。地域ごとに、その中身は異なります。

最も大きいのが南部アフリカです。域内向けの未実現輸出ポテンシャルは約150億ドル(約2.4兆円)と推計され、その83%にあたる約124億ドルが10の品目に集中しています。
中身を見ると、鉱物資源(33億ドル)、自動車部品(18億ドル)、機械・電気(16億ドル)、鉄鋼(13億ドル)などが並びます。
これら工業品だけで、未実現分の半分以上を占めます。南アフリカの産業の厚みが、この数字を押し上げています。
他の地域も、それぞれ異なる余地を持っています。
東アフリカの未実現ポテンシャルは約82億ドル、西アフリカは70億ドル超、北アフリカは約55億ドル、中部アフリカは約24億ドルと推計されています。
地域ごとの主な余地を整理すると、次のようになります。

地域域内向け未実現輸出ポテンシャル(2025年)
南部アフリカ:約150億ドル(約2.4兆円)|鉱物資源、自動車部品、機械・電気、鉄鋼
東アフリカ:約82億ドル(約1.3兆円)|貴金属・鉄鋼、アパレル、鉱物製品、加工食品・野菜など
西アフリカ:70億ドル超(約1.1兆円)|食品、植物油脂、魚介類、貴金属、鉱物製品など
北アフリカ:約55億ドル(約8,800億円)|肥料、機械・電気、魚介類、プラスチック・ゴム、化学品など
中部アフリカ:約24億ドル(約3,840億円)|金属、加工食品、化学品、木材、植物油脂など
ここで見えてくるのは、「アフリカ=資源輸出だけ」という見方を超える可能性です。レポートは、UNCTAD(国連貿易開発会議)のデータを引きながら、2025年には域内の工業製品貿易が全体の貿易より速いペースで伸びた(ただし低い水準からの伸び)とも指摘しています。
域内向けの工業品、加工品、中間財に、まだ大きな伸びしろがあるのです。

5. PAPSSと貿易金融の重要性
もっとも、モノを作り、運ぶだけでは貿易は動きません。もう一つ、見えにくいけれど欠かせないものがあります。金融です。
レポートは、アフリカの輸出が「持続的な貿易金融ギャップ」に縛られていると指摘します。
外貨の流動性が乏しく、海外銀行とのコルレス(決済代行)関係も限られているため、アフリカの輸出企業は必要な資金を確保しにくい。これが、貿易を伸ばすうえでの重い足かせになっています。

その解決策の一つが、PAPSS(汎アフリカ決済・清算システム)です。
PAPSSは、アフリカ域内の取引で、ドルやユーロを介さずに決済できる仕組みを目指しています。これにより、外貨への依存と取引コストを下げることが期待されています。

そしてもう一つが、開発金融機関の役割です。レポートによれば、Afreximbankは戦略計画VIのもとで、2024年に175億ドル(約2.8兆円)を実行しました。
そして2026年までに、域内貿易金融を400億ドル(約6.4兆円)へと倍増させる方針を掲げています。
その資金は、短期の貿易金融にとどまりません。産業団地、経済特区、決済インフラ、地域バリューチェーンへも向けられます。
加えて、開発金融機関の資金と民間投資を組み合わせるブレンデッドファイナンス(混合金融)や、為替リスクを抑える現地通貨建ての金融も、レポートは重視しています。

Afreximbankは過去にも、危機のたびに逆張りの資金供給を行ってきました。
レポートによれば、2015〜2016年の商品価格の急落時にはCountercyclical Trade Liquidity Facility(逆周期貿易流動性ファシリティ)を通じて100億ドル超、コロナ禍ではPandemic Trade Impact Mitigation Facility(パンデミック貿易影響緩和ファシリティ)を通じて70億ドル超を供給し、アフリカの輸入と外貨を支えてきました。
貿易は、港と道路だけでは動きません。決済と信用があって、はじめて動くのです。
6. アフリカ産業化に必要な政策条件
ここまでの話を、レポートは政策提言としてまとめています。
出発点にあるのは、産業化です。アフリカの輸出構造は、これまで付加価値の少ない一次産品に偏ってきました。
この依存が、価格変動への弱さと、雇用や産業の育ちにくさを生んできた。
だからこそレポートは、原料の輸出から、域内での加工・生産へと軸足を移すよう促します。
生のカカオや未加工の鉱物を売るのではなく、農産加工、石油化学、金属加工といった川下の産業を育てる。
そのために、農業・鉱物・エネルギー分野の現地加工、技術と人材、そしてAfCFTAのもとで地域バリューチェーンとつながる産業団地・経済特区が必要になります。

