ねこま先生の日本昔話研究 「猫檀家」編
こんばんは!🐯
日本の昔話を研究して
もうすぐ50年!
日本昔話研究家・ねこま先生です。
アナタは、日本昔話は好きかな?
同じ昔話だけど、地方によって、
お話が違うことがあるんだけど、
そういう経験ってあるかな?
大好評をいただいたので、
今夜も、同じ昔話だけど、
地方によって異なる内容を
ご紹介していこうと思います。
このシリーズは、
以下の本を、引用と参考にさせていただいております。
なお、古い本なので、現在では無い・変更された
地名もありますが、ご了承くださいね。
『日本昔話大成 第6巻 本格昔話5(1978)』
関敬吾(著)
これをお読みのアナタの隣には、
かわいいネコちゃんがいるでしょう?
今は、アナタの膝の上で寝てるかな?
それとも、離れた所でヘソ天して寝てるかな?
ネコちゃんも、長く飼っているとお話をします。
―― そして、あなたに”恩返し”をします。
今夜、アナタにご紹介するのは、
そんな昔話です。
その名も ――
『ネコ檀家(だんか)』です。
檀家って、あなたはわかりますか?
ご存知だと思いますが、
念のため、簡単な説明をしておきます。
檀家(だんか)とは、お寺を支える家のことです。
法事やお参りのときにお寺にお願いをしたり、
日ごろからお寺を支える役割を持っています。
昔から今も、地域の人々とお寺をつなぐ大切な存在です。
今風にいえば、お寺のサポーターだね。
檀家さんは、お寺の活動(お葬式や法事など)をお願いしたり、
お寺が古くならないように(建物を直すなど)
経済的に助けたりする、お寺の大切なサポーターともいうべき存在です。
じゃあね、このことを踏まえた上で、
『ネコ檀家』って、どんなお話だろうね?
そんなにメジャーな昔話でもないので、
定型から、読んでいただこうと思いますが、
引用本からだと、定型になるお話は、
方言で書かれているので、
短くて、わかりやすく書かれている、
「すみからすみまで昔話」様から、
感謝して、引用紹介させていただきたいと思います。
「すみからすみまで昔話」様、
本当にありがとうございます。🙇
『ネコ檀家』 定型
むかしむかし、あるところに、滅多(めった)に人が訪れることのない
貧しい山寺がありました。その山寺には年老いた
和尚さんが住んでおりました。
和尚さんは、一匹の年老いた虎猫を飼っていて、
自分の食物を半分に減らしてでも虎猫に食たべさせて、
子どものように可愛がっていました。
ある日のこと、和尚さんは虎猫に向むかって、
「ワシでさえ、食べ物がなくて困っている。
本当に気の毒だが、おまえに食べ物をやることもできなくなりそうだ。
今のうちに、どこか食べ物のあるところへ行いっておくれ」
と言うと、和尚さんの顔をじっと見ていた虎猫は、
悲しそうな顔をして、しょぼしょぼと出て行いきました。
それから何日か過ぎて、ある晩のこと、
和尚さんが寝ていると起こすものがいました。
よく見たら虎猫でした。
「和尚さま、和尚さま、
長いことお世話になったので、
和尚に何か恩返をしたい」
と虎猫が言いました。
人間の言葉を話し出した虎猫に和尚さんは驚きましたが、
虎猫は気にせず話し続つづけました。
「近いうち、長者さまがとてもかわいがっている一人娘が亡くなるので、
その葬式の時、おいらが娘の棺桶を空に浮かします。
長者さまが慌わてるから、その時、
和尚さまがお経を唱えてください。
そのお経の中で、
『南無トラヤヤ、トラヤヤ』
と声を掛けてくれたら、おらが棺桶を下におろします。
そしたら、その内、きっと良いことが起こります」
と言って、虎猫はどこかへ行いってしまいました。
しばらくすると、虎猫の言った通り、
長者さまの一人娘が病気で亡なくなりました。
お葬式は、偉いお坊さんたちを招いて、立派なものでした。
ところが、山寺の和尚さんだけは招かれませんでした。
行列をつくって棺桶を運んでいたところ、急に生臭い風が吹いてきて、
長者さまの娘を納めた棺桶が、突然、空に舞い上がりました。
これには、長者さまの家の人たちや行列に参加した人たちは、驚きました。そして、その場にいた偉いお坊さんたちが
必死に祈祷(きとう)しても、棺桶は動きませんでした。
もう藁(わら)にもすがる思いで、
山寺の和尚さんが呼ばれることになりました。
和尚さんは破れた法衣を着て、杖をつきながら、のんびりとやって来て、
空を仰ぎ見ながら、ゆっくりとお経を唱えはじめました。
そして、いい加減なところで、
「南無トラヤヤ、トラヤヤ」と、
虎猫に教わった呪文を唱えました。
すると、今まで空に浮いていた棺桶が、
そろりそろりと下りてきました。
この一件から、多くの家がこの山寺の檀家(だんか)となり、
貧しかった山寺は見違えるような立派なお寺となって、
後々まで栄えたそうです。
そして、和尚さんはと言うと、名声が広まったことで、
まるで生き仏のように崇(あが)められ、
余生を安楽(あんらく)に暮らしたそうです。
(引用元 すみからすみまで昔話 昔話『猫檀家』より)
いかがでしたでしょうか?
