「お腹の赤ちゃんと、夫の命。どちらも失いたくない」雪の日も吹雪の日も、祈りながら運転した|ことり日記|第二話
お腹の赤ちゃんと、夫の命。
そのどちらも失いたくなくて、
雪の道を祈りながら運転していました。
夫の病状が進むなか、
私は日々をただ「生き抜く」ことに集中していました。
大きなお腹で祈りながら運転した、
あの冬の日々を綴ります。
一本の電話から
結婚してほどなく妊娠し、
切迫流産で緊急入院。
退院後も薬を飲みながら
自宅で安静を続けていました。
そんなある日
自宅に一本の電話がかかってきました。
「夫(本人)のことでお話があります」
ただそれだけの言葉。
余命を告げられるなど、
思いもしませんでした。
大きなお腹を抱えて
一人で車を運転し、病院へ。
おそらく医師は、
私が妊娠中だとは想像していなかったでしょう。
そして静かに告げられたのは
「末期の癌、余命は残り一年」
という現実。
頭が真っ白になり、
受け止めることができませんでした。
受診と現実
最初の病院から
「大きな病院での精密検査が必要」と紹介状を渡され、
夫は何度も受診を重ねました。
検査、診察には長い時間がかかり、
仕事を休まざるを得ない日が続きました。
生活の歯車が
少しずつ狂い始めていたのを感じていました。
医療費も、生活費も。
夫は働けない。
私は妊娠中で、働けない。
不安が、どんどん膨らんでいきました
冬の道を祈りながら
それからは
夫の闘病と入院、私の妊娠生活と看病が同時に始まりました。
自宅から病院までは車で約一時間。
雨の日も、
雪の日も、
吹雪の日も。
私はハンドルを握り続けました。
「交通事故にあいませんように」
「安全運転で行くから、お腹痛くならないでね」
切迫流産のリスクを抱えながら、
毎日お腹の赤ちゃんに手を当て、
話しかけながら祈るように運転していました。
行きは「無事に病院につくこと」だけを目標に。
帰りは「無事に自宅へ戻ること」だけを目標に。
洗濯物や日用品を抱えて
真っ暗な自宅に戻る。
一人きりの部屋で、
自分の運命に涙が止まりませんでした。
「なぜ、私たちがこんな目に……」
でも、泣いていても何も変わらない。
明日も、病院へ行かなくてはいけない。
病室でかけられた言葉
冬のある日、
同室の患者さんから、声をかけられました。
「奥さん、冬は来ない方がいいよ。インフルエンザが流行っているし、風邪をもらったら大変だから」
あっという間に冬になっていました。
病院内でインフルエンザの患者が増えていたのでしょう。
その言葉で、ハッとしました。
「私は感染できない」
「お腹の子を守らないといけない」
それでも
夫を放っておくことは、
どうしてもできませんでした。
そして、徐々に、
余命と言われた一年も迫ってきていたのです。
思い描いていた新婚生活とは違って
私が思い描いていた新婚生活は、
夫に重い荷物を持ってもらい、
安心してお腹の子の成長を楽しむ日々でした。
けれど現実は、
病院通いと看病。
自分の体調との闘い。
お風呂掃除ひとつでも体にこたえ、
食事には気をつけようと思いながらも、
当時何を食べていたのか記憶がほとんどありません。
あの日々を受け止めるには、
相当な精神力が必要でした。
振り返って
あの頃の私は、妊婦であり、
看病する妻であり、
家事を担う一人の人間でした。
でも、そのどれもが限界で、
ただ「今日を無事に終えること」だけを目標に生きていたように思います。
無我夢中
まさしく、あの一年を表す唯一の言葉です。
涙することも多かったです。
でも、「泣くと胎教によくない」と自分に言い聞かせ、
前向きに今日一日を生きようとしました。
生まれてくる我が子のために。
夫も「治療して元気になるから」と信じていました。
自分が死ぬということを知らないからこそ、
私は元気をづけるしかなかった。
どうしようもない気持ち、
情けない気持ち、
想像を絶する毎日。
お金の心配もしなくてはいけない重荷
けれど、前に進むしかなかった。
「今日を、今を、ただ大切に生きよう」
そう思いながらの日々でした。
→ 第三話「奇跡の出産と夫の最期──母になった日、夫を見送った日」へ続きます
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大切な人の闘病を支えた経験のある方、 いま同じような状況で頑張っている方、 妊娠と看病を同時に経験された方へ。
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