AI百物語の54 『舞台袖の御膳』
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こんばんは、晒場でございます。
今夜は一つ、私がとある催しで知り合った方から聞いたお話を披露致しましょう。
その方は、地方の山あいにある町で役場勤めをしておられてですね…町の一角にある古い体育館の管理も仕事のひとつなのだとか。
その体育館、昭和の中頃に建てられたという古いものだそうで。窓枠なんぞも木製で、雨の日ともなれば雨戸の開け閉めにも一苦労なのだとか。
昔は町民の球技大会なんぞも開かれていたと言いますが、これも時代の流れというものでございましょうかね。町から子供が減り、小学校も廃校となり…いつしか、体育館を利用する人も少なくなりました。
さて、ある年の秋。
町おこしの一環として、山の幸をふんだんに使った料理を振る舞う催しが開かれることになりまして。雨天時の会場として、その体育館が使われることになったのです。
地元の料理人たち、あるいは外からやってきた方々が作る山菜ごはん、きのこ汁、川魚の塩焼き……木の香りと湯気が混じり合って、思わずよだれが出そうな光景だったといいます。
…しかし準備の途中で、ある異変に気がついた人がいました。
体育館の舞台袖から、誰かがじっと覗いている。
最初は子どもかと思いましたが、背丈は低いのに顔は皺だらけの老人。
しかも、その顔色は青白く、まるで山の石のように冷たそうだったのだとか。
声をかけようとした瞬間、その姿は舞台裏にすっと消えた。
追いかけてみると、そこには誰もおらず…ただ、床の上に小さな漆塗りの御膳がひとつ置かれていたそうです。
上には湯気を立てる山菜汁。
だがそのにおいは異様に生臭く、誰ひとり口をつけることはできなかった、と。
……さて、あの御膳は山の神さまが催しの賑わいに誘われて来られたものか。
あるいは、この町からすでに忘れられた何かが、久しぶりのご馳走にありつく代わりにと置いていったのか。
私には確かめようもございませんけれど。
話をしてくださった方は体育館の裏手に祠を建てて、毎日手を合わせているそうな。
「なんだか、寂しそうに見えましたので」と仰っておられましたね。