この昔話を、「初めて読んだよ」っていうあなたも
いたのではないかと思います。
ここからは、派生ヴァージョンを
ご紹介して行きたいと思います。
(香川県 三豊郡 )
―― 地元の人たちから「いやだにさん」と呼ばれ親しまれ、
「弘法大師御学問所」としても広く知られている由緒あるお寺。
香川県の四国八十八ヶ所霊場
第71番札所である「弥谷寺(いやだにじ)」。
―― その弥谷寺の檀家で、亡くなった人が出ました。
葬式を明日に控えた夜のことです。
和尚が明日の葬式で話すことなどを考えていますと、
急に辺りに妖気が立ち込めたと思うと・・・

猫又(ねこまた)と呼ばれる妖怪が、
突如、和尚の目の前に出現しました。
アナタは、猫又をご存知でしょうか?
猫又は、10年以上生きたネコが霊力を得て化けた妖怪です。
多くの伝承で、猫又は尾が二股に分かれた姿で描かれます。
人間に化けたり、人間の言葉をしゃべったりするんです。
それだけじゃないんですよ。
人間を惑わしたり、操ったり、時には死体を動かしたりする、
恐ろしい妖怪なんです。アナタのネコちゃんは大丈夫ですか?
その大きな猫又が、和尚さんに近づいてきて
目の前まで来た時、「殺される!」と和尚さんが思った時です・・・
猫又
「ゴロニャーゴ!和尚さん」
和尚
「えっ?(汗)・・・ご・・・ごろにゃーご・・・」
その見た目とは裏腹に、
あまりにもフレンドリーなので、
和尚さんはビックリしていると・・・
猫又
「こんばんは!和尚さん。
そして、お久しぶりです!
―― 3年前の嵐の夜にいなくなった
”クロ”です。覚えていますか?お懐かしい(涙)」
そう猫又にいわれて、
3年前の嵐の夜。
7年から8年くらい境内で飼って可愛がっていた
”クロ”と呼んでいた黒色の毛並みのネコを思い出しました。
和尚
「―― お前がクロ?
あんなに小さくてやせていたクロが、
随分と大きくなったもんだなあ。(笑)
随分と探したけど、
結局は諦めたんじゃが・・・
そういえば、10年以上になるかのお。
霊力を授かって、猫又になるとはなあ。」
和尚さんと猫又は、
抱き合って再会を喜びました。
猫又
「和尚さんは、ネコが好きで
ボクたちネコとばかり遊んで、
あまり仕事しないから、
由緒あるお寺なのに、
お金に困ってばかりでしょ?
―― だから恩返しをしようと思ってね。エヘヘ。」
猫又は、大きい体を、
恥ずかしそうに小さく縮めながらいいました。
和尚
「そうじゃな。
わしは、お経を唱えてるより
ネコと遊んでおるほうがいいんじゃよ。(笑)
それにしても、何をするつもりなんじゃ?」
和尚さんは、首を傾げながら猫又に聞きました。
猫又
「ゴロニャーゴ!
