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取材とウサギと高熱と。怒涛の1週間。

久しぶりに酒蔵の取材に行ってきた。
酒蔵の朝は早い。遠方なら前乗りして、ホテルのロビーに朝7時集合ということもあるが、今回は「ギリギリ朝移動できるけど、我が家からは絶妙に遠い」という、なんとも嫌な距離。
家から1時間半近くかかる駅に7時15分集合。6時前には家を出なければならない。こっそり自腹で前乗りしようかとも考えたが、集合駅の近くにホテルはない。
仕方ない。朝は起きてからしばらく痛みで動けないこともあるので、念のために4時半起きで挑んだ。

最近は、遠方取材の話が来ると緊張する。ちょうどその日に動けるような体調にもっていけるか。2週間前からはその日に向けていろいろ調整していく。薬の量や服用のペースも考える。
だけど、半分は「出たとこ勝負」みたいな感じで、その日になってみないとわからない。今のところこの賭けに負けたことはないが、いつまでも勝ち続けられるものなのか。朝、激痛で動けなかったらどうしよう。それを考えると緊張する。

しかし、今回も賭けには勝った。
4時半に起きる。少し布団の中で体調を探る。うん、なんとか大丈夫だとわかり、ホッとした。
6時前だというのに、夫が駅まで送ってくれたのもありがたかった。たかが徒歩12分。でもこの分の体力すら大事にしたいのだ。

集合駅までは座っていけるように、一本早くなっても新快速は使わず、乗り換えなしでゆっくり向かった。ここでも体力温存。
駅に着き、営業さんとカメラマンさんの顔を見た瞬間に、自分が切り替わるのがわかる。ここに来るだけでこんなにも気を遣っていたことなど絶対に気づかれないように、元気いっぱいの「おはようございます!」を交わす。
家を出る前に痛み止めの麻薬も多めに飲んできた。痛みはない。大丈夫だ。

ここから営業さんの車で1時間半。兵庫県っていうか、ほぼ岡山?
長旅だが、同行のカメラマンさんがめちゃくちゃ久しぶりに会ったMさん(女性)だったので、車中での会話も楽しくあっという間だった。
彼女と仕事をするのは4、5年ぶりだろうか。最後に会った時は彼女の恋愛相談(今の彼と別れるかどうか)に乗っていたのに、この空白の期間に結婚して、子どもも2人産んでいた。
あの時はそんなこと想像もしていなかったのに。群馬県に出張取材で長時間2人でいたから、恋バナ好きのオバサン(私)の餌食となり、あれこれ聞かれていた彼女。しかし、まさか、あっという間に子ども2人まで産んでしまうとは思わなかった。そして、下の子はまだ9ヶ月なのに、もう仕事に復帰していることもすごいと思った。
人生いろいろ。恋もいろいろ。

そんな話をしているうちに酒蔵へ到着した。
取材は滞りなく行われた。まだ40代の蔵元(社長)が蔵の中を案内してくれ、とてもわかりやすく楽しい取材だった。やりたいことが明確で、それに向かって邁進している人というのは、パワーがある。その想いは聞いているだけでも楽しい。
撮影も含めて、予定通り3時間半ぴったり。
しかし、人の話を3時間集中して聴くというのは、想像している以上にエネルギーを消費する。聴くだけならまだいいが、その間じゅう質問を考え、回答を理解し、構成をなんとなく頭に描き、取りこぼしのないように全体をとらえ、五感をフル稼働させているので、終わった時はもう余力は残っていない。

とてもいい取材だったし、いい原稿が書けそうな予感はあったが、終わったらとにかく目が開かないのだ。
何かの比喩ではない。
車に乗り込んでも、昼ごはんを食べても、何をしていても自然に目が閉じてしまう。眠いのとも違う。
「目が開きません。寝てるんじゃないので気にしないでください」
と、皆によくわからない説明をして、目を閉じたままで話す。疲労からくるものなのか、理由もわからないまま、重いまぶたと戦っていた。

車でまた移動。今回は酒蔵だけでなく飲食店の取材もあったのだ。移動にまた1時間半ほどかかった。目を閉じていたら、いつの間にか少し寝ていた。やはり疲れが出たらしい。
意識は朦朧としていたが、最後の力を振り絞り、取材をこなす。店長さんがちゃっちゃとしてくれる人だったので、これは1時間もかからず終了。カメラマンのMさんと私は三宮駅で降ろしてもらい、解散となった。

まだ1日に取材2本こなせることにホッとした。それもかなりハードな移動と内容なのに。
しかし、安堵の反面、疲労もそれなりに感じていて、急にお腹に痛みを感じて薬を飲んだ。
電車に乗り込み、Mさんと大阪駅まで話しながら帰る。
そういえば、私の病気の話をしたことがなかったことに気づき、「私、ステージ4の再発ガンなんです」という話をした。本当に何も知らなかったので、一から話していかなければならなかった。この長い長い病気との付き合いの日々のことを。
とても時間は足りず、中途半端なところで別れることになった。話を聞かされたMさんは驚きやらショックやら、いろんな感情を処理し切れないようで、少し泣いた。
私は笑った。「いや、笑い事じゃないんですけどね、なんか笑えてきて。こんなに全身ガンだらけで生きてるし、4時半起きで取材してるし」と言葉にしてみると、やっぱりおかしくて。
そんな私を見て、Mさんはさらに感情をごちゃごちゃにしていた。悪いことをした。泣かせるつもりも困惑させるつもりもなかったのだ。

