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みぞおちに入ったときは、金縛りを解く方法で復活できる

段々と朝晩の気温が下がってきた。

私がスノーボードにのめり込んでいた頃は、気温が下がり始めると気持ちがソワソワしたものだ。ゲレンデはいつ営業を開始するのかと。まだ木の葉に色が着き始めたばかりだというのに。

思い返せば、狂ったようにゲレンデに通っていた。運動神経があまり良い方ではないため、上達には時間がかかるものの、それだけ滑れば、さすがにそれなりに滑れるようになるものである。

よく初心者に教えてもいた。だから、初心者コースを滑ることも多かった。初心者コースでも楽しめることはたくさんある。トリックや、カービング(ボードのエッジを使うことでスピードを出せる滑り方)の練習には持ってこいだ。

あの日も初心者コースを滑っていた。

雪面は硬かったが、かなり緩やかな斜面で、私には余裕すぎる斜度だった。カービングもできるようになっていた私は、余裕でカービングを楽しんでいた。

ところが、右にターンしたところでボードのエッジが雪面に出ていた氷に乗り、あっと思ったときには、エッジが雪面から抜けて、雪面に対してお腹を下側にして宙に浮いた状態になってしまった。まるでスカイダイビングである。そして運悪く、ウエストポーチが腰から抜けてしまった。
重力に従ってうつ伏せに雪面に落ちたとき、ウエストポーチはちょうど私のみぞおちの位置にあった。

たまに映画などでみぞおちにパンチを入れて人を失神させるシーンがあるが、あれは失神しているのではないと思う。ただ単に動けなくなっているだけである。そう思うのは、私がそれを体験したからだ。相手はウエストポーチだった。

動けなくても息はできるし、周りの音もクリアに聞こえる。だが、声は出ない。瞼が開かないので周りは見えない。起き上がろうと思っても腕が動かない。指先さえ動かせないのだ。

「どうしたんですか?! 大丈夫ですか?!」

慌てた様子の声が聞こえた。その声から判断するに、後輩のアユミちゃん(仮名)が心配してくれているようだった。私は返事をしたかったが、どうにも声が出ない。

「どうしよう...?」

アユミちゃんがオロオロしている。そりゃそうだろう。私は雪面にうつ伏せに大の字になったままピクリとも動かないのだから。どうやら傍にいるのはアユミちゃん1人のようだ。

「誰か人を呼んできましょうか?! ...あっ、パトロール隊を呼んだ方が...?」

ちょっと待って!!
私の脳裏には、ソリの上にぐるぐる巻きにされてスノーモービルで引っ張られていく自分の姿がよぎった。
パトロール隊員から「どうされました?」と聞かれて、「ウエストポーチがみぞおちに入りました。」と答えるのは恥ずかしかった。

パトロール隊を呼ばれる前に、何としてでも動かなくては。どうすれば良い? 必死に頭を働かせていると、ふと、夜中に金縛りに遭ったときのことが頭に浮かんだ。私はどうやって金縛りを解いていたっけ? そう言えば、手の人差し指を何とか動かして、指が動いたら体の硬直も解けた気がする...。試してみることにした。

右手の人差し指に全神経を集中させ、何とか動かそうと試みた。だが、なかなか動かない。けれども、金縛りのときだって同じだ。どのぐらい集中していたのか分からないが、何とか人差し指が動くようになった。もう少しで体も動くようになるはず...!

私はあまりに集中していたので、その間のアユミちゃんの様子は知らない。アユミちゃんは、私のグローブを嵌めた右手の人差し指だけがピクピク動くのを見ただろうか。どう思っただろう。

人差し指が動き始めたら、右手を握ることができるようになり、ようやく体の硬直が解けた。どうやら金縛りと同じ対処法で回復させることができるようだ。

体を起こし、ボードの上に正座するような体勢でアユミちゃんを見たら、彼女は真っ青な顔で口をポカンと開けていた。

「だ...大丈夫ですか?」

アユミちゃんが声を絞り出す。ものすごく恥ずかしくて誤魔化したかったが、これだけ心配してくれている彼女に「 #なんのはなしですか 」と返す訳にもいかず、私は大笑いで誤魔化した。

「いやぁ、ウエストポーチがみぞおちに入っちゃってさぁ。大丈夫!」

とにかく、さっさと逃げたかった。さっと立ち上がり、ぴょんと飛んでボードのノーズを斜面の下側に向けた。そのまま滑り出して、颯爽とカッコいいターンでも決めたかったが、あまりにも斜面が緩やか過ぎた。動かない...。仕方がないので、両足をボードに固定したままぴょんぴょん飛んでボードに加速を付け、ゆっくりと滑りながら逃げるしかなかった。

背後からアユミちゃんの声が聞こえた。

「ほんとに、大丈夫なんですか~?!」

おわり

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