まあまあ、そんなこといわないで。
お寺もお金持ちになって、
和尚さんにも楽(らく)をさせてあげたいの。
明日のお葬式はね。
雨霧山の猫又と、弥谷山の猫又が
死人を取ることになっているだよ。
雨霧山の猫又が都合が悪くて出れないので、
ボクが出ることになったんだ。 」
和尚さんは、そんなことになっているのかと
驚きながら、話の続きを聞くのでした。
猫又
「とにかく明日、夕立を降らせるので、
雨具の準備をするように、
あらかじめ、みんなにいっておいてね。
それから先は・・・ごにょごにょごにょ・・・」
猫又は、和尚さんの耳元で、
明日の段取りを伝えるのでした。
和尚
「うんうん・・・なるほど・・・」
さあ、どうなるんでしょうかね。
明日の打ち合わせが終わると、
猫又は帰っていきました・・・
猫又
「じゃあ、和尚さん!
明日は、打ち合わせ通りにやってよね。
また明日~~~!
―― ゴロニャーゴ!」
翌日になって・・・
亡くなった人の家は、
長者の家の者でした。
長者を始め、
たくさんの人が参列して、
無事、葬式も終わって、
棺桶(かんおけ)を寺まで運ぶ道中でのことです・・・
長者
「和尚さん、雨具を用意しろだなんていったけど、
どうやら雨の心配は大丈夫みたいですな。」
長者がそういった時です ――
”バリバリバリッ~~~~!”
突如、一陣の稲光(いなびかり)がしたかと思うと、
美しい夕焼けの光景は一瞬にして、
黒雲が一面を覆う(おおう)景色へと変わりました。
”ザァァッ~~~~~!!”
突然の夕立に参列者が襲われて、
すぐさま、用意していた雨具で激しい雨を防ぎます。
長者
「ああっ!棺のフタが勝手に開いて
亡骸(なきがら)が宙に・・・」
長者が指差した先には、
激しい夕立の中、参列者たちが見ている前で、
棺桶の中から、独りでにゆらりと空に舞い上がったのです。
和尚さんは、心の中で・・・
和尚
(クロが、夕べいった通りになっておる。
あやつめ、なかなかやりおるわい。
―― さて、わしもそろそろ始めねばな。)
突然の夕立を当てたことで、
和尚を見る、参列者の目が違ってきていました。
目の前で起こる不可解なことに、
「もう、この和尚でしか解決できない。」と、
長者をはじめ、その場の誰もが思っていました。
長者
「和尚さん、なんとかしてください!
なんとかしてくだされば、
お礼は弾(はず)みますし、
寺への寄進(寄付)は、もちろんたんまりと、
檀家(だんか)が増えるように、私が協力します。」
長者が、わらにもすがるような態度で、
必死に和尚さんに助けを求めます。
それを聞き終わると和尚さんは ――
和尚
「これこれ、皆(みな)の衆(しゅう)、
そう慌(あわ)てなくても大丈夫ですぞ。
今、拙僧(せっそう)が、
とある経を唱えますので、
さすれば、たちどころに静まりますぞ。」
長者をはじめ、その場にいた全員が、
和尚さんに向かって手をあわせました。
和尚さんは、片手に持った数珠(じゅず)を
天高くあげると、次のようなお経を唱えました。
和尚
「南無南無南無・・・
―― ゴロニャーゴ!」
そう唱えると、
猫又と打ち合わせした通りに、
持っていた数珠で、
棺桶の端を、何度か叩いた。
”コン!コン!”
