環境保護は、文化と産業を守ることガラスびんリサイクルマークのあるガラスびんが運ぶのは水、空気、つくり手の想い、そして日本酒文化
冷涼な気候と豊かな水に恵まれ、古くから酒造りの文化が根付いている長野県諏訪市。一升びんが当たり前だった時代から、お酒の楽しみ方も、容器も変わりつつある中、日本酒にはガラスびんが絶対に必要だと、ガラスびんへの強いこだわりを持って酒造りを行っている酒蔵があります。
前回(白百合醸造株式会社)に引き続き、今回も「(自主認定)ガラスびんリサイクルマーク(以下、ガラスびんリサイクルマーク)」をいち早く導入された酒蔵、宮坂醸造株式会社を訪問。営業本部企画部課長の岩波正樹さんにお話を伺いました。
※ガラスびんリサイクルマークは、消費者の分別排出をわかりやすくすることで、 ガラスびんの水平リサイクルのさらなる促進とリサイクル率向上による循環型社会への貢献を実現するため、日本ガラスびん協会が2025年3月25日に制定し、運用を開始したマークです。

ガラスびんリサイクルマークについて詳しくはこちら
白百合醸造株式会社のインタビュー記事はこちら

諏訪の寒冷な気候と豊富な水
そして実直な職人気質
-諏訪には多くの酒蔵がありますが、地理的な要因があるのでしょうか。
(岩波さん)
諏訪は昔から酒造りだけでなく、お醤油や味噌など醸造業が発展していました。その背景には良質な水と気候が大きく関係しています。この地域には伏流水もあり良質な水が豊富です。そして冬はとても寒い。昔はマイナス20度近くになることもありました。こうした環境は発酵に最適で、自然と醸造業が発展しました。今でも長野県内には酒蔵が80蔵ほどあり、全国で新潟県に次ぐ規模です。
また、過去には岡谷市を中心に製糸業も盛んで、横浜に運び海外輸出もしていました。今では時計やカメラなどの精密機器産業が発展していますが、分野は違えども、入念に実直に仕事に取り組む職人気質があるのかもしれません。
こうした気候と諏訪の職人気質が合わさって、今も醸造業や精密機器産業が多いだと思います。

テーブルに置いて見栄えのする、
ワイングラスにも似合う
新しい日本酒のシルエット
-宮坂醸造の代表商品である「真澄」の720mlのボトルは、デザインにかなりこだわったと聞いています。
(岩波さん)
私たちは1998年頃から海外輸出を始めたのですが、当時、日本国内はもちろん海外でも、日本酒は一升びんという固定観念が強く、720mlびんの場合も一升びんをそのまま小さくした形のものが多かったです。
しかし、つくり手としては個性を出したいと考えますし、特に720mlは食卓に並ぶことが多いサイズです。テーブルで映える、ワイングラスにも似合う、そんな新しい、私たちなりの日本酒のシルエットを模索していたのです。
とはいえ、自由にデザインできるわけでもありません。流通させていく上で、高さや太さといった形状面、そして強度面の制約があります。ガラスびんメーカーさんと何度も打ち合わせを重ねた結果、できる限り首を細くし、テーブルに置かれたときに美しく見えるびんをつくることができました。
-季節限定酒などでは、透明の容器でも販売しています。
(岩波さん)
酒質への影響を防ぐため、日本酒には紫外線カット率の高い茶色や緑色、黒色のびんが多く採用されています。生酒や季節限定酒では、これらの色から連想される、やや古くさい昔ながらの日本酒のイメージを払拭したいと考え、透明色びんを採用しました。始めたのは1980年代ですが、その当時はかなり珍しい事例だったのではないかと思います。

ガラスびんはひと目でガラスびんだと分かるけれど
あえてマークを付けることに意味がある
-ガラスびんリサイクルマークの話を聞いたときの感想を教えてください。
(岩波さん)
正直、「見ればわかるよね」って思いました。他の素材とは違って、ガラスびんはガラスびんであることが一目瞭然なのに、なぜマークが必要なのだろうって。
しかし、よく考えてみると、スチール缶やアルミ缶、PETボトルにはマーク※1がありますので、ガラスびんにあってもおかしくはないのだなと思い直しました。
私たち酒蔵にとって、ガラスびんはリサイクルされるのが当たり前ですが、若い人たちにはガラスびんという容器がもつ水平リサイクル(何度でもガラスびんへ生まれ変わる)特性への理解が薄れているかもしれません。
ガラスびんは分別回収の対象です※2。ガラスびんリサイクルマークを見て、若い人たちが「あ、ガラスびんってリサイクルされるんだ」と再認識してくれたら、ガラスびんの素材としての良さ、環境面での利点がさらに浸透していくのではないでしょうか。
※1:資源有効利用促進法で指定されている識別表示
※2:ガラスびんは容器包装リサイクル法で定められた再商品化義務のある容器

