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「北極が溶けるから日本は猛暑」は本当か テレビが言わない偏西風“蛇行”の大論争と、2026年の危ない夏

 今年もまた、うだるような夏がやってきました。ニュースやワイドショーをつけると、気象予報士の方がこう説明しています。「地球温暖化で北極が高温になり、偏西風の勢いが弱まって蛇行する。だからヨーロッパは熱波、日本は猛暑になるのです」。図まで出てきて、いかにも決まりきった事実のように語られます。

 私はこの説明を聞くたびに、ひとつ引っかかることがありました。「本当に、そう言い切ってしまっていいのだろうか」ということです。元々こういう「みんなが当たり前だと思っていること」を疑うのが私の悪い癖でして、少し専門的な資料にあたって調べてみました。すると、テレビのあの一本道の説明は、実は世界の気象学者の間で今なお決着のついていない大論争の、片方の言い分だったのです。今日はそのお話をしたうえで、では2026年の日本の夏はどうなるのか、というところまでご一緒に見ていきたいと思います。

テレビの説明を、まずおさらいしましょう

 テレビで語られる筋書きは、こういうものです。まず、二酸化炭素が増えて地球全体が温まると、北極の海の氷が溶けます。氷は太陽の光を白く跳ね返しますが、氷が溶けて黒い海面が顔を出すと、今度は太陽の熱をぐんぐん吸い込みます。この効果で、北極は地球平均の2倍から4倍という猛烈な速さで温まっていきます。これを専門用語で「北極温暖化増幅」と呼びます。

 次に、北極が暖まると、赤道と北極の「温度差」が縮まります。偏西風という上空の強い西風は、この南北の温度差をエンジンにして吹いているので、温度差が小さくなればエンジンが弱まり、風の速度が落ちます。そして、勢いを失った偏西風は、まっすぐ流れる力を失って南北にぐにゃぐにゃと蛇行するようになる。蛇行して同じ場所に居座った高気圧が、ヨーロッパの熱波や、日本の猛暑を引き起こす。これがテレビの説明です。理屈は通っていて、とても分かりやすい。だからこそ広まったのです。

実は、これは「決着していない仮説」です

 この説明のおおもとは、アメリカの気象学者フランシスとバブラスが2012年に発表した論文です。頭文字をとってFV12仮説と呼ばれています。画期的な説でしたが、発表されるやいなや、世界中の研究者から反論が噴出しました。

 反論のひとつは、「蛇行が本当に増えたのか、測り方が怪しい」というものです。地球全体が温暖化して上空の気圧の高さが底上げされている状況で、ある高さの線を目印に蛇行を測ると、見かけ上、蛇行を大げさに数えてしまう危険があると指摘されました。

 もうひとつは、もっと根本的な弱点です。北極の異常な温暖化がはっきり現れたのは1990年代の終わりごろからで、まともに使えるデータはたった20年から30年ぶんしかありません。気候を語るには短すぎるのです。この間に蛇行や猛暑が増えたように見えても、それが本当に北極のせいなのか、それとも太平洋やエルニーニョのように、もともと数十年かけてゆっくり揺れ動く「自然のゆらぎ」のせいなのか、今の短い記録では見分けがつかない、というわけです。

 さらに面白いのは「綱引き」という話です。北極が暖まると下のほうの空気は偏西風を弱める方向に引っ張ります。ところが同時に、赤道あたりの上空は温暖化で強く暖まり、こちらは逆に偏西風を強める方向に引っ張るのです。上と下で正反対の力が綱引きをしている。だから「温暖化すれば偏西風は必ず弱まって蛇行する」と単純には言い切れないのです。筑波大学の田中博教授のように、「南北の温度差が縮まれば、長い目で見れば大気の乱れはむしろ減り、異常気象は減るはずだ」と反論する専門家もいます。

 では熱波はどう説明するのか。ここで注目されているのが「準共鳴増幅」という現象です。夏の偏西風が特定のリズムで波打つとき、その波が大気の中に閉じ込められて、ブランコを同じタイミングで押し続けたように振幅がどんどん増幅される。すると高気圧が数週間も同じ場所に居座り、ヨーロッパを灼熱地獄に変えるのです。近年の記録的熱波の多くは、これで説明できることが分かってきました。

テレビの説明は「間違い」ではありません

 ここで誤解のないように申し上げます。テレビの説明が嘘だと言いたいのではありません。FV12仮説は、有力な説の「ひとつ」です。国連のIPCCという権威ある報告書でも、「北極の変化が中緯度の異常気象に一役買っている可能性は高い」と、ある程度の確からしさをもって認められています。

 ただ、学者の世界ではまだ活発に議論が続いている、白でも黒でもない「グレー」の話なのです。それをテレビは、視聴者に分かりやすいように、白か黒かの断定に仕立てて伝えている。私たちはそれを頭の片隅に置いておくべきだと思います。世の中で「これは決まった事実です」と自信たっぷりに語られることほど、一度立ち止まって疑ってみる価値がある。これは気象に限った話ではありません。

日本の猛暑は、少し違う仕組みで起きています

 さて、ここからが本題です。では日本の夏の猛暑も、北極のせいなのでしょうか。実は、日本の場合は主役が少し違います。

 上空の偏西風には、実は二本あります。北寄りを流れる「寒帯前線ジェット」と、南寄りを流れる「亜熱帯ジェット」です。北極の影響を強く受けるのは北側の一本ですが、日本の猛暑を直接あやつっているのは、南側の亜熱帯ジェットが北へ大きく蛇行することなのです。

