ライオンキングの王国モデルを検証する① ― 王様の食事は、国民だった―
ライオンキングのライオンは王様なんだから、
食事は国民──ということになる。
少しエグい。
いや、だいぶエグい。
ふと浮かんだこの疑問が、
プライドランドという王国を解剖するきっかけになった。
この時点では知るよしもない。
この素朴な疑問が、膨大な思考実験になってしまうなんて……
先日、娘と一緒に映画ライオンキングを見た。言わずと知れたディズニーの名作古典映画である。
私も子どものころに鑑賞したとは思うが、内容は細かくは覚えていない。
ライオンの子どもが主人公で名前はシンバだということは知っているが、他の動物の名前は申し訳ないが覚えていない。
痩せた浅黒いライオンがヴィランだよな……イタチとイノシシがなんか楽しそうに歌ってたっけ……その程度の知識である。
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そんなわけで新鮮な気持ちで見始めた。どうやらサバンナの動物たちは、ライオンを国王にすえた王国に住んでいるらしい。
序盤の見せ場はサークルオブライフ。サバンナにおける命の循環を歌い上げる曲で、ライオンであるシンバと草食動物が仲良さそうに歌っている。
「このキリンたちは自分たちの役割を受け入れながらライオンと共存してるんだな。立派だな」と思いながら見ていた。
中盤、シンバは王国を追放される。その後で出会ったのがミーアキャットのティモンとイノシシのプンヴァ。
彼らのおかげでシンバは生き延び、心の空白まで埋めてもらった。
いわば、心の友ってやつ。
シンバは無事、立派な大人へと成長していく。
しかし、大人になったシンバの親友のナラが、ティモンとプンヴァを見つけ、事態は急展開。
ナラはどうやら腹ペコのようで2人を見つけると、食ってやろうと襲いかかる。
「おお!これぞサークルオブライフ!サバンナには慈悲は存在しないんや!」
と思ったその瞬間、危機一髪のところで、シンバが止めに入った。
…………
「ずるくねぇぇ!!??」
思わず口に出してしまいそうになった。この瞬間から頭の中であれこれ考えてしまい、映画には集中できなくなってしまった。
────
シンバにとってティモンとプンヴァは紛れもなく特別な存在だ。
命も心も救ってくれた相手なのだから、“助ける”という選択自体には筋が通っている。
私だって同じ立場なら助けたいと思う。
しかし──ここはサバンナである。
これは、
「シンバの私的な感情が、プライドランド全体のルールより優先されてしまった瞬間」
ではないだろうか。
ライオンは腹が減れば近くの草食動物を狩る。それが自然の摂理であり、サークルオブライフの原則である。
しかしシンバにとって大切な存在は“狩ってはいけない”。
これはある種の“贔屓”であり、同時に“例外”である。
そしてこの瞬間に、私はこう思ってしまった。
“命の循環”ではなく、“命の選別”になってない?
草食動物だって、生存本能はある。
その視点に立ってみると、この王国では
「いかにライオンに気に入られるか」
これが、生存への最重要ファクターになっている
──という、奇妙な構造が浮かび上がってくる。
それは本当に、健全な王国と言えるのだろうか。
────
祈祷師ラフィキは、きっと食われない。
だが、役割のない猿はどうだろう。
「今日はお前の番だよ」と言われれば、それで人生は終わりである。
もし私がこの王国に住む猿であったとしたら──
きっと突然「今日はお前の番だよ」と告げられる、名もなき猿なのだろう。
そのとき、私は
「おお!これぞサークルオブライフ!覚悟はできていた…どうぞご賞味ください…」
とか言いながら、大人しくライオンに食われることができるだろうか。
…………
いや無理だろ……。
なぜ自分なのか。
なぜ今日なのか。
なぜ子どもが生まれたばかりの私なのか。
せめて娘たちの性格くらいは、誰かに申し送りさせてもらいたい……
上の子はすぐ気が散るから、様子を見ながら適宜休憩をとらせてほしい。
下の子は生まれたばかりで、粉ミルクはM社のじゃないとひどい便秘になる。
娘たちに「さようなら」は言わせてもらえるのだろうか。
そのためには、せめて
「今日はお前の番だよ」
と言われる前に、予定を教えてほしい。
心の準備というものがある。
1週間くらいは猶予がほしいな……
……いや、予定を言われたら、荷物をまとめて家族で夜逃げしちゃうかもしれない。
私たちが夜逃げしたら、標的は急遽、隣に住むNさんのお父さんになるのだろうか。
そのときNさんは、食われながら私のことを恨むんだろうか。
Nさんの奥さんや子供たちは?
何を考えながら、父親が食われるのを見るのだろうか…
────
結局、この王国では、
ライオンが“その日の気分で餌を決める”世界なのだ。
そう考え始めてしまってから、
残りの物語は頭に入ってこなくなった。
では、どうすれば持続可能な王国になるのか。
どういう王国なら私は納得して命の循環に加わることができるのか。
次回は、実際のライオンキングの王国を仮説モデルとして、
その利害構造を丁寧に検討していきたい。
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