1-5-① 蘇る法皇①
*注意*
本作は『ジョジョの奇妙な冒険』および『クレイジー・Dの悪霊的失恋』をもとにした非公式の二次創作です。
原作および出版社とは一切関係ありません。
おもいっきりネタバレしています!!!
目次 前書き&注意点 前の話(1-4-③ 襲いくる過去、追いかける真実③)
「な……なんだよ……こりゃあ……」
さっきと同じセリフを仗助は呟いていた。
コンクリートの床に仰向けに倒れているのは、どう見ても男だった。
仗助と同じぐらいの身長だがやや細く、筋肉がつきつつスラリとした体型。
身に纏っている緑の学ランはどこにでもあるタイプで仗助の学校のものにも似ていたが、後ろの裾を長くした長ランになっていた。茶色い革靴を履いている。
特徴的な髪は珍しい赤茶色で、襟足が長く、前髪が眉ぐらいで真ん中で分かれ、他は後ろに流していたが、右の外側の前髪が一部分だけ長く伸ばされて顎ぐらいまで緩やかなウエーブを描いていた。前髪部分は、色は違うがさっき見た”先輩”と同じ髪型だ。
細く切長の目は閉じられ両目に縦に切り裂いた傷跡が残っていた。整った鼻が続き、横長にはっきりした口が軽く開いていた。両耳にはさっき見たさくらんぼのイヤリングが2つ揃って下げられている。髪の色は変わっているが肌からは日本人かそれに近い人種だ。
顔だけ見れば繊細で優しげで女性的な印象を受けるが、その下には太くがっしりした首に詰襟から喉仏が見え、厚い胸板に長い指の大きな手と、どう見ても男だった。しかもまだ若い。仗助より2、3歳上ぐらいだろうか、まだ未成年だろう。少年というか青年というか。
少し離れたところで仗助は混乱していた。
仗助のスタンドは人間よりパワーがあるので殴ったり蹴ったりして破壊することもできるが、特筆すべきは”治す”能力だ。
壊れたものを元に戻したり、怪我した人間の怪我を治したりするが、応用として作られたものを原材料の段階まで戻したり、治しながら形を変えたりできる。
この治す能力は非常に強力で、ものや肉体の一部品が本体から離れたところにあっても、その部分に能力を施すと、部分が浮き上がり、空中を浮いて本体まで飛んでいってくっついて治る。
そしてその逆も可能だ。つまり、一部分に治す能力を施して本体部分を飛んで来させることもできる。本体が移動可能なものであれば。
仗助はこの悪霊だか背後霊だか自分の背後に出現する能力を持った亡霊を”スタンド”と呼ぶことを今日知ったが、そのスタンドを10年以上使い続け、今では手足のように動かせる。時々元に戻らず形が変わることはあったが、”治す”能力の原則が異なることは一度もなかった。
さっき鸚鵡が吐き出した肉片はちゃんと仮頼宿の耳に戻った。
同様に鸚鵡が吐き出した、髪の毛の絡まったさくらんぼのイヤリングは、”先輩”がつけていたものと同じだった。少なくとも仗助にはそう見えた。どこかで彼女が落としたものを鸚鵡が飲み込んだ、と思った。
だから”治す”能力で”先輩”が飛んでくる、そう思って能力を使った。
なのに現れたのは、同じ髪型をした、男だった。
しかも現れ方も今までないものだ。
万一、同じようなさくらんぼのイヤリングをして落とした男がいたのだとして、能力で”治す”場合、肉体がそのまま引き付けられるはずだった。
しかし、なぜか鸚鵡のスタンドから、フィルムが伸びて出てきて、男の形を形造って現れた。
その鸚鵡は、仗助の作った鳥籠の中で目を閉じて床に伏せていた。少しぐったりしたような疲れたようだった。
ボインゴは、目を見開いて男を見つめたまま固まっていた。
「う……」
横たわった青年の細い眉が動き、口から呻き声が出て、仗助とボインゴはビクッと驚いた。
目が覚めたらしい。
赤茶色の髪の男は、眉を寄せながら薄目を開けると、右手で額から目の前を多い、頭をゆっくりと振りながら起き上がった。
「くそ……頭が痛い……」
日本語だった。