別れ際、また会えたらいいな、と思った。
なかなか同行することがないし、私もいつまでこの仕事を続けられるかわからないし、もしかしたら今日が最後になるかもしれないな、とも思った。センチな気持ちになりたいわけじゃない。冷静にそう感じたのだ。

夫が最寄り駅まで迎えに来てくれた。大仕事をやり遂げた気持ちで、夫の顔を見たらようやく本当に肩の力が抜けた。やっぱり目は開かなかった。
家に着くと、そのまま倒れ込むように、今度は本当にまぶたを深く閉じて眠った。

その晩も翌朝も大変だった。体が重い。お腹は激痛。やはり無理をしすぎた。
そんないつまでも寝ていたい朝なのに、8時半に姉がウサギを預けにやって来た。実家の両親を連れて一泊旅行をする。その間、飼っているウサギを預かってほしいとのことだった。もちろん前からの約束だったので準備はしていたが、体が動かない。
それでもはぁはぁ言いながら掃除やら何やら済ませて、ウサギをしっかりと引き受けた。

ウサギと遊ぶのを楽しみにしていたが、それどころではない。
体がまったく回復しないどころか、だんだんひどくなっていく。熱を測ったら38.6度!
そりゃ、しんどいわけだ。限界突破したらしい。

夕方、ウサギ好きな友達が遊びに来る予定だったが、泣く泣く断りの連絡を入れた。気にしないでいいと言ってくれたが、申し訳なかったし、何より私が残念だった。
2人でウサギをモフモフしながら、おしゃべりするのを楽しみにしていたのだ。
いけるような気がしていたが、やっぱり私の体は「2日で1日」なんだなと実感。連日の予定は入れてはいけないと戒めた。

夫が夕方から仕事で出てしまったので、一人でウサギの世話をしつつ、自分の体も労った。
ウサギはかわいくて、癒しになってくれた。しかし、体はなかなか回復せず、痛みとしんどさとの闘いが続く。トイレで吐いた。
取材に行くだけでこんなことになる。本当にいつまで続けられるんだろうかと不安が押し寄せる。
それでも翌日もう1日ゆっくりしたら、日常生活を送れるくらいには回復した。

月曜は1ヶ月ぶりの受診だった。キイトルーダの治療が終わったので、病院へ行く回数も減った。
今回は採血と採尿だけ。
診察室に入ると、主治医はいい顔をしていなかった。腎臓の数値がかなり悪い。それより気になったのは炎症反応だった。ものすごく高い。
「また尿路感染症とか?」と訊くと、「いや、それならいいんやけど、違うと思う」という。
どういう表現だったかよく覚えていないが、「このままだと死に向かってる」「命に関わる問題」のようなことを言われた。
主治医にしたら、私のようなガンだらけの人間が1ヶ月も治療しないで、炎症反応を起こしていたら、これはもう腹膜播種の炎症がひどくなっているとしか思えないらしい。おそらくこれまで診てきた患者はそうだったのだろう。
でも、私はこの炎症は決して「死に向かっているもの」ではないと感じていた。その証拠に腫瘍マーカーもほとんど上がっていない。
うまく言えないし、「そう思いたいだけなんちゃうん?」と思う人もいるだろうけど、自分の体のことは自分が一番よくわかるのだ。
以前、本当に死にかけていたことがあるから。あの時とは違う。それだけはわかる。
だから、「たぶん別の炎症やと思いますよ」と私は言い、とりあえず抗生物質を出してもらった。

「そうかなぁ、それやったらいいなぁ。僕が気にしすぎなんか?」
「そうです。気にしすぎです」
「そっか。うん、わかった、そう書いとく」

主治医はPCのカルテに「気にしすぎ」と書いた。
まるで医者と患者が逆になったような会話。
次の受診は3週間後。腎臓内科の検査もあるから、いろいろわかるだろう。
この3週間、特に何も変化がなければ、主治医の気にしすぎ。本当に死に向かっているなら、3週間のうちにはっきりすると思う。容態が急変したり、信じられないような痛みが出たり、何らかのサインがあるはずだ。

「死」を口にされても、不思議なくらい私は落ち着いていた。今も落ち着いている。それは特に体調に変化がないから。いつもの痛みやしんどさはあるけど、急変はしていない。
むしろ、高熱がおさまってからは、ちょっと調子はいいほうだと思う。少なくとも、まだ死に向かってはいない。そんな自信がある。

6月末にはパネル検査の結果も出る。もしかしたら新しい治療を受けられるかもしれない。
私はとにかく運がいいから、またきっとなんとかなる。
主治医は、気にしすぎやねん。

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