-ガラスびんリサイクルマークを表示する上で苦労された点はありますか。
(岩波さん)
一番は表示スペースの確保です。
清酒には酒税法で表示しなければならない項目、文字の大きさ等が細かく決められています。また、蓋部分にプラスチックを使用しているので、ガラスびんリサイクルマーク以外に「プラ」マークも表示する必要があります。
ラベルのサイズを大きくすれば良いのでしょうが、ラベルを貼る機械の関係もあり、そう簡単ではありません。ラベルとしてのデザイン性を損なわずに、マークのスペースを確保する。ここに一番苦労しています。
ガラスびんリサイクルマークの取り組み自体は大賛成ですので、今後は折を見て私たちのホームページなどでも発信していければと思っています。
-宮坂醸造では環境保護への取り組みに力を入れているのでしょうか。
(岩波さん)
私たちのお酒は地元のお米、水、空気によって造られていますので、自然環境を守ることは、結果的に自分たちの文化と産業を守っていくことになります。
特に私たちのような地域に根差した酒蔵が生き残っていくためには、ワインでいう「テロワール」のように、地域色がとても重要です。その土地の個性や気候、そして、そこで育った米と水と人。商品のブランドというのは、こうしたバックストーリーがとても重要ですし、その地域で育まれた一本であることに価値が生まれます。ですから、私たちは精米からびん詰めまですべて自分たちで行います。私たちのこだわりが詰まった一本を食卓で楽しんでいただきたい、その想いで日々励んでいます。
-地域との関わりという点では、雇用面でも地元の方を中心に採用されているのでしょうか。
(岩波さん)
酒造りの現場は、今でも季節雇用が一般的です。夏場に農業をされていた方が、冬の時期になると酒造りを手伝いに来てくださいます。こうした雇用形態ですので、やっぱり地元の方の雇用が多いですね。
最近では「日本酒を造ってみたい」という若者も増えていて、わざわざ遠方から来られる方もいます。

「日本酒らしさ」を模索して
思わず手に取りたくなる商品をつくりたい
-宮坂醸造では他の素材の容器は検討されたことはありますか。
(岩波さん)
もちろん社内で話題になります。フィルム型のパウチなどは利便性がとても高いと思っています。でも、我々の業界にとってガラスびんは特別な存在なのです。
ガラスびんは、扱いようによっては割れることもあるかもしれませんが、それを補って余りある良さがあります。品質保持という機能性、ガラスならではの透明感、デザイン的な美しさ。これらは他の素材では実現できません。
ただ、ライフスタイルや時代の変化から、売れ筋は一升びんから720mlびんや小容量の商品へと変わってきています。この流れの中で、「日本酒らしさ」とは何か、今一度考えるフェーズを迎えているのだと思います。
日本人はもちろん、海外の方も「日本酒らしさ」を求めています。しかし、私たちが考える「日本酒らしさ」と、消費者の方が考える「日本酒らしさ」に、いつの間にかズレが生じている可能性もあります。
そこで大事な要素のひとつが、ガラスびんです。
ガラスびんは容器ですが、ただの入れ物ではありません。ガラスびんが商品の印象を左右しますし、ブランドそのものに関わってきます。日本酒文化=ガラスびん文化と言っても過言ではありません。なので、ガラスびんについて考えることが、結果的に「日本酒らしさ」の追求につながるのです。
例えば、若者には日本酒は敷居が高いと思われています。海外の方は日本語のラベルは読めません。そのような中で、いかに手に取っていただくか。棚に置かれたときにはっと目を引くびんの形、色、ラベル、全部含めて商品デザインです。商品に込められた想い、そして味わいは、手に取ってもらった後にしか伝えることができません。商品の魅力を知ってもらうためには、まずは手に取ってもらうこと、その高い壁を越える努力が必要不可欠です。

「良いものをつくる」という、変わらない価値
ガラスびんとともに日本酒文化を継承していきたい
-今後、ガラスびんに期待したいことを教えてください。
(岩波さん)
やっぱり、ガラスびんには軽量化を期待したいです。割れにくくて軽いびん。ガラスびんの理想形ですね。
しかし品質保持という意味では、ガラスならではの素材特性はとても優秀です。お酒に限らず食品全般に言えることですが、「なぜガラスびんを採用しているのか」をもっと効果的に伝えていくべきですね。
あと、リサイクル面では、色ですね。
緑色のガラスびんを透明にすることはできないし、ひと口に茶色びんと言っても、厳密に色調の規格が定められていると聞いています。
例えば、色調規格の範囲をもう少し広げることで、リサイクル率や生産効率が上がるのであれば、「環境配慮型として、こういう色味のガラスびんもあります」という新しい視点で提案ができると思うのです。
私たちは、環境に配慮して育てたお米、環境に配慮して製造したガラスびんなど、環境配慮の視点もひとつのブランドストーリーになると考えています。
-最後に、今後の日本酒業界への想いを教えてください。
(岩波さん)
今の日本は人口が減少して、お酒を飲む人も減っています。
でも、「良いものをつくる」ということの価値は変わらないと思っています。ちゃんとしたものをつくって、どう伝えるか。ここは変わりません。
私たち酒蔵にとってガラスびんは、単なる酒を入れる容器ではありません。その土地の水、空気、つくり手の想い、そして日本酒文化そのものを運んでくれる存在です。これからも日本酒は、ガラスびんとともに文化を継承していくのだと思っています。

宮坂醸造株式会社
営業本部企画部課長
岩波正樹さん
HP:真澄 蔵元 | 宮坂醸造株式会社(信州諏訪 7号酵母発祥の酒蔵)
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