すると間もなく・・・
先ほどまでの夕立がウソのように晴れ、
空を舞っていた亡き骸も、
棺桶に戻ったではありませんか。
このあと、長者からは
たくさんのお礼と、
寺への寄進がありました。
長者も檀家が増えるのに協力してくれましたが、
このことが、遠くの村々にまで広がり、
「霊験あらたかな和尚のいる寺」として、
たくさんの寄進と、たくさんの檀家があつまりました。
猫又と和尚さんはといいますと、
夜になると、昔のように
膝の上に乗せてやるわけにはいきませんが、
和尚さんのそばで、たまに猫又は寝ていました。
ただ、あの日から数日は、
猫又は姿を見せずにいました。
和尚さんは、大変心配しましたが、
数日すると、夜にふらりとやってきました。
和尚さんは、猫又の顔を見るとハッとしました。
―― 猫又の片目が潰れていたのです。
猫又が何もいわなかったので、
和尚さんも何も聞きませんでしたが、
猫又と最初にした会話を思い出すと、
雨霧山の猫又か、弥谷岳の猫又のどちらかに、
今回の一件を責められ、
詫(わ)びとして、己(おのれ)の目を、
差し出したのかと思うと ――
「申し訳ないことをさせたな。」と、
目に涙を浮かべて、”クロ”と呼んでいた頃と
同じ様に、猫又になってしまったクロの、
大きな黒い背中を、愛おしそうになでる和尚さんでした。
猫又
「―― ゴロニャーゴ!」
めでたし、めでたし。
(徳島県 三好郡 )
―― むかし、この地にある竜寺と呼ばれる寺に、
「いちくろろく」というネコが飼われていました。
和尚さんが、お茶を入れたいなと思うと、
既にお茶がいっぱいになって入っている。
そんなことが、よく続きました。
和尚さんは、飼っているネコが、
猫又のように、魔に魅入れられて
妖(あやかし)や、魔物の類になったと思い、
いちくろろくを、捨てねばと思っていた頃 ――
寺の天井に、「きゅうしょう」という
化け物ネズミがいて困っていた。
いちくろろくは、和尚さんの心が読めたので、
捨てられるなら、せめて恩返しにと思い、
仲間のネコたちを連れてくると、
「きゅうしゅう」を退治した。
和尚さんは、このことに喜び、
いちくろろくに、「寺にいて欲しい」と願うも、
いちくろろく
「もう寺を離れると決めている。
300軒の檀家をつけるから、
それで、離れさせて欲しい。」
そして、その方法を和尚さんに教える。
ちょうどその頃、村のばあさんが亡くなり、
葬式に和尚さんが呼ばれて、
寺に棺桶を運ぶ道中でのこと・・・
むこうから、いちくろろくが化けた、火の車がやってきて、
ばあさんの入った棺桶を空へと巻き上げた。
参列者が困っている中、
いちくろろくとの打ち合わせ通りに、
和尚さんがお経を唱えると、
火の車は消えて、棺桶も元に戻った。
このことから、霊験あらたかなる和尚がいる寺と、
たくさんの檀家が増えて、その数、300軒となり、
和尚さんも、竜寺も豊かになりました。
いちくろろくは、和尚さんに恩を返したので、
雲辺寺というお寺の裏山に行き、
そこで暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし。
(岡山県 阿哲郡 ) #広島県・鳥取県など複数の地方で類似の話あり。
―― むかし、貧乏な和尚さんがいました。
その和尚は、山奥の荒れた古寺でミケネコ(三毛猫)と暮らしていました。
そのミケネコが、
ここ最近、手ぬぐいをくわえて
障子に空いた穴を通って、
どこかへ夜な夜な遊びに行きます。
ある夜のことです。
不思議に思った和尚さんが、
こっそりと障子の穴からくぐるのを
みていますと・・・
和尚さん
「ありゃっ!」
なんと、障子の穴をくぐると、
ミケネコの体は、大きくなりました。
手ぬぐいをかぶると、
山の方に行きます。
和尚さんも、ミケネコが
何を山でしているのか
気になって山へと急ぎます。
ミケネコの方が足が速く
途中で見失いそうになりますが、
足跡をたどって、何とかミケネコが
行った場所に到着しました。
和尚
「ありゃりゃ!」
そこには、ミケネコと同じように、
体を大きくしたネコたちが円を描くように
座っていて、みんな手ぬぐいを頭に被っています。
そして、なにやら中央でネコが一匹
何かしてるのを、みんなで喜んで見ています。
和尚さんが、よーく中央のネコを見ますと、
寺で飼っているミケネコでした ――
和尚さん
「ありゃりゃりゃ!」

ミケネコ
「いいざますか?
タオルをこう艶(つや)っぽく、
くわえるざまーす。
流し目で色っぽくね。♡
腰は柳腰(やなぎごし)でね。
柳の枝のように細くしなやかな腰つきざますよ♡
これが出来たら、オスネコなんてイチコロざまーすよ!
ホラホラッ、みなさん、やったんさい!
どんどんやってみるざますよ!