床に座った姿勢になった男は、眉を顰めしきりに頭を振りながら周囲を見渡し「どこだここは……あの執事は何をした……じょう……」と言いつつこちらに目を向け、呆然と見つめている仗助たちと目が合った。
男はすぐさま立ち上がってきつい表情でこちらを睨み「You bastards! Are you with that butler!?!」と叫んだ。
が、仗助には何をいっているのかわからなかった。
「え……なんだよ? ゆー? 英語ッ??ええ?」
と仗助が混乱して返すと、赤茶色の髪の男は訝しげな表情に変わり、仗助を見つめ、ポカンと口を開けたまま固まっているボインゴに目を向け、
「……君は日本人か? あの執事の仲間じゃあないのか? なんでこんなところにいる?」
と、日本語に戻して仗助に話し始めた。
「なんでっつーか……あんたこそなんでっつーか……」
「あいつらの引き込む能力に巻き込まれたのか? これからここは戦場になる。悪いことは言わない、ここから逃げるんだ」
男は仗助たちにピシャリと言い放つと周囲を見渡し始める。起きるなり機嫌が悪いというか焦っているようなピリピリした感じだった。
さらに動かない仗助たちに苛立ったように「まだいるのかッ。ここは危険なんだ、君はまだ子供だろうッ、早く行けッ」と続けた。
(なんだよ、いきなり現れてよおッ お前だってどう見てもガクセーじゃあねえかッ)
自分と同じ学生服の初対面の青年に頭ごなしに言われて、仗助はカチンときた。
そこへ階段から足音がして、ホル・ホースが階段を登ってきた。
「おいッ 仗助! ボインゴもかッ!」
廊下部分を突っ切って教室部分に入ってきた。
「あ、兄貴……」
「Hol Horse?!!」
赤茶色の髪の青年が叫んだ。英語でホル・ホースの名を。
ホル・ホースは呼ばれた方を見て、目を見開いて、固まった。
「な……お前…………かきょ……」
一方、青年は、ホル・ホースに敵意を剥き出しにした顔つきになった。
「ホル・ホース貴様ッ!!! また僕たちを殺しに来たのかッ!!!」
青年の背後に緑色の亡霊が現れた。
「スタンドッ! こいつ、スタンド使い……」
亡霊は人型のスタンドになり、両手を体の前に突き出した。
「エメラルドスプラッシューーーーッ」
スタンドの両手から緑がかった噴水と、緑の宝石の数々が、ホル・ホースめがけて吹き飛んで、ホル・ホースは勢いよく吹き飛ばされた。
「あ、兄貴ッ!!」
「……ホ、ホル・ホースッ」
ボインゴが、ホル・ホースを追いかけて飛ばされた廊下部分に出ていった。
仗助は、ホル・ホースを吹き飛ばした相手に向き直った。
緑の制服の青年の横に現れたスタンドは、スラリとした人形で、メロンのような網目がキラキラゆらゆらした緑色の体に、頭や耳、口元、腕や足などの硬そうなプロテクターがついていた。目は黄色一色に縦に筋が入っており、全体的にウルトラマンのような特撮戦隊モノヒーローといった感じだった。
「てめえッ、よくも兄貴をッ!」
仗助も自分のスタンドを出現させ、鸚鵡の鳥籠の前の床をスタンドで殴りつけ、コンクリートの壁を作りあげた。
「お前もスタンド使いッ!? ホル・ホースの手下かッ!」
緑のスタンドが今度は仗助に向かって、先ほどのように両手を突き出して、緑の宝石を飛ばす攻撃を放った。
「ドラララララララララララーーーッ!」
仗助は相手に走って向かいながら、スタンドの拳で宝石を弾き飛ばしていった。
「なにッ! エメラルドスプラッシュを!!」
「ドラッ!!」
近づいた仗助は一気に相手に殴りかかったが、スタンドの腕が紐のように解けると、ビヨーンと後ろに伸びて柱に巻きつき、青年ごと一気に後ろに飛び去った。
殴りそびれた仗助は驚いた。
(長えッ! 教室3つ分の端まで25メートルはあるぞッ! なんて射程距離だッ! 兄貴の弾丸も遠くまで行くが、こいつのは本体が移動するッ! こんなスタンドもあるのかよッ!)
