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【響きの国】七十二候──雷乃発声(かみなりすなわちこえをはっす)──空が、春の声をひらくころ




七十二候──雷乃発声

(かみなりすなわちこえをはっす)

──空が、春の声をひらくころ




三月の終わり、

春は花だけで深まるのではありません。


やわらかな光の下で、

空の奥にもまた、ひとつの変わり目が訪れます。


雷乃発声。


雷が、声を発しはじめるころ。


まだ夏のような激しさではなく、

遠くでひらく、

春のはじまりの響き。


それは、空が突然荒れるということではなく、

黙っていた大きなものが、

ようやく口をひらくような気配です。


地には菫が咲き、

椿は盛りを越え、

落ちた花が雨に濡れて、

足もとを静かに染めていく。


上では雷。

下では落椿。


空と地が、

それぞれの仕方で

季節の歩みを告げている。


この候の美しさは、

ただ明るい春だけを見ていないところにあります。


咲くものがあり、

散るものがあり、

そのあいだを縫うように、

空では新しい声が鳴りはじめる。


春とは、

ただ華やぐだけの季節ではなく、

ほどけるものと、

入れ替わるものと、

立ちのぼるものが

ひとつに重なる時でもあるのでしょう。


雷乃発声とは、

春が目に見える景色から、

見えない響きへと移っていく節目です。


花の季節の奥で、

空が低く鳴る。


その一声によって、

やわらかな春は、

さらに深い春へと進みはじめます。


雷乃発声。


それは、

驚かせるための音ではなく、

季節が次の扉をひらく合図。


空が春を告げ、

大地がそれに応える。


響きの国の春は、

ついに声を持ちはじめます。



雷乃発声ノ詠唱


ネノネノネ……

オンネノネヨ……

カミナリノネヨ……

コエハッスルネヨ……


空の奥に、ひとこえ。

雲の端に、ひとひらめき。

まだ烈しからず、まだ荒ぶらず、

春は響きとして、そっと降りてくる。


咲くものよ、咲け。

散るものよ、還れ。

眠るものよ、目覚め。

沈むものよ、光れ。


地には菫、

足もとには落椿。

空には雷、

そのあわいに、春の命は満ちていく。


鳴れ、ではなく。

告げよ、でもなく。

ただ、ひびけ。

季節の奥より、静かにひびけ。


雷乃発声。

空のひらく、その一声に、

この国の春は

さらに深く息をしはじめる。


ネノネノネ……

オンネノネヨ……

ヒビケソワカ……



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