 なぜ日本の上空でこのジェットが北へ膨らむのか。ここに二つの「遠くからの波」が効いてきます。ひとつは、ヨーロッパや中央アジアで生まれた偏西風の乱れが、大気の波として何千キロも東へ伝わってくる「シルクロードパターン」。もうひとつは、フィリピン付近の海で積乱雲が活発になると、その影響が波となって北へ届く「PJパターン」です。

 この二つが同時に効くと、日本の上空に「ダブル高気圧」という手ごわい構造ができあがります。下のほうには蒸し暑い太平洋高気圧、その上に、チベット高原で熱せられた巨大なチベット高気圧が重なる。ちょうど分厚い布団を二枚重ねられたように、熱が地上に閉じ込められるのです。しかも高気圧に覆われると空気が上から押し下げられ、押しつぶされた空気は自分で発熱します。自転車の空気入れを押すとポンプが熱くなる、あれと同じ理屈です。こうして日本全体の気温が底上げされていきます。実際、気象庁も2025年の記録的な暑さの主な原因を「偏西風の蛇行で高気圧が強まったこと」と分析しています。

北極も、まったくの無関係ではありません

 とはいえ、テレビの起点だった「北極」が日本の猛暑にまったく関係ないかというと、そうでもないのです。海洋研究開発機構(JAMSTEC)や国立極地研究所などの研究によれば、北極のバレンツ海やカラ海の氷が減り、シベリアが乾くと、ユーラシア大陸の上空の流れが変わることが確かめられています。

 北側の寒帯前線ジェットが蛇行すると、それが南側の亜熱帯ジェットとも手を取り合い、日本を含む中緯度で気象パターンが「動かず居座りやすく」なる。つまり北極は、日本の猛暑を単独で生み出す犯人ではないけれど、異常気象の規模を大きくし、期間を長引かせる「背景の共犯者」として働いている、というのが今の見立てです。北極だけを見ても、日本だけを見ても、全体像はつかめない。地球の空はすべてつながっているのだ、と実感させられます。

それでも2026年の夏が危ない理由

 問題は、2026年の夏がこの「ダブル高気圧」に狙い撃ちされそうだ、ということです。

 気象庁によれば、2025年まで続いたラニーニャが終わり、2026年の夏にはエルニーニョが発生する確率が70パーセント、秋には100パーセントに達すると見込まれています。昔ながらの経験則では、エルニーニョの年は太平洋高気圧が弱まって「冷夏」になりやすいとされてきました。ところが、今回はその常識が通じない恐れがあります。温暖化で大気と海の基礎体温そのものが上がりきっていて、エルニーニョの冷やす効果を打ち消してしまうからです。

 さらに悪いことに、インド洋では「正のインド洋ダイポール」という現象の兆しがあります。これが起きるとフィリピン付近の積乱雲が元気になり、先ほどのPJパターンを通じて、エルニーニョの年なのに太平洋高気圧を日本へ強烈に張り出させてしまうのです。

 具体的な予測も出そろってきました。日本気象協会やウェザーニューズによれば、太平洋高気圧の張り出しが早く、全国的に梅雨明けが前倒しになる見込みです。体が暑さに慣れる前に本格的な猛暑が来るので、熱中症のリスクが跳ね上がります。日最高気温が40度を超える「酷暑日」は、内陸の盆地を中心に全国で延べ7地点から14地点にのぼると予想されています。夏の後半には台風がフェーン現象を引き起こし、普段は涼しい日本海側や東北でも急に気温が跳ね上がる。そして9月になっても偏西風が南下せず、うんざりするような残暑が続く。夜も気温が下がらない「超熱帯夜」が各地で頻発する、という厳しい見通しです。

 気象庁の3か月予報を見ても、西日本から東日本は「平年より高い」確率が60パーセント以上。しかも見過ごせないのは、いつもなら避暑地であるはずの北海道や東北まで、暖気に覆われて「平年並みか高い」とされている点です。2026年の猛暑は、どこか一部の地域だけの話ではありません。日本列島まるごとを、長い期間にわたって熱でくるむような広がりを持っている。これは相当に身構えておくべき夏だと言えます。

私はこう考えます

 読者の皆さんは、今年の夏を無事に生き延びる準備ができていますでしょうか。ここまで見てきたように、2026年の猛暑は、北極のせいという一言では片づけられません。温暖化で上がりきった基礎体温、熱帯の海からの熱と水蒸気、そして偏西風の大きな蛇行という、いくつもの悪条件が同時に重なった「複合災害」なのです。原因が一つでないからこそ、対策も一つでは足りません。

 そして、これはお財布の話でもあります。猛暑は私たちの生活コストに直結します。冷房のための電気代は膨らみ、電力需要の逼迫は電力会社の業績を揺らします。米や野菜は不作で値上がりし、外食や小売りの客足も天候に振り回される。逆に、エアコンや飲料、猛暑対策グッズが売れる企業もあります。天気の異常は、確実に経済と株式市場に波及していくのです。相場は、こうした季節のうねりに一喜一憂して大きく動くこともあります。だからこそ、目先のニュースにあわてて売り買いするのではなく、大きな流れを落ち着いて見る目が大切だと私は考えています。なお、投資の最終判断はあくまで読者各位の自己責任でお願いいたします。

 猛暑に負けず、この夏をどうか元気に乗り切ってください。

 暑さで頭がぼんやりする夏こそ、じっくり腰を据えて相場と向き合う本を一冊おすすめします。拙著「まだ間に合う日本株投資 ― 57,000円越えでも『買い』と言える三つの根拠」(Kindle)です。目先の暑さや騒がしいニュースに振り回されず、日本株の底力をどう見るか、私なりの考えをまとめました。あわせてお読みいただけると嬉しいです。



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