AIDMAからAISASへ「人はなぜ買うのか」という地図の変貌
マーケティングフレーム入門7
AIDMA・AISAS
人がモノを買うとき、その背後には『自分でも気づいていない』“物語”がある。価格や機能では説明できない、意味と記憶と妄想の交差点。マーケティングとは、本来それを可視化する試みだったはずだ。
だが企業は、いつしか“数字”しか信じなくなった。CTR、CVR、LTV……KPIの洪水のなかで、顧客の「感情」は表から消えていった。
だからこそ、あえて今こそ取り出したいのが、AIDMAやAISASといった、“人間の内側”に目を向ける古典的フレームワークである。
AIDMAは、1920年代に米国の広告研究者サミュエル・ローランド・ホールが提唱した購買心理モデルだ。
Attention(注意)
Interest(関心)
Desire(欲求)
Memory(記憶)
Action(行動)
たとえば、街角のポスターで目を奪われ(A)、読んで興味を持ち(I)、欲しくなり(D)、頭の片隅に残り(M)、後日買う(A)。極めてアナログだが、だからこそリアルな人間像が浮かび上がる。
この“感情の流れ”を構造化したことの意義は大きい。マーケティングはそれまで“売るための技術”だったが、AIDMA以降、“買うまでの心の旅”へと視点が転換したのだ。
ただし、問題もある。AIDMAは“店頭で起こる購買”を前提としており、ネット時代には対応しきれない。たとえば検索行動、SNSでの拡散、レビューサイトの影響などは、すべてこのモデルの