大逆転をクローバーに託して
毎日のように誰かから本の感想が届く。
私がこの間出したエッセイ集『書く人の幸福論』を読んでくれた友達や身内からだ。
読んでもらえただけで十分だから、たとえ短い一言であっても、何か感想をもらえるのはうれしい。感謝しかない。
お義母さんが親戚にたくさん配ってくれたので、親戚のおじさんまで感想を寄せてくださった。
お義母さんの弟にあたる人だ。
本当は私宛てはなく、お義母さんへのお手紙だったのだが、私に読ませたいと、お義母さんがこっそり転送してくれた。
読んでみると、最初は、「かおりちゃんのエッセイね、ふんふん」というくらいのノリで、サッと目を通すくらいのつもりだったらしい。でも、読んでいくうちに夢中になって、途中から気になる言葉や気持ちなどをメモしながら読んでくれたという。そのメモ書きまで同封されていた。
おじさんの感想は、率直な言葉とちょっぴりユーモラスな表現で綴られていて、優しさにあふれていた。
読んでいくうちに、うれしいなんて感情は通り越して、頭が下がるというか、恐縮してしまった。
感想文には押し花のように紙に挟んだクローバーも同封されていた。
四つ葉、五つ葉、六つ葉の3種類。
これもおじさんが送ってくれたらしい。
「どれか効くと思って、とのことです」
と、お義母さんのメッセージに添えられていた。

四つ葉はともかく、五つや六つの葉のクローバーなんて初めて見た。
あとでお義母さんから
「四つ葉は幸せ
五つ葉はご縁
六つ葉は無病息災」
と補足メッセージが来た。
これだけ揃ったら、怖いものなしだなぁと思う。
昨日は病院で血液と尿の検査だった。
キイトルーダは全35回を終えてしまったので、これからの治療方針を主治医と話した。夫も同席してくれた。
簡単に言えば、「打つ手なし」。
まだ頑張ろうと思えば、やれることは、あるにはあるのだが、効果が期待できないものや、単剤の抗がん剤だけで、積極的に受けるべき治療とも思えない。
期待していた遺伝子パネル検査も、検体が10年前の手術のものだから古すぎて、正確な判断ができないかもしれないという。というか、その可能性がかなり高い。
それでも夫が「少しでも可能性があるなら受けよう」と言うので、結果的には申し込んだ。
検査費用が高額なので申し訳なかったが、お金を出してくれる夫の判断に委ねた。
パネル検査の結果がわかるのは6月末頃とのこと。それまでは、これまでと同様に、腎臓に影響がない程度にレンビマを続けていく。
ただ、腫瘍マーカーはまた上がっていた。
とても今のレンビマの量ではガンを「押さえ込む」のは難しい。進行速度を少し緩やかにするのがやっとだ。
とはいえ、なんとか痛みのコントロールはできているし、レンビマを続けられる限りは、「今日明日どうこうなる」というわけでもなさそうだ。
1日1日を生き延びていくしかない。
新しい薬が使える日が来るまで。
パネル検査を受けると決めたら、主治医が「なんとか大逆転したいな」と呟いた。
本当にそうなればいい。
「腫瘍増大」の文字がたくさん並んだCT検査の結果用紙から主治医は目をそらす。
帰る前に「それ、プリントしてください」と夫が言うと、「忘れてた。なるべく見ないようにしてたから。あー、見たくない」と結果からまた目をそらす。
私と夫はそれで少し心が和らいで、この日初めて診察室に小さな笑い声を響かせた。
まだ大丈夫。
何の根拠もないけど、大丈夫と思える。
たくさんの人に守られて、応援されて、大逆転を祈られて、私はなんて幸せなんだろう。
それに、四つ葉と五つ葉と六つ葉が揃ったんだ。
たぶん、無敵だ。
