「ね、最初からその気で来たんでしょ」
電車の中で
今日までにしていたやりとりを何回も開いた。
やっぱりやめようかな、とか
普通じゃないよな、とか。
でも
「ちょっと興味あるだけ」じゃ
ここまで来ない。
自分でも分かってる。
今日はたぶん…
その先を知ってみたかった。
家の前で立ち止まって
もう一回だけ、深呼吸した。
はじめましてで
知らない人の家に行って
その先のことも
なんとなく分かってる状態で。…
冷静に考えたら
ちょっとおかしいのに。
でも、心臓の音が
それ以上にうるさい。
⸻
ノックをすると、「はーい」と跳ねたような声が聞こえてきた。
ドタバタと昔ながらの家の床を小走りする音が聞こえて、扉が空いた。
キッチン用品の並ぶキッチン、
緑の多いリビングルーム、
懐かしい感じのする部屋全体は、
おばあちゃん家を思い出させた。
ドアが開いて
目が合った瞬間
「あ、無理だ」って思った。
帰れない、じゃなくて
帰りたくなくなった、の方。

⸻
「こっち座って、隣においでよ」
最初は普通にお喋りして。
仕事のこととか
最近ハマってるものとか
ほんとに
どこにでもある会話なのに
距離が近いだけで
全部、違う意味に感じる。
たまに目が合うたび
少しだけ逸らしてしまうのも
全部バレてそうで。
⸻

「上、行こっか」
そう言われた時
一瞬だけ、止まった。
2階の和室。
たぶんここから先は
さっきまでとは違うって
説明されなくても分かる。
でも
嫌じゃなかった。
むしろ
待ってた気がする。
畳の匂いが、少しだけ落ち着かせるのに
それ以上に
心臓の音がうるさかった。
後ろで襖が閉まる音。
それだけで
さっきまでの空気と
完全に切り替わる。
⸻


振り返ったら
もう、距離が近くて。
何も言われてないのに
どうしたらいいか
分かってしまう感じ。
「そういう顔するんだ」
って、少しだけ笑われて
逃げ場がなくなる。
⸻
指、軽く触れられて
それだけで
体温が上がるの分かる。
さっきまで普通に話してたのに
今はもう
同じ距離でいられない。
⸻
最初は軽く撫でられただけ。
それだけで頭はいっぱいになっていたのに。

「こういうの、使ったことある?」
視線を逸らした先に
見えたそれ。
一瞬で意味が分かってしまって
余計に、目を逸らせなくなる。
「興味あった?」
って
試すみたいに聞かれて
ちゃんと答えられなかった。
でもたぶん
顔でバレてる。
⸻

気づいたら
距離、もっと近くなってて。
どこまでが自分の意思で
どこからが流されてるのか
もう、分からない。
でも
止めたいとは思わなかった。
⸻

「ほら、ちゃんと見て」
そう言われて
目を逸らせなくなる。
でも
それが嫌じゃない。
この先、どうなるのか
もっと知りたくて仕方ない。
「もう分かったからね」
あなたが感じるところ、初めてでも。
若芽ふたば
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