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1-1-① 悪霊の街、スタンド使いの挨拶①

本作は『ジョジョの奇妙な冒険』および『クレイジー・Dの悪霊的失恋』をもとにした非公式の二次創作です。
原作および出版社とは一切関係ありません
おもいっきりネタバレしています!!!

目次   前書き&注意点  前の話(序章 白銀の翼)


1999年3月。

暑く乾燥した夏の長いエジプトでは、一番過ごしやすいと思われる、春。

人口1000万を有するアフリカ最大の都市・首都カイロ。
今日も、多くの住人に、ピラミッド目当ての観光客、彼らに商品を売りつけようとする商売人たちで、カイロの街中はごった返していた。
そんなどこを見ても混雑しているカイロだが、夜になると全く人の出歩かないゴーストタウンになる通りがある。
日が落ちると住人が誰も歩かず店も閉まり真っ暗になるため、観光客もその通りは出歩かず、夜には犬猫しか歩くものはいない。

──その通りは、夜になると”悪霊”が出るんだ。

「なにがアクリョーだよ、バカバカしい。オバケなんているわけねえじゃん」
少年は独りごちた。

時計台の立つ大通りから少し入ると、砂を被った洗濯物を干すレンガの住宅地が並び、さらに奥の細い細い裏通りは昼でも暗く、休日でも歩く人はほとんどいない。
そんな裏通りの隅に少年は、しゃがみ込んで座っていた。
斜め向かいの2階で、愛想のないくたびれた中年女が、先ほどから絨毯を窓から広げて落ちない汚れをたたき続けている。そのパンパントントンという音以外に、この裏通りで音を立てるものはない。
だから、もっと大きな声で独り言を言っても誰も気にしないだろうに、少年の独り言は口の中でほとんど聞き取れないような小さなものだった。

ここ10年、地元の人間の間に広回っている噂。
夜になると、金髪に黄色い服の恐ろしい悪霊が、その通りに現れるのだという。
噂と言いつつも、このあたりの人間は本気で信じており、だからこその夜限定ゴーストタウン化だった。

というのもその噂は、実際に起こった大きな事故が元になっていた。

今から10年前の、1989年1月16日。
日が暮れた後のカイロの街並みはいつも通りの賑わいを見せており、その通りは車道2車線とも渋滞して、歩道も仕事帰りの人がみっしりと溢れかえり、ぶつかり押しのけながら移動していた。
そんな中、車道から1台の車が突然歩道に走り込み、多くの人を薙ぎ倒しながら歩道を走り続けたのだ。
歩道にいた人々は、突然突っ込んできた車に踏み潰され、飛ばされた。他の人はパニックとなって逃げ惑い、あるものは人に踏み潰され、あるものは車道に逃げ込んで車やバイクに撥ねられてさらに他の車の窓に突っ込み、通りは騒然となった。
混乱の中、多くの人、車、建物が巻き込まれて被害に遭い、なぜか時計台まで破壊され、最終的に、死亡31人、重軽傷者173人という、大惨事になった。

原因となった車は、騒然とする歩道を走り続け、建物に激突し、炎上して止まった。
車の主はさる偉い議員で、焼死体となって発見された。
当初は、議員が錯乱して暴走したと思われた。
が、議員の運転手をしていた男が、暴走の前に、金髪に黄色い服の大柄な男の手で車から引きずり出された、と証言をした。普段運転しない議員が運転席にいたことから、脅された結果の暴走と判断された。しかし、非常に目立つ外見をしていたにも関わらず、暴走指示の犯人は警察の捜査に全く引っ掛からなかった。

通りの血の跡はなかなか消えなかったという。
人々の行き交う繁華街の大通りは、曰くつきの”あの”通りとなって、今も人々に恐れられている。
そして、多くの人が亡くなった凄惨な事件だったこともあり、有る事無い事、噂が尾鰭にだけでなく、背鰭に胸鰭、臀鰭までつけて、飛び交っていった。
曰く、2人の人間が何も使わずに建物を飛び回った、ロードローラが宙に浮かんだ、紫の人影が消えたり現れたりした、緑の光が空を走った、など、信じがたい目撃談が飛び交った。
極め付けに、事故に遭わなかった場所にある高級店の店員の女性が、あの夜血を抜かれて死んでいたことが判明すると、その男は人間ではなかったのだと、街の人々は結論づけた。

──あの黄色い男は、人を殺し、生き血をすする”悪霊”なんだ。

当時少年は生まれてすぐの赤ん坊だったから、事件のことは大人たちから聞いた話だ。

オバケなんて信じるのはバカらしい、と強がったが、自分が強がっていることを少年は知っていた。

実は少年は見えるのだ。
他の人には見えないモノが。
生きた人間の背後に浮かび上がる、影のような存在が。

最初は1年前、人の後ろに紫の影のようなものが浮かんでいた。
大人たちに聞いたが、誰も見えないと答えた。
そのあとは、人の後ろに人形のようなものが浮いて動いていた。
施設の子らにいったが、そんなものはないと言われ、さらにバカにされていじめられた。

