詩 - 画布の裏
海面に映る 月の光は
砕波の色を変える
空を流れる雲が 月を囲い
寄せては返す白波は 岸辺を漂う
塔は聳え ただそこに在った
非の打ち所のない
美しい景色
完璧に構築された世界は
海水の一滴にまで
神は宿っていた
月の夜光 海を照らし 塔は佇む
その、奥
その奥にこそ
捨てられた筆は 眠る
描かれた美を 切り裂けば
溢れ出る 血の滲んだ絵の具
破り捨てられた 紙片は
その油の跡が 染みている
絵の飾られた 家の片隅には
削り 隠された 自画像
積み重なった 画材の傷跡と
喪失を埋めるように
画家は画布に 美を描く
陶酔の葡萄酒を 呷る前に
秘匿された痛みの 手触りを
絵画モチーフ
イヴァン・アイヴァゾフスキー
『黒海に浮かぶジェノヴァの塔』から
※この作品はアイヴァゾフスキー個人を描いたものではなく、創作全般を題材にしています