一方、攻撃を弾かれた青年も驚いていた。
(なんてパワーだッ! エメラルドスプラッシュを殴り飛ばすなんてッ! スタープラチナ並じゃあないかッ!)
「なら、これはどうだッ」
人型だった緑のスタンドが下半身から溶けるように形を失っていった。
「な、なんだッ?」
コンクリの床に緑の紐が網のように広がってきて、仗助の足に巻きつき、一気に仗助を引っ張っり、仗助は空中を飛んで惹きつけられた。
「な、ドラッ!」
と仗助がスダンドで殴りちぎってコンクリートの床に落ちると、そこからさっきのエメラルドスプラッシュが作動して仗助めがけて吹き出した。
「グッ」
慌ててスタンドで防ぐが間に合わず、足が傷ついた。
「てめえッ!」
床に広がっている緑の紐ーというかクネクネ動くところを見ると触手のようだーと次々とドカドカと叩き潰して、相手に近づいていく。
「モグラ叩きのつもりかッ! エメラルドスプラッシュッ!」
今度は横の壁から攻撃がきて、腕が傷ついた。
対する仗助は、スタンドで床を殴って破壊したコンクリの破片を次々と拾っては、相手の青年に投げつけていった。
「くッ」
青年も避けたりスタンドの触手で防ぐ。
床を殴っては拾って投げて走り、また殴っては拾って投げて走る。
「だるまさんが転んだかッ!」
距離を詰めた仗助が「とらえたぜッ!」と青年の近くまできて、「ドラアアアアアッ!!」
と殴りかかると、青年はうき上がった。
天井の剥き出しの鉄骨に触手を絡めて飛び上がったのだ。
そのまま仗助の上を飛び越え、上空を伝って、仗助から距離をとった場所に降り立った。
呼吸を整えながら2人は睨み合う。
(スタンドを使うやつとスタンドを使ってやり合うのは初めてだけどよお、なんつーかこいつやり慣れてやがる。クソッ)
(一緒に執事と床の穴に引き込まれた承太郎とジョースターさんがいない。この騒ぎでも姿を現さないと言うことは近くにはいないのか? 先ほどのながい廊下を見ると幻覚を使うスタンド使いがいるようだが、この床の感覚は本物に感じる、どう言うことだ? どんなスタンド使いが潜んでいるかわからない状況で、このままDIOの館の中で分断される続けるのはマズイ。ジョースターさんにああ言われたとはいえ、アヴドゥルが本当に炎を放つとは思えないが、早く合流しなければッ)
「あのダービーとかいう執事はどこだッ! 承太郎たちをどこへやったッ!」
「はあ?ダービー?誰だそいつは?」
「……お前はホル・ホースの仲間じゃあないのか?」
「そうだよッ! 兄貴を傷つけるやつあ、許さねえッ!」
仗助は、また相手に向かってダッシュを始め、青年の緑のスタンドが触手を広げ始めた。
すると、先ほど仗助が殴り壊して投げた床の破片が空中に浮かび、あちらこちらに飛び始めた。
「な、なにッ?!!」
見ると、壊されて飛ばされた床の破片が、元の床に戻って”治って”いく。
(壊したものを治す……これがこのスタンドの能力?!!)
青年はスタンドの触手を使って、空中に浮いて直るために飛んで移動するコンクリの破片を避ける。さらに仗助がスタンで床や柱をぶち壊し、それを次々に青年に向かって投げつけた。
飛んでくる破片に治る破片、縦横無尽に方向のわからないコンクリートや柱が部屋の中を飛び回り、それを避け弾き返しながらあちこちに青年は飛び回った。
飛んできた柱をスタンドの触手でぐるぐるに巻きつけて止め、床に落とした青年の顔には、やや焦りが見られた。
「もう一度聞くッ! あの執事はどこだッ! 承太郎たちをどこへやったッ!」
「あああ~!!だから知らねえっつってんだろうがよおおおおおーーー!!」
(このホル・ホースの手下は、本当に執事や承太郎たちのことを知らないのか? ならばホル・ホースに直接聞くしかないッ やつのエンペラーは強力だが、僕のハイエロファントなら触手で右手を押さえつければ制圧できるッ!)
青年がホル・ホースたちのいる廊下をちらっと見て、徐々にそちらに移動を始めた。
それを見た仗助は、
「テメーの相手はこのおれだろうがよおおおおおおおーーーッ」
一際大きな柱を出口を塞ぐように投げつけ、青年はまた天井に触手を巻きつけて、天井すぐ下を空中を飛んで、空間の逆方向に移動し、床に降りようとした。
しかし、仗助は青年を追わず、自分が投げつけた柱の方に走っていって、抱え上げた。
すると、柱が”治って”、青年が着地する横の柱部分に飛んでいった。仗助ごと。
柱を抱えた仗助は、着地しようとした青年のすぐ横に飛んでいった。
「なッ、しまっ……!」
「もらったッ! 胴体がらあきッ!!」
仗助のスタンドが青年を殴ろうとして、
その胴体をすり抜けた。
「?!!」
「?!!!」
2人ともその場に立ちすくんだ。
仗助は再び困惑した。仗助のスタンドの拳は、確かに入ったタイミングで、腹をぶん殴ったはずだった。
なのに、すり抜けてしまった。
スタンドはものや人間を触ったりすり抜けたり選択することができるが、今は確実に相手にダメージを与えるつもりだった。
(どう言うことだ?)
一方、青年は自分の腹部を抱きしめるようにして、あらぬ方を見ていた。
殴られていないのに、何かショックを受けたようだった。
「仗助」
あちこち怪我をして血が出ているホル・ホースがひょこひょこと仗助に近づいてきた。後ろにはボインゴもついてきている。
「あ、兄貴」
とりあえず彼の怪我を治した仗助に、「ありがとよ」とホル・ホースはいうと、仗助に離れるように手で合図した。
仗助は、衝撃を受けた様子で固まっているスタンド使いの青年から、静かに離れた。
ホル・ホースは10年前の”あの日”を思い出していた。
DIOに脅されボインゴとジョースター一行に挑んだホル・ホースは、失敗して倒れた。
目が覚めた時には病院で、隣のベッドのボインゴがいた。
これ以上失敗できないのに失敗した、このままでは始末される、とホル・ホースは包帯を巻いたままボインゴの手を引いて病院から抜け出し、カイロの街を走った。
その時、見た。
腹を撃ち抜かれ、貯水槽に打ちつけられて、命を失っていくあの青年を。
日が沈んだばかりのカイロの街を横切って時計台を破壊した緑の宝石たちを。
花京院典明の命の最期の輝きを。
ホル・ホースは左手でいつも口に咥えている棒をとり、右手で帽子を取って胸の前に掲げると、
「花京院」
と青年に声をかけた。
青年はゆっくりとホル・ホースを見た。
「花京院典明。お前は死んだ。」
青年の縦に傷の入った横長の目が見開かれた。
「DIOと戦って殺されたんだ。もう10年も前になる。」
青年の視線が外れ、ゆっくりとうつむいた。
(思い出した……僕は、僕は、あの時……)
「その後」
とホル・ホースは続けた。
「DIOも死んで消滅した。承太郎のやつがやったんだ。3人とも生き残ったぜ。
最期のエメラルドスプラッシュは無駄じゃあなかった……オメーのメッセージは伝わったんだよ。」
青年・花京院典明は再び目を見開いて、ホル・ホースを見た。
(ああ……ジョースターさん、ポルナレフ、承太郎……)
花京院典明は、ホル・ホースから顔を背けて、俯いた。
潤んだ瞳を隠すように。
