ハプニングが起こると人の涙は乾く
先日、大好きな友人等が見守る中無事に結婚式を挙げることができた。
挙式が始まり、バージンロードを歩く際始めは緊張していたが友人の笑顔を見て少し落ち着いた。
バージンロードを進むと、奥の方で号泣している友人を発見した。
私も釣られて涙が出た。
新郎の元まであと数歩というところで泣いてしまったため、必死に泣くのを堪えたが涙がツーっと流れた。
我ながら美しい涙だったと思う。
すっかり感動モードに入ったところで、エスコートチェンジを終え、新郎と共に牧師の前に立つ。
「※★∂◇◎」
何も聞こえない。
その時、爆音でYou raise me upが流れていたため、牧師の声が全てかき消されたのだ。
直前のリハーサルでは音楽は流さずに、ベールダウンやエスコートチェンジ、結婚証明書への署名と要所要所のみ確認を行なった。
牧師の前での誓いや、誓いのキス等は本番で牧師の指示に従ってやればいいとだけ聞いてきた。
話が違う。
指示が何一つ聞こえない。
あまりにも聞こえないため、先ほど流した美しい涙は乾き切り、私は笑いを堪えるのに必死だった。
新郎も同じだった。
そもそも緊張している+指示が何も聞こえないというハプニングにより、私たちはリハーサル内容を全て忘却の彼方へ追いやってしまった。
その結果、参列者も笑ってしまうくらいにグダグダだった。
どれくらいグダグダだったかというと、挙式の1番の見どころである誓いのキスの際、私たちは牧師に3回「キスしてください」と指示された。
そんなことある?
挙式の半分は、ほぼショートコントだった。
声が小さすぎる牧師、デカすぎる音響、グダグダの新郎新婦。
まあ、おかげで号泣して無様な姿を見せずに済んだため良かったと言えよう。
次に披露宴。
当初はやる予定がなかった花嫁の手紙パート。
なぜやる予定が無かったかというと、父に書くことがなさすぎるためである。
私は父と本当に仲が悪い。
母とは仲が良いので、母にあてる言葉はたくさんある。
しかし、父に対しては何もない。
花嫁の手紙であまりにも父に触れないと、参列者が気まずい。
だから折衷案として花嫁の手紙パートを割愛しようとしていたのだ。
だが、式が近づくにつれ、「花嫁の手紙パートがないと感動するポイントがほぼゼロになる」という致命的な欠点に気がついた。
そこで、やむを得ず読むことにしたのだ。
父に対しては1ミリも思っていないお世辞100%のメッセージを綴り、母には本当の気持ちを綴った。
なので父へのメッセージ内容は仕事で無理やり立てさせられる目標設定くらい嘘まみれである。
前半は純度100%の嘘を話しているだけのため、お得意の棒読みで滞りなく読んだ。
しかし、母のパートに入る時に言葉に詰まってしまった。
私は普通に泣きじゃくりながら読んだ。
泣き顔がブスすぎるため顔を上げておらず、直接見てはいないが参列者もかなり泣いていたと思う。
なんとか手紙を読み終え、前を向いたときに目に入った光景は、なぜか大号泣している父と、真顔の母というどう考えても逆な光景だった。
そこで私のセンチメンタルな気持ちは急速に縮んでいった。
気になっている人が店員にタメ口をきいているのを目にした時くらいの速さで気持ちが萎んでいくのがわかった。
手紙とウエイトベアを渡すため、両親の前に向かうとより一層気持ちが冷凍された。
父に至っては、「鼻水が止まらん」などと言いながら見たことのない大号泣をかましていた。
そして母は、なんの感情も読み取れない顔をしていた。
手紙を読んでいるのを聞いていれば、誰もが花嫁の涙は母への気持ちだということは分かる。
あからさまに母のパートで泣き始めたのだから。
母にはそれが伝わっていないのだろうか?
伝わっていた上でアレなら、マーガレット・サッチャーと並ぶ鉄の女である。
後から母に理由を尋ねたところ、こんな回答が返ってきた。
“あまりにも泣くからちゃんと読めるかハラハラしていた。あと、隣でなぜか大号泣している父にドン引きしていた。”
そう、母は私と同じように父にドン引きしてあるはずの涙が乾いたのだ。
私と父の関係性や父の終わっている人間性を知らない友人達は、父が号泣しているのを見てもらい泣きしたらしい。
ただ、知っている友人からは「お父さん泣きすぎじゃない?と思った」と後から言われた。
本当に恥ずかしい。
誤解しないでいただきたいのは、きちんと育児をして娘と真っ当に関わってきたお父さんが泣くのは良い。むしろ理想的だと思う。
しかし、正直言って私の父に泣く資格はない。
育児の全てを母に押し付け、娘のオムツさえ変えたことがなく、娘のことを何も知らない。
自分の気に入らないことがあると怒鳴り散らす。
「素直になれないんだよ」などという綺麗事では済まされない。
本当に素直になれないのだとしても、愛があるのならオムツくらい変えるし、送迎だってする。
娘に愛情の一つも示してこなかった人間が、なぜ純度100%の嘘であんなに泣けるのであろうか?
腹を痛めたくらいの厚かましさである。
父の理解不能な涙のおかげで、私の気持ちは急速冷凍され落ち着いてフィナーレを迎えることができた。
牧師の声が小さすぎるハプニングと、父の厚かましい号泣以外は良い式だったと思うし、本当に楽しかった。
人生の1サビが終わった今、私は将来への漠然とした不安が湧き起こり無気力になっているが、もう少しだけ式の余韻に浸ろうと思う。
