クラウドソーシングは相場を下げる根源なのか
激安チラシ案件が話題になると、ほぼセットで出てくるのが「クラウドソーシングの激安相場が悪い」という声です。やっぱりな、という気持ち半分、またこの話か、という気持ち半分でタイムラインを眺めることになります。
クラウドソーシング登場初期から、「価格破壊で業界の相場が崩壊する」「デザインの価値が下がる」といった議論は何度も繰り返されてきました。 その一方で、2020年代半ばになった今も、従来型の直接取引や制作会社経由の案件は普通に存在し、多くのプロジェクトが“通常の価格帯”で動いています。結果として、クラウドソーシング経由の低単価案件と、信頼関係ベースの通常取引は、それぞれ別のマーケットとして共存する形に落ち着いていると言えます。
もちろん、クラウドソーシング内の相場が安いのは事実です。以前なら数十万円だった制作物が、数分の一の価格で募集されている例も珍しくありませんし、「仕事の単価が低い」と感じている受注者はかなり多いという調査結果も出ています。 ただ、それが「世の中のすべてのデザイン案件の相場を直接押し下げているか」というと、話はもう少し複雑です。実際には、
・予算がほとんどない人/とにかく安く発注したい人
・プロクオリティを求め、適正な費用を払う前提の人
とで、発注チャネルと価格帯が自然に分かれてきています。
クラウドソーシングの功罪としてよく挙げられるのが「価格の見える化」です。 それまで水面下で決まっていたような報酬が、誰でも閲覧できる形で並び、低価格案件も高価格案件も一望できるようになりました。結果として、「こんな値段で請ける人がいるのか」と驚くような案件も目に入りますが、それは元々水面下で存在していた“安さ重視のニーズ”が表に出ただけでしょう。
一方で、クラウドソーシングには受注側から見た明確なメリットもあります。
・営業や飛び込みの必要がなく、案件にオンラインから応募できる
・実名を出さず、匿名で登録・受注できるサービスが多い
・副業や本業との兼ね合いで、時間や場所を選ばずに働ける
すでに別の看板を持っている人や、会社員デザイナーなど顔を出さずに仕事をしたい人にとっては、かなり都合のいい仕組みでもあります。「安いけどね」と苦笑しつつも、匿名性や手軽さを優先してあえて使う人がいるのも事実です。
なので、「クラウドソーシング=相場を下げる元凶」と単純化してしまうと、見落とすものが多くなります。低価格ゾーンを可視化し、そこで仕事をしたい人と、そこにしか予算を出せない発注者をマッチングしたのがクラウドソーシングの実態であり、それ自体は需要と供給が合致している状態とも言えるからです。 その一方で、自分の働き方やスキルに見合わない単価なら「受けない」という選択も当然あり、低単価案件ばかり受注すれば、結果的に自分の相場感も下がっていきます。そして生活の糧としてクラウドソーシング上でデザイン業務を請け負うのならいつかは低価格帯から脱却しなければなりません。
デザインを依頼する側にとっては、「自分は何を優先するのか」で選べばいい話だと感じます。とにかく安さとスピードが最優先であればクラウドソーシングも選択肢になりますし、ブランドや長期的な関係性、戦略レベルの相談まで含めて任せたいなら、個人デザイナーや制作会社と直接契約した方が良いでしょう。 どちらが絶対的に善・悪というより、「用途と予算に応じた使い分け」が現実的な落としどころになっているのではないでしょうか。
まだデザイナーになったばかりの人にとっては、クラウドソーシングをめぐるこの手の論争は新鮮に見えるかもしれません。ただ、ある程度経験を重ねた層からすると、登場当初から散々議論してきて、今は「そういう領域もあるよね」と半ば受け入れているテーマでもあります。
結局のところ、クラウドソーシングを“相場を下げる根源”として忌避するか、“条件の合う時だけ使う場”として割り切るかは、それぞれのデザイナーのスタンス次第です。重要なのは、「自分はどの価格帯・どんなクライアント層と仕事をしたいのか」をはっきりさせておくことですね。そのうえで、自分の望む市場から外れる案件には、静かに距離を置いていけばいいだけの話です。SNSでクラウドソーシングの悪弊をわざわざ並べる必要もないのです。
