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【明後日のだれか】私はこの世界しか知らない

「アイ!行くよ!」
ルイに名前を呼ばれ、私はハッと我に返った。
土曜日の19時。学校にほど近いガストに集まり、来週行われる練習試合のがんばろう会が開かれた。
あ、こういうのは壮行会?っていうのかな。

私は白山中学バレー部に所属する1年生。入部と同時に先輩からコートネームをもらった。
バレー部ではそのコートネーム「アイ」と呼ばれている。
本名は彩葉(いろは)って言うんだけど、アイには全然かすりもしてない。何でアイなんだろう?よく分からない。

「カイ先輩はオレンジジュースで、サチ先輩はカルピスコーラ……」
めんどくさそうに先輩メンバー分のドリンクバーのコップを準備する私をよそに、ルイはせっせとそのコップに頼まれたジュースを注いでいく。氷ありかなしかも聞いて言われた通りに正確に入れていく。
ルイは私と一緒に入部したいわゆる同期。本名は陽葵(ひまり)。まさしくバレー部にいそうな背が高くスラッとしていて運動神経も抜群である。その上気も利くので先輩たちから好かれている。
「今日何時に終わるのかな?9時からテレビであの映画やるやん?あれ見たいんよねー」
ルイが注いだジュースをトレーに置きながら私は呟く。コップの表面についた水滴がトレーに落ちる。
「さあ?どうだろうね…先輩の気分次第じゃない?録画してないん?」
ルイが手も止めず、こちらも見ずに冷たく言った。
何か機嫌悪い。がんばろう会が始まる前まで私と一緒に「先輩めんどくさいねー」とか言ってたのにさ。
「録画したけど…ほら、めんどくさいじゃん。先輩とかさ!」
私はムキになって少し大きい声で言った。その瞬間、ルイが私の方を見て人差し指を指に当て、口パクで「しー!」と仕草をする。
「水滴拭いとかないと、サヤ先輩から怒られるよ。」
トレーにたくさん水滴が落ちているのをルイは指でさしながら言う。
その嫌味な言い方に私は少しだけルイのことが嫌いになりそうになった。

トレーを持ち、席に戻る。
総勢14名。窓側の一角を私たちの部で占拠している。
奥側には3年生の先輩が座っており、手前には2年生が座っている。1年生は私とルイを含めて5人。今日は都合が悪くて来れない先輩や1年生もいたけど、おそらく後から陰口を言われるのだろう。
何かうんざりする。
「お待たせしてます!カイ先輩、オレンジジュースです!」
いつもの部活での声出しのボリュームで、ジュースを配っていく。周りの席の人たちがちらり、とこちらを見ているのが分かった。
カイ先輩が一瞥すると、目の前に座っている同期のユウがさっと立ち上がり、私からジュースを受け取りカイ先輩の前に置く。

「やっぱり運動部って大変だよね」
「上下関係が特にね。」
背中から声が聞こえた。少しだけ振り向くと、1組の夫婦が座っておりこちらを見ながら話していた。
お母さんとお父さんと一緒くらいの…35歳くらいだろうか。
「アイ!よそ見しないで配ってよ」
サヤ先輩がぴしゃり、と私に注意する。
この先輩は本当にうるさいし、細かい。私が一番苦手なタイプの人。

何だか急に何もかもが嫌になってきた。
大好きだったバレーも、部活も、同期も。
いつまでこんな思いをしなきゃいけないんだろう。

(早く大人になりたいなぁ~)
周りを見てそう思う。自由な時間、自由に使えるお金、誰にもしばられない自由な人生。
早く自由になりたい。

「え~!ルイ、ヤマトが好きなの!?あいつのどこがいいの!?まじやばいんですけど!」
ふと我に返ると、ルイが頬を赤くしながら先輩たちに恋愛相談をしていた。私も隣で愛想笑いをする。
腕時計をちらり、と確認すると19時25分を指していた。
私は一度腰を上げ、座り直す。
「私ですか~?かっこいいな、って思う先輩はいますけど…」
ルイと同じようなテンションで中身のない恋愛話に参加する。
13歳と4ヶ月。私が学校生活を維持していくにはこの道しかない。


(私はこの世界しか知らないから、誰か違う世界を教えてほしい)


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