あれは、なんだったのだろう。

エジプトといえば、やはりピラミッドである。
数千年もこの地にそびえ続ける巨大な三角形は、世界的な観光スポットとなっている。
多くの観光客を惹きつけ、その観光客目当ての地元民に富をもたらしている。

そのピラミッドは、昔の王様のお墓、なんだそうだ。
死んだ後も復活できるように、魂が戻ってきて入れるように、死体を包帯で巻いてミイラにして保存した、と聞いている。

死んだ人間が蘇る。そんなことがあるのだろうか。
体が無事なら、魂が中に入って生き返るのだろうか。
魂。
死んだ人間の魂。
あの夜殺された人の魂は、今も空中を彷徨っているのだろうか。
自分が見たのは、魂だったのだろうか。
それとも、悪霊だったのだろうか。

そんなことをぼんやり少年が考えていると、暗く細い路地の先に人影が見えた。

黄色い服が見え、あの悪霊か出たと少年は身構えたが、もちろん悪霊ではなく、生身の男だった。

エジプトでは見ない、奇妙な格好をした男だった。
ぐるりと広いツバに紐のついた黄土色のテンガロンハットを被り、同じ色の金具のついたブーツ。やはり同じ色の上下の、前後に布の垂れた半袖の上着から、黒いインナーがのぞいていた。
総じてアメリカのカウボーイのようななりだったが、少年はカウボーイを知らなかったので、変な格好の観光客が迷ってきた、と思った。
190cmはあるだろう長身に、薄い金髪を後ろで縛り、同じ金の口髭に木の棒をくわえた男は、時計台の時刻を鳴らせる音に左手をあげ、青い瞳を細めて時間を確認した。なぜか腕時計は3つもあった。

男は座り込んでいる少年の前を通り過ぎると、また端まで行って戻り、同じ道を往復した。
迷っているのではなく、前あった入り口を探しているが見つからない、そんな感じだった。
観光客らしい手荷物も一切持たず手ぶらだった。

客か。

少年は男への認識を改めると、首に下げている笛を確認して、立ち上がり、カウボーイ男に声をかけた。
「おい、おっさん、”館”のご利用かい?」
入り口を探している人間ならこれでわかるはずだ。

男は、今気づいたという視線を少年に向けた。何度も前を通り過ぎたはずなのに。
少年は「”館”に入るには、200ポンドいるんだよ。だしな。」と右手を差し出して続けた。
「ああ? なんだてめーは? 前はいなかっただろう、てめーみてーなガキはよおー」
少年を見下ろしながらめんどくさそうにいう男に、
「最近できたんだよ、入館料ってやつだ」
と少年は答えた。

父を知らず、生まれてすぐ母に捨てられた、施設暮らしの少年。そんな子供に持ちかけられたアルバイトが、”館”への受付だった。やってくるのは居場所に困る事情持ちの奴ばかり。学校が終わった後と休みの日に裏通りに座り込んで、そいつらから入館料をもらい笛を吹いて合図をするのが、3ヶ月前からの少年の仕事だった。すると客を迎えに”館”のものがやってくる。ドアを開けてチップをもらうようなものだ。
この3ヶ月で笛を吹いたのは全部で10回。座っているだけでも金は出る。こんな楽な仕事はなかった。

「ほら、”館”に入りたいんだろう? 150ポンドにまけてやるよ」
右手を出しながら少年が続けたが、カウボーイ男は今まで対応してきた客たちと異なり、少年に振り払うようなしっしという仕草をすると、右手を空に向かって伸ばした。
「おい……おっさ……」
少年が見上げると、メギャンとという音とともに、ピストルのような銃がカウボーイの右手に浮かびあがった。

銃?どこから?持ってなかったはずだ?
驚く少年の前で、男は引き金を引いた。
バンッ!と銃声が轟き、少年は目と耳を塞いだ。

バンッ!
バンッ!
バンッ!

銃声が止んで静かになった。
少年はそっと目と耳を開けた。
向かいの2階の中年女が、変わらずつまらなそうな顔をしたまま、絨毯の汚れをパンパントントン叩き落とそうとしている。

(オイオイオイオイオイッ!聞こえなかったのか、あのババアッ! 
銃を撃ったんだぞ!この男が!)

驚く少年を、逆に少し驚いたように男は見て、軽く笑った。

「へええ、そういうことかい」

少年が見ている前で、カウボーイ男は、すーっと足元から消えていった。

「またな、坊主」

少年──ウンガロは、誰もいなくなった裏道を、あっけに取られて見つめていた。



次の話(1-1-② 悪霊の街、スタンド使いの挨拶②)  
目次 前の話(序章 白銀の翼)


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