あの日の試験より、覚えていること|ことり日記|第四十話
子どもの受験の日のことです。
試験が終わってから、ある出来事を知りました。
試験会場に向かう前、私は何度も持ち物を確認しました。
時計も、そのひとつでした。
私は、自分が試験を受けてきた経験から、
時計は必ず二つ持っていくようにしていました。
電池が急に止まることもある。
そう思うと、ひとつだけでは心配だったのです。
だから、子どもにも、時計は二つ持たせました。
試験が終わってから聞いた話です。
そのことは、子どもからではなく、相手のご家族から聞きました。
子どもは、そのことについて、何も言いませんでした。
同じ会場に、時計を忘れてしまった子がいたそうです。
子どもは、その子に時計を貸していました。
一日がかりの試験だったと思います。
途中で止まったらどうしよう。
そう考えたら、私だったら、できたかどうかわかりません。
でも、子どもは迷わなかったようでした。
ただ、貸した。
それだけだったのだと思います。
その話を聞いたとき、
私は何も言えませんでした。
正しいとか、間違っているとか、
そういうことではなくて、
「ああ、この子はこういう人なんだな」と思いました。
親の私とは、少し違うやり方で、
世界を見ているのだと。
あの日の試験の結果よりも、
私は、その小さな出来事のほうを、今でも覚えています。
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