レッツ!ダンシングざます!」
こうミケネコがいうと、
円を描いて座っていたネコたちが一同に立ち・・・
円を描いて座るネコたち
「はいっ!ミケネコ師匠!」
ネコたちは、次々にタオルを艶っぽくくわえ、
ミケネコのマネをして、踊る練習をしていた。
和尚さん
「うちのミケネコが、しゃべってる・・・
それに踊りの稽古(けいこ)も、つけてるだなんて。」
和尚さんは、信じられない光景を目にして、
一目散(いちもくさん)に山を下り、寺に帰って行った。
―― 翌日
朝になると、和尚さんは
ミケネコ師匠を部屋に連れて来ると、
夕べ見たことをすべて話した。
すると、ミケネコ師匠の体は
人間のような大きさになり、
直立して、いつの間にか
着物まで着ていました。
閉じていた障子を
”パッーン!”っと勢いよく開け放ち、
晴天の青空を黙って見ながら、
和尚さんに背を向けて、
話の続きを聞くのでした。
和尚さん
「お前と別れるのは寂(さみ)しいが、
私は、仏の道に生きる者。
妖や魔物となったお前とは、
この先、一緒に暮らせないんだよ。
―― わかってくれるかい?」
和尚さんの話が終わった後、
ミケネコ師匠の目から
一筋の涙がこぼれ落ちたのでした。
―― すぐに顔をあげると
涙をぬぐい、こういうのでした・・・
ミケネコ師匠
「―― これも”ディスティニー”ね・・・」
ミケネコ師匠は笑顔になって、
振り返りました。
ミケネコ師匠
「アタクシ、これからは、
かわいい生徒たちとともに、
”ダンス”の道に生きるざますわ。
和尚さんには、
アタクシがいなくても
困らないように”恩返し”をしてから去るわ。
いい、アタクシのいう通りにするざますわよ。
明日、隣村の長者の一人娘の葬式が行われるわ。
そこで・・・ごにょごにょごにょ・・・」
和尚さんは、ミケネコ師匠のいうことに、
うれしそうに、うなずくのでした。
和尚さん
「フムフム・・・なるほど・・・」
―― 翌日
和尚さんは、正装をして、
ミケネコ師匠にいわれた通り、
隣村までやって来て、
長者の娘の家の前を通りがかった。
”ちょっと!そこのお坊さま!”
和尚さんを呼び止めたのは、
他ならぬ、この家の主の長者でした。
長者
「とにかく!中に一緒に来てください。
葬式が・・・娘が・・・大変なんです!」
かなり慌てた様子で、
長者は、和尚さんを強引に屋敷の中へ
引っ張ってゆくのでした。
屋敷の中に入ると、
広い中庭で、緋色(ひいろ)、
つまり深い紅色の袈裟(けさ)をまとった、
位の高い僧が何人も集まってお経を唱えていました。
昔の日本では、色には厳格な序列があり、
位の高い者だけが、着用を許されました。
僧侶の世界でも、袈裟の色は、
その僧侶の地位や徳の高さを示します。
簡単に僧の世界の序列をご紹介しましょう。
・ 紫(しえ): 最高位。特に天皇の勅許を得た僧侶が着用。
・緋(ひえ): 紫に次ぐ高位。長老や徳の高い僧侶が着用。
・黄/黄檗(おうばく): 緋に次ぐ位。
・黒/墨(こくえ/すみに): 一般の僧侶が日常的に着用する色。
緋色の袈裟をまとった位の高い僧侶を、
何人も呼べるということは、
いかに長者が金持ちかわかりますよね。
話を戻します。
緋色の僧侶たちが読経する中、
長者が興奮した様子で、
天を指さすとこういいました・・・
長者
「和尚さん、見てくださいよ!
棺桶のフタが勝手に開いたと思ったら、
棺桶が空高く宙に舞い上がったかと思うと、
死んだ娘が起き上がって、
ああやって踊ってるんですよー!
何とかしてください和尚さん!
お礼はもちろん、檀家のたくさんいる、
いいお寺の住職にもしますから!」
そういうと、緋色の僧たちの読経をやめさせ、
和尚さんに何とかしてくれるよう頼みました。
緋色の僧たちは、面白くない顔をしながら、
和尚さんが何をするのか、
軽蔑(けいべつ)した眼差し(まなざし)を向けるのでした。
和尚さんは、昨日、ミケネコ師匠に
教わった通りのお経を唱えるのでした。
和尚さん
「南無南無南無・・・
サタデーないとは、フィーバーじゃ・・・南無南無南無・・・」
こんな訳の分からないお経で
本当に元に戻るのだろうかと、
半信半疑ながらも、目をつぶって、
ミケネコ師匠に教わったお経を、
一心不乱に唱える和尚さん・・・
”ガタン!”
