2-3 予言と預言
*注意*
本作は『ジョジョの奇妙な冒険』および『クレイジー・Dの悪霊的失恋』をもとにした非公式の二次創作です。
原作および出版社とは一切関係ありません。
おもいっきりネタバレしています!!!
《やあ、ボインゴ!
また会えて嬉しいよ!》
漫画のコマに書かれた文字の下には、漫画本を手にしたボインゴの見慣れたイラストがあった。
《君が勇気を持ってポイしてくれたおかげで、輝かしい未来にまた一歩近づいたぞ!
これからもよろしくね!!》
ボインゴは、ホテルの部屋のテーブルの下にしゃがみ込んでいた。
手には花京院涼子に返してもらった自分の漫画本・トト神がある。
数時間ぶりに手元に戻った自分のスタンドを、ボインゴはじっと見つめた。
花京院涼子は、鸚鵡とそのスタンドを手に入れて、過去を手に入れるように、トト神は予言していた。
そうすれば、従兄弟の花京院典明の”真実”を知ることができる──と。
鸚鵡は涼子の髪を食べ、彼女は過去を手に入れることができたらしい。
それで未来にあたるトト神を手放したようだ。
ホル・ホースはきつい一発をもらうようで、気の毒でもあり楽しみでもある。
トト神がボインゴの手元から花京院涼子の手に移り、再びボインゴの手元に戻るまでが予言の通りだったということらしい。
なぜかはさっぱりだったが。
トト神は、漫画の形式で未来を予知するスタンドで、その予知は絶対100%的中する。
本来スタンドは、本体の精神の具現化である。
その本体の精神・つまり心を表したものだ。
一方、トト神は、ボインゴの希望する未来を予言するとは、限らなかった。
だが、基本的には普段はボインゴと兄のオインゴに関わる未来や、危険を避けるための予知する未来、他人を助けるとボインゴたち徳をする予言をしてきた。
だから、ボインゴのスタンドだと、兄もボインゴも思っている。
今回のようにトト神が、本体のボインゴたちにほとんど関係ない予言をすることは、今までごく稀にあった。
流石に今回のように他の人間の手に漫画本が渡ることは初めてだったが、14年前、魔女・エンヤ婆に予言をしたことがあった。
《エンヤ婆は、イタリアにいって、ナーゾから弓矢を買い取れ!
弓矢で人を射ると新たなスタンド使いが生まれるよー
でも大抵死んじゃうから気をつけてねッ!》
魔女は予言通りイタリアにいって、5本の弓矢を買い取ってきた。
多くに実験体が死んだ。
でも、ケニー・Gとヴァニラ・アイスは生き残ってスタンド使いになった。
まもなく、トト神は魔女にもう1つ予言をした。
《エンヤ婆は、イギリスにいって、DIOを迎えろ!
弓矢で射ると世界を手にいれることができるよ-
でも太陽に当てると消えちゃうから気をつけてねッ!》
DIOとはイタリア語で神という意味だとボインゴは教えた。
すると、魔女はイギリスに行って、神を連れてきた。
禍々しくも美しい、悪の神を。
そして、弓と矢が神に、”世界”を発現させた。
悪の神はたくさんのスタンド使いを支配下に置いて、文字通り世界を支配しようとした。
このまま世界はDIOのものになるのか。
神が世界を手にいれるのか。
こんな世界を変えるような予言が、自分のスタンドから現れてしまうのか。
ボインゴは思った。
しかし、10年前に現れたジョースターの”星”は、”世界”を、そして神を、消した。
その時ボインゴは、予言通りに承太郎たちに挑み、予言通りに負けた。
もし、ボインゴのスタンド能力がボインゴのための予言なら、こんなに自分と関係ない予言や、自分が負ける予言をするのはおかしいのではないか、と思う。
だから、ボインゴは、トト神は本当は自分の能力ではないのではないかと思っていた。
トト神の予言は、どこかで人間の運命を決める別の存在──神の「預言」が、ボインゴのスタンドの形をして現れたものなのではないか。
そう思ってきた。
頼んだルームサービスを黙々とと一人で食べ終わった。
ホル・ホースが帰ってくる様子はない。
しかし、トト神が、神の「預言」と考えると、おかしなこともあった。
14年前と10年前と今回の鸚鵡の件を除けば、トト神の予言はいつもボインゴの身近な予言に限られてきた。
世界を変えるような神の「預言」が、普段そんな1人の人間の小さな未来しか描かないのは不自然ではないか。
そして、今回の鸚鵡の予言が出る前の3ヶ月間、トト神の予言は、全く現れていなかった。
心当たりは、あった。
兄のオインゴからミドラーと結婚したいと言われた時からだった。
ボインゴは家を飛び出してマライアとケニーGのところに行き、兄が来ても入れないように頼んだ。
2人は呆れていたが追い出したりしなかった。
後から来た兄を入れずに追い返してくれた。
それからボインゴの漫画は予言をしなくなっていた。
明らかにボインゴの精神状態がトト神の予言に影響している。
スタンドが本体の精神によるもので、トト神がボインゴのスタンド能力なら当然だ。
神の「預言」を顕すものなら、そんな不調はないだろう。
ならばやはり自分のスタンドなのだろうか。……わからない。
ため息をついて漫画本を閉じ、表紙を見つめた。
”OINGO BOINGO BROTHERS ADVENTURE”
というタイトル。
その下にはボインゴと、兄オインゴのイラストが描かれている。
表紙からパラパラと漫画本をめくっていく。
ボインゴが生まれた時に現れたというこの本は、次から次へとページに漫画が現れ、紙もめくれる。ページは現れるのに厚くなるということはなく、印刷も途中まででそれ以降は白紙だった。
生まれながらのスタンド使いが子供の頃、スタンドは小さかったり力が弱かったりする。スタンドが本体の精神力を反映するものだからだ。ボインゴの漫画本も、生まれてすぐは色が塗ってあるだけだったそうだ。
ボインゴの成長と共に色数が増え、なんとなく形を形成するようになり、次に簡単な落書きのような絵が浮かぶようになっていったらしい。
初めてきちんとした形になった絵は、当時の家から荷物を持った母が出ていくシーンだった。
それを母に見せた。
──もういやあッ!アンタなんか産むんじゃあなかった!
母はそういって、出て行った。
ボインゴが覚えている、唯一の母の記憶だ。
その後学校から帰ってきた兄は、ボインゴを慰め、母を恨むなと行った。
──母さんは限界だったんだ。
──30も上の男に売られてきて何人も子供を生まされた。
──オレとお前以外はみんな死んだ。
──オレもお前も訳のわからない力を持っていて、それも母さんのせいにされた。
──アイツは仕事もしないで飲んで殴って……母さんは泣いてた。
──母さんはあんなヤツといない方が幸せになれる。きっと今頃幸せになってる。──オレたちもだ。もう少しでオレはアイツと同じぐらいにデカくなる。そうしたらもう負けねえ。オレたちだけで幸せに暮らそう。
次に本に現れた絵は、寝床で紫になった父親の絵だった。
酒飲みだった父は血を吐いて死んだ。
兄のオインゴが14歳、ボインゴは4歳だった。
予言は家を売り国を出て、魔女に会うように告げた。
オインゴとボインゴは家を売って国を出ると、白髪の魔女・エンヤ婆に出会った。
エンヤ婆に出会い、スタンドについて教わった。
トト神は、弓矢と神の「預言」をした。
エンヤ婆の元、スタンドを使って仕事をして、金を稼いだ。
子供2人が暮らしていけたのも、水がかわったせいかしょっちゅう熱を出したボインゴが医者にかかれたのも、トト神の予言のおかげだった。
いや、トト神と寝ずに看病してくれた兄のおかげだった。
──大丈夫だ、ボインゴ。きっと良くなるさ。
──オレたち兄弟は無敵だ。
──オレたちならできる。ずっと2人で生きていくんだ。
そういっていたのに。
2人で幸せになるんだと、そのためにスタンドを使おう、そう思っていたのに。
──なあ、オレたちもいい大人だ。
──そろそろ別に暮らしてもいい頃合じゃあねえか?
──オレはオレの幸せを見つけたからよ、ボインゴ、お前もお前の幸せってやつをよお
──おい、ボインゴ? ボ、ボインゴッ!
──待ってくれ、弟よおおおおおーーーッ!!
思い出してため息をついた。
ボインゴはこの予言の能力を、兄弟の幸せのために使ってきたし、使おうと思ってきた。
2人で幸せになろうと思っていたのに。
1人になって幸せになんかなれるのだろうか。
ここ3ヶ月予言がなかったのは、そんな不安と疑念がトト神の予言に影響しているのだろうと考えていた。
ならば、
ならば、両方ではないだろうか。
ふとボインゴは思い立った。
トト神の予言には、ボインゴの身の回りの予言と、世界を変える神のお告げの2種類があるのではないだろうか?
予言と「預言」が。
ボインゴはノロノロと机の下から這い出ると、ポットからお湯を出してお茶を入れた。
日本茶はボインゴには苦かったが、外へ買いにいくのはボインゴにはハードルが高かった。
夏にも予言でボインゴは”館”に行った。
13年前、肉の芽を埋め込まれたDIOの手下は、死ねなくなってしまったのだという。息子だという学生服の男は、はるばる日本から弓矢を持って”館”にやってきた。
男は日本語しか話せなかったし、エジプトのスタンド使いには他に日本語ができるものはいなかったので、通訳して弓と矢の使い方を教えてやった。
マライアにSPW財団にあの男のことを言わなくていいのかと聞いたら、なんで言わなきゃならないんだ、と言い返された。
──かわいそうじゃあないか、マンサクが。死ねないなんて。
──死なせてやりなよ。
──スタンド使いが増えるなら別にいいじゃあないか。
あれは予言ではなく預言だったのかもしれない。
もし、神のような存在が、トト神を通じて世界を変える「預言」をしているとしたら、
その預言は、弓矢をばら撒き、スタンド使いを増やし、世界に混乱をもたらそうとしているように見える。
すると今回の花京院典明の従姉妹・花京院涼子への預言は、どう関わってくるのだろう。
彼女がトト神を拾って預言を受けて、鸚鵡を手に入れたことは。
ちょっと前に花京院典明の幽霊が現れたことも、「預言」の範囲なのだろうか。
花京院典明。
10年前にジョースター一行と行動を共に旅をし、
──DIOと戦い、命を落とした男。
花京院典明という日本の高校生の情報は、矢を与えたのにすぐ死んでしまった日本人の遺族からだった。
その情報を元に、マンサクが家族旅行でエジプトの来るように仕向けた。
オインゴとエンヤ婆の操る死体が、幼い涼子を家族から引き離し、ケニー・Gが幻惑を見せて閉じ込めた。
そしてDIOが──
花京院典明は、承太郎に肉の芽を引き抜いてもらったのに、家族の元へは帰らなかった。
ジョースター一行に加わり、DIOのところへ再度やってきた。
そしてまたDIOに──
10年ぶりに見た花京院典明は、ボインゴの記憶よりも幼く見えた。
当然だろう、ボインゴは彼の年齢を越えてしまったのだから。
彼はなぜ戦えたのだろう。
あの悪の神と対峙するなんて、ボインゴは今でも思い出しただけで恐ろしいのに。
10年前の彼の最期をボインゴも見た。
美しい翠の宝石が、カイロの空に舞った。
あの最期の一撃がDIOのスタンドの秘密を教え、承太郎を勝利へ導いた。
”法皇”は、”星”を導き、”世界”を滅ぼしたのだ。
では、今、蘇った”法皇”は誰を救い、導くのだろうか。
トト神は、普段は他人のタメになることをするとボインゴたちが徳をする予言をしてきた。
だからボインゴはこの予言を人のためになることに使って、人を幸せにして感謝されて自分も幸せになれるんじゃあないか、と思っていた。
思った時期もあった。
でも、弓矢に関する予言は、いや「預言」はとても残酷だった。
多くの人間が死に、スタンド使いが生まれ、死んでいった。
そして今もおそらくたくさんの人間が死んで、強力な能力を持ったスタンド使いが生まれている。
トト神は──神は──
世界を滅ぼそうとしているのだろうか。
パラパラとめくっていた漫画本の印刷されている最後に辿り着いた。
これから先は白紙だ。
と思っていたら、印刷が浮かび上がり、
新しい予言が出た。
どうしよう。
ボクにどうしろというんだ。
ボクは、何もできない。何も。
ボインゴは頭をかかえた。
すると、カサと音がした。ポケットの中からで、紙が入っていた。
取り出すとこの町・杜王町の地図だった。
交番を出る時に良平から渡されたものだ。
地図の上には電話番号が書いてある。
──困ったことがあったらここに電話しておいで
兄以外では初めてだった。
内気で他人と話せないボインゴと向き合って、真剣に話を聞いてくれた人は。
──ダメでも元々。やれることはやってみようじゃあないか。わしらも手伝うよ。
ボインゴはノロノロと机の下から這い出ると、ホテルの部屋の電話の受話器を持ち上げた。
