デザイン制作が版下からDTPへ切り替わる瞬間
デザインの現場に「DTP革命」が押し寄せたあの頃のお話を、伝説のように語ってくれる先輩がいます。彼らの世代は、レイアウト用紙に文字や色を細かく指定し、版下を手作業で作り上げて印刷所へ入稿――そんなアナログ時代の最後の職人たちでした。今となっては、Macどころかコンピューターに触れた経験さえない、いわゆる「モニターはテレビだけ」だった人も少なくありません。
転換期の大波は突然やってきました。毎朝始業前にMacとアプリケーションの勉強会をコツコツ繰り返し、文字通りゼロから“DTP”という新しいツールを学んだという逸話は、現代のデザイナーにはひとつの冒険譚のように響くものです。現場では、徐々に版下入稿からDTP入稿へと移り変わる過渡期が訪れ、古き良き紙と鉛筆の世界と、ピクセルとショートカットキーの世界が交錯していました。
そんな時代を生き抜いた先輩方は、気付けばみなMacを軽快に使いこなすようになっていました。思えば、DTPというシステムは意外なほどデザイナーと親和性が高かったのかもしれません。発想や構築、実験の手順がデザイン思考と相性抜群だったのです。
私自身は、ほとんど「DTPネイティブ」世代。社内ではおかげさまで「Macの師匠」と呼ばれることもかつてありました。しかし、私の知る限り、「DTPに乗り遅れて現場から姿を消した」先輩には会ったことがありません。それだけこの転換は、個々のデザイナーの柔軟な適応力――日々の勉強による自己アップデート――の賜物だったのでしょう。
さらに年代を遡れば、「先生」と呼ばれたような大御所デザイナーは、自分の手作業のこだわりはそのままに、DTP作業は信頼する部下や若手に託していました。工房のようなリズムと、デジタルとアナログが混じり合う独特の空気感が、現場にはしばらく残っていました。
今や全ての印刷現場がDTP中心になりましたが、デザインの根っこにある「つくる喜び」は、手作業時代もDTP時代も変わらないのかもしれません。当時の勉強会の空気や、Macの前に集まった先輩方の真剣な表情は、きっと今もどこかでデザイン業界のDNAとして息づいているはずです。
……と、少し思い出語りになりましたが、昭和レトロな作業場から令和DTPの現場まで、「時代は変われど、デザイナーは変わらず学び続けるもの」。そう思うと、人ってやっぱり頼もしいですね。