長者「おおっ~~~!」
なんと、宙に舞い上がっていた棺桶が、
和尚さんの読経の中で、静かに地面に着地しました。
もちろん、踊っていた娘も元通りになって。
長者は喜んで、
緋色の僧たちに再び読経するように指示します。
和尚さんが読経を止めて、
緋色の僧たちが、読経を再開すると・・・
長者
「ああっ~~~!
やめてください!読経をやめてください!
和尚さん!和尚さん!
また、あのお経を唱えてください!
娘の葬式は、和尚さんにすべて任せます!」
何が起こったのかといいますと、
緋色の僧たちが、一斉にお経を唱えたら、
再び、棺桶のフタは勝手に開いて、
棺桶は宙に舞い上がり、娘はまた踊り出したのでした。
その後、再び例のお経を
和尚さんが一心不乱に唱えますと、
棺桶も娘も、元に戻りました。
緋色の僧たちは、あれだけ見下していた和尚さんを、
”霊験あらたかなるお方”として敬意の眼差しに代わり、
和尚さんが取り仕切る葬儀の手助けをしました。
無事、葬儀も終わり、
和尚さんは、長者の計らい(はからい)で、
たくさん檀家のいる、大きくて立派なお寺の住職になりました。
和尚さんは、ミケネコ師匠に感謝しながら、
お金に困ることのないお坊さんとして、
一生を豊かに過ごしたのでした。
ミケネコ師匠
「ダンスはパッションざますよ!みなさん!」
めでたし、めでたし。
(鳥取県 東伯郡 )
雲(うん): 空をさまよう雲のように行き先を定めない。
水(すい): 流れる水のように一つの場所にとどまらない。
主に禅宗の修行中の僧侶ことを、
「雲水(うんすい)」と呼ぶ。
―― むかし、ある雲水が、
原という村に立ち寄った時、
松の木の上で、野宿をすることになったそうじゃ。
しばらくすると、どこからか、
歌うような声がするので、
耳を澄(す)ませてよく聞いてみると・・・
「原の東蔵猫が取る。」
こんなことを歌に乗せて、
何度も何度も繰り返していたそうじゃ。
―― 翌朝になって、
雲水は、昨日の歌が気になって、
原という村に「東蔵」という者がいないか
訪ね歩いたら、「東蔵」という名の男がいた。
雲水は、東蔵に猫がいるかといって聞くと、
いるといったので、昨日聞いた歌のことを話した。
東蔵が笑いながら、
「うちのネコは、大人しいから
何かの間違いだ。
ほれっ、こうやってそばに寄って来て、
かわいいもんだよ。」
そういった次の瞬間 ――
”ガブッ!!”
おぞましい声と共に、
そばにいたネコが、
突如、東蔵の喉(のど)に食いつくと、
そのまま殺してしまった・・・
雲水は、目の前で起きた惨劇(さんげき)に、
ただ、あ然とするばかりで何も出来なかった。
―― 声の主は、この土地を守ってくれている
氏神(うじがみ)さまだったそうじゃ。
―― さて、今夜の昔話は、ここまでにしたいと思います。
最後に、ひとつだけ気になるお話があったので、
アナタにご紹介して、お別れをしたいと思います。
山形県最上郡に、昔、こんなお話があったそうです。
今まで嫁を8人も追い出した婆(ばあ)さんが村にいました。
この婆さんは、村の人たちから、
”鬼婆(おにばばあ)”
と呼ばれて、大変恐れられていました。
そんな鬼婆も、寄る年波には勝てず、亡くなります。
葬式の日、いよいよ棺桶を寺に運ぶ時になって、
先まで晴れていたのに、急に雷が鳴り、大雨が激しく降り出します。
やっと寺に運んで、いろいろと準備をして
棺桶に村人たちが戻ると、フタが空いていて
中の婆さんの亡骸(なきがら)が消えていました。
寺中を総出で探しましたが見つかりません。
和尚さんがひとりで探していましたが、
ふいに寺の屋根の上を見ますと・・・
和尚さん
「おいっ!お前!そこで何をしておる!」
このお寺には、20年も和尚さんと
一緒に暮らしていた、年老いたネコがおりました。
なんと、そのネコが巨大な体となって、
激しく降る雨の中で、稲光に照らされ、
鬼婆と呼ばれた婆さんのしなびた亡骸を、
大きな口にはさんで、”ギロッ”と、
和尚さんを上から睨(にら)んでいます。
和尚さん
「お前、なにしったな!」
和尚さんが、山形弁で、
「お前、何してるんだっ!」
と、強めに怒った声でいいますと、
くるりと背を向けて、
婆さんをくわえたまま、
次々に屋根を飛び越えて、
どこかへ行ってしまったそうです。
年老いたネコは、
何を想って鬼婆と呼ばれた婆さんの
亡き骸をくわえて、どこかへ行ってしまったんでしょうか?