レポートが挙げる条件を整理すると、AfCFTAの実装加速、原産地規則・関税スケジュール・国家調整の強化、交通・物流インフラの整備、デジタル決済インフラの拡大、貿易金融と開発金融機関の強化、産業団地・特区・地域バリューチェーンへの投資、輸出先と輸出品目の多角化、そしてグリーン・ブレンデッド・現地通貨建て金融の活用、といった項目が並びます。
どれか一つではなく、これらを束ねて進めることが、地政学リスクを産業化に変える条件だというのがレポートの主張です。

7. 地政学をアフリカ成長の機会に
最後に、レポートが描く展望を見ておきます。
2026年の世界貿易は、厳しい見通しです。世界の商品貿易の伸びは、2025年の4.6%から2026年には約1.4%へと大きく減速すると予測されています。
エネルギーコストの上昇、海運の混乱、地経学的な分断が背景です。中東情勢やホルムズ海峡をめぐるリスクも、下押し要因として残っています。
そうしたなかでも、アフリカは相対的な強さを保つと見込まれています。
世界貿易機関(WTO)の推計では、アフリカの2026年の実質GDP成長率は4.3%と、主要地域のなかで最も高くなる見通しです。輸入は3.2%、輸出は1.2%の伸びが予測されています。
レポートはまた、Afreximbankが31の国際的な貸し手による同行最大規模の協調融資で20億ドル(約3,200億円)を動員したことにも触れ、域内貿易金融の倍増や産業団地・特区の整備を通じて、この動きを後押しする構えを示しています。

冒頭の問いに戻りましょう。銅やコバルトを掘っても、利益の多くが域外に流れてしまう——この構図を変えられるかどうかが、アフリカ貿易の次の焦点です。2025年に貿易は拡大しました。
しかし、外部の市場・通貨・物流に頼り続ける限り、アフリカは地政学リスクの影響を受け続けます。
だからこそレポートは、AfCFTA、PAPSS、域内貿易金融、産業化、地域バリューチェーンを重視します。
課題は「貿易量を増やす」ことではなく、「域内で付加価値を生み、外部ショックに強い貿易構造を作る」こと。
これが、レポートのタイトルにある「地政学を活かす(Leveraging Geopolitics)」の意味です。

この視点は、日本の読者にとっても他人事ではありません。
アフリカを「資源の産地」としてだけ見るのか、それとも、域内で付加価値が生まれ始めた市場として、加工・製造・決済のパートナーとして関わるのか。
世界の供給網が組み替わるいま、その見方の差が、これからの機会の差になっていくのではないでしょうか。
Afreximbankのレポートが示しているのは、アフリカが地政学リスクの被害者にとどまる必要はない、という視点です。
重要なのは、世界の分断を嘆くことではなく、そのなかでアフリカ自身の生産、貿易、金融、決済の仕組みをどう強くしていくかなのです。

※本記事はAfreximbank『African Trade Report 2026』(2026年6月刊)の内容に基づく解説です。通貨換算は1ドル=約160円で計算しています。
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アクセルアフリカは、『日本とアフリカ諸国を繋ぎ、社会課題解決型ビジネスを共創することで、アフリカの持続的成長に貢献する』をビジョンに掲げる日系コンサルティング会社です。
ケニアの事務所とコミュニティハウスを拠点に、アフリカ主要国をカバーし、市場調査から現地パートナー探索、事業開発支援までを一気通貫でサポートしています。
「アフリカの産業化やバリューチェーンに、加工・製造の側から関わりたい」とお考えであれば、ぜひお気軽にご相談ください。
❚ 情報参照元
Afreximbank "African Trade Report 2026 — Leveraging Geopolitics for Trade and Industrialisation in Global Africa" (2026/06)
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