Webデザイナーは儲かりません
「50万円のスクールに入ろうか迷っているのですが、どうですか?」
Threads を見ていると、何度も流れてくる定番の相談です。投稿主はだいたい「ママ」。子育て中、在宅でできる仕事を探している、あるいは副業で収入の柱を増やしたい、という文脈が透けて見えます。
この手の質問は、正直なところ「まずWeb検索して欲しい」と思う部分もあります。Webデザインスクールの費用相場も、Webデザイナーの平均年収も、キーワードさえ入れれば最新のデータがすぐ出てくるからです。それでも SNS 上で同じ質問が何度も繰り返されるのは、「誰かに背中を押してほしい」「決断の責任を自分以外にも分散したい」という気持ちの表れかもしれません。
ただ、厳しめに言うと、IT系の仕事で「リサーチ力がない」のはかなり致命的です。
リサーチできない時点で、Webには向いていないかもしれない
Web デザイナーに限らず、Web・IT 周りの仕事では、「自分で調べる力」がほぼ全工程に絡んできます。
新しい CSS プロパティの挙動、ブラウザごとの違い、Google の仕様変更、デザインツールのバージョンアップ、アクセシビリティのガイドライン、クライアントの業界リサーチ、競合サイトの洗い出し……。現場で起きるほとんどの「困った」は、教科書に載っていないか、載っていてもバージョンが古いか、そもそもケースバイケースすぎて自分で噛み砕くしかないものばかりです。
Web デザインスクールの比較記事を見ると、料金相場は 3〜6ヶ月で 40〜80万円、6ヶ月以上の本格コースなら 50〜100万円程度とされています。 50万円という金額は、そのレンジのど真ん中です。少なくともそれだけ投資するなら、「自分で情報を取りに行く」姿勢は必須ですが、「費用相場」「卒業後の進路」「稼げるかどうか」といった最低限のことさえ検索していない様子の投稿を見ると、どうしても不安になります。
現場では、スクールで学ぶカリキュラムにはない「想定外のトラブル」に必ずぶつかります。WordPress のプラグイン同士が干渉して表示がおかしくなる、クライアントの社内ネットワークだけなぜか崩れる、メールフォームが特定の端末から送信できない、といった問題は、教室で先生が一つひとつ教えてくれるものではありません。自分で検索し、情報を取捨選択し、検証するしかないのです。
そこで「まず SNS で聞いてみよう」と思ってしまう人は、そもそも Web で仕事をするスタンスと相性が良くない可能性があります。SNS での答えは基本的に無責任で、言った側は「こういうやり方もあるよ」と軽く投げているだけです。言われた通りにやって失敗しても、誰も責任は取ってくれません。最終的に「仕事ができない」「任せられない」と判断されるのは、自分だけです。
「50万円のスクール」と「Webデザイナーの現実」
では、Webデザイナーはどれくらい稼げる仕事なのでしょうか。
最新の年収データを見てみましょう。
2026年2月のまとめでは、Webデザイナーの平均年収は約 466万円(別の集計では 371.5万円)とされています。 求人ボックスの統計では、地域別に見ると関東で約 421万円、関西で約 405万円、地方では 340〜370万円台が多く、全体平均を取り直すと 370万円前後という数字になると分析されています。
別のキャリアサイトのガイドでは、経験年数やスキルによって幅はあるものの、「20代後半〜30代前半の Web デザイナーの年収ゾーンは 350〜500万円」「マネージャーやディレクター職に上がると 600万円以上もありえる」といった記載があります。 フリーランスの場合は、月 30万〜50万円がボリュームゾーンで、「案件を効率良く回して年収 800〜1000万円」を達成している人も「いなくはない」とされていますが、それは完全に上位数%の世界です。ただし私の個人的な感覚では、この統計は多めに見積もっているように感じます。フリーランスWebデザイナーで、この統計にある最低の月30万円でさえ稼げていない人がほとんどではないでしょうか。
ここで冷静に考えたいのは、「50万円のスクールに投資しても、それを回収するにはそれなりの時間と運がいる」ということです。
Webデザインスクールの料金相場を見ると、1〜3ヶ月の短期コースで 17万円前後、3〜6ヶ月で 42万円前後、6ヶ月以上では 60万円以上が平均とされています。 就転職向けのコースは 40〜80万円、副業向けは 30〜50万円、フリーランス向けは 50〜100万円といった分類もあり、「50万円」はまさに「本気コース」の価格帯です。
一方で、スクールの紹介記事の末尾には、だいたいこんな文言が並びます。「未経験からでも、スキル・実績次第で年収は上げられる」「最初は低くても、コツコツ積み上げれば未来は変えられる」。 これは完全に嘘ではありませんが、「スクールにさえ入れば自動的に稼げる」わけではありません。
特に、「ママ向け」「主婦向け」をうたう Web デザインスクールについては、2024年頃から注意喚起の記事が増えています。「1ヶ月で在宅 Web デザイナーデビュー」「子育てしながら月20万円」などのキャッチコピーに対し、「短期間で実務レベルに到達できるわけがない」「子育て中の不安につけ込んだ広告になっている」といった批判が出ているのです。
ある note では、「たった 1ヶ月で Web デザイナーに」とうたうスクールは、「多くの場合“体験コース”レベルであり、本当に仕事を取れる実力には届かない」「子育て中のママほど学習時間の確保が難しく、短期コースは負荷が大きい」と警鐘を鳴らしています。
つまり、「50万円のスクールに入るかどうか」の前に、「そもそも Web デザイナーという働き方が、自分の望む収入・生活スタイルと噛み合っているか」を見直したほうがいい場面が、かなり多いのです。
Webデザイナーは“儲かる仕事”ではない
ここまでの数字を踏まえると、「Webデザイナーは儲かりません」という一文は、少なくとも「誰でも簡単に高収入」という意味では正しいと言わざるを得ません。
平均年収で言えば、日本の全職種平均(約460万円前後)と比べて、Web デザイナーはわずかに下か、横ばい程度です。 初年度や未経験からの転職だと、年収 300万円台前半スタートも珍しくありません。 フリーランスなら単価のコントロールはしやすいですが、その分営業・経理・ディレクションも全部自分で担う必要があり、子育てとの両立は相当にタフです。
もちろん、スキルと戦略次第で「儲かる側」に行くルートはあります。ディレクションやマーケティングまで含めて請ける、単発ではなく継続案件を増やす、制作だけでなくコンサルや講座販売、コンテンツ配信など複数の収入源を持つ。 そういう動きをしている人は、たしかに年収 800万〜1000万円に到達する例もあります。
でも、それは「Web デザイナー」というより、「クリエイティブディレクター」「クリエイター起業家」に近い働き方です。50万円の入門スクールを終えた直後にいきなり辿り着ける世界ではありません。営業が必要なのです。
だから、「50万円の資金があって、最短ルートでお金を増やしたい」という前提なら、私は Web デザイン以外の方法を検討したほうがいいと思っています。投資にしろ、別のスキルにしろ、「レバレッジのかかり方」が Web デザインとはまったく違うからです。
それでも Web を選ぶなら、覚悟とスタンスの話
じゃあ「Webデザイナーはやめとけ」と言いたいのかというと、そうとも限りません。
Web デザインは、「儲かるから」ではなく、「それでもやりたい」と思える人にとっては、とても良い仕事です。自分が作ったものがすぐに世に出て、アクセスや反応という形でフィードバックが返ってくる。クライアントやユーザーの課題を、情報設計とビジュアルの力で解決していく。新しい技術や表現に触れ続けることが、楽しみにもなります。
ただ、その世界に入る前に、最低限こういうスタンスは必要だと思います。
ひとつは、「誰にも聴かず自分で徹底的にリサーチできること」。スクールや SNS に「正解」を求め続けるのではなく、「キーワードを変えて検索する」「英語の情報も読む」「複数のソースを比較する」といった習慣を持てるかどうかです。
もうひとつは、「スクールはスタートラインでしかない」と理解しておくこと。50万円払っても、卒業した瞬間からすぐに月20万円稼げるわけではない。むしろ、卒業後にどれだけ自走(営業)できるかで、ほとんどすべてが決まります。
そして最後に、「Webデザイナーは“金儲けの手段”なのか、“やりたいことそのもの”なのか」を自分に問いかけてみることです。
お金を稼ぐための手段として Web デザインを選ぶのなら、「他の手段と比べてリターンはどうか」「学習コストとリスクはどうか」を冷静に比較したほうがいいですね。 一方で、「多少儲からなくても、これをやっていたい」と思えるなら、その気持ちは大事にしていいでしょう。
だからこそ、「50万円のスクールに入ろうか迷っているのですがどうですか?」という問いには、やはりこう答えたくなります。
スクールに入る前に、まず徹底的にリサーチしてください。
そして、「Webデザイナーは儲かりません」という一文を一度噛みしめて、それでもやってみたいと思えるかどうか、自分にだけは正直に聞いてみてください。