―― ボクはこう思います。
20年も生きていれば、
鬼婆にイジメられて
寺まで泣いて逃げて来たお嫁さんが、
このネコにいろいろと話して、
その悲しみや恨みをネコが理解していたり ――
ひょっとすると、お嫁さんに行く前に、
このネコと仲良くしていて、
鬼婆にイジメられて、追い出される様子を、
屋根の上から毎日見ていて、
「いつか、この仇(かたき)を討ってやる。」
そんなことを思って、こんなことをしたんじゃないかって ――
これをお読みくださっているアナタは、
どう思うかな?年老いたネコの気持ちがわかりますか?
ネコは、一般的にはイヌと違って忠義や恩義のイメージが薄いです。
しかし、今夜、アナタが見て来たネコたちはどうでしたでしょうか?
しっかりと「恩返し」をした、ネコたちがいましたよね。
アナタの隣、もしかしたら膝の上で今、
寝ているネコちゃんも、
ちゃんと「恩返し」をしてくれますから、
大事に優しく可愛がってあげてくださいね。
―― そろそろ、お時間のようです。
今夜も、アナタと日本の昔話を、
一緒に語れたことをうれしく思います。
また次回、地方色豊かな日本昔話の世界へ、
アナタをお連れしましょう。
また、数日したら夜にお迎えに参ります。
―― その時まで、さようなら。ごきげんよう。

巻末コラム:
「日本の昔話は、過去、現在、
そして未来における最高のエンターテイメント」
―― 日本の昔話は、時代を超えて、
人々の心を常に揺さぶり続けています。
過去においては、村の寄り合いで語られ、子どもたちの寝物語として
親から子へと受け継がれました。
そこには生活の知恵や戒め(いましめ)、土地の信仰が息づいていました。
現在においては、紙芝居やアニメ、まんが昔話の形で再構成され、
明るさと怖さの落差を巧みに演出することで、
エンターテイメントとしての力を発揮しています。
笑いと恐怖、安心と不安──
その振り幅こそが、現代の読者を夢中にさせます。
そして未来。AIやデジタル技術が加わっても、昔話の本質は変わりません。語り手の呼吸、余白、そして読者との共鳴がある限り、
昔話は新しい器に注がれながら生き続けるのです。
昔話は、過去の遺産であり、現在の娯楽であり、
そして、未来の創造でもあるのです ――
だからこそ、日本の昔話は、
「過去・現在・未来をつなぐ最高のエンターテイメントなのだ!」
と、いえるのではないでしょうか?
日本昔話研究家
坂本猫馬
いかがだったでしょうか?
アナタのお住まいの地方にしかない、
地方色豊かな昔話がありましたら、
ぜひ、記事にして教えてくださいね。
同じ昔話でも、地方が異なると、
その背後にある、地域の特色や文化、風習など、
そういったものの影響を受けて、
お話が変化していくのは、面白い現象ですね。
また機会がありましたら、
違う日本の昔話で
やってみたいなと思います。
それでは、最後までお読みいただき
ありがとうございました。
―― さようなら!🐯

※ この話は、『日本昔話大成 第6巻 本格昔話5(1978)』
角川書店 関 敬吾(著)
62ページから75ページ 「猫檀家」より、
引用&参考にさせていただきました。感謝します。
※ 前作までの第1巻は(1979)でしたが、
第6巻は(1978)となっていて謎です。
Amazonの表記と本の奥付(昭和53年)を確認しましたので、
そのまま記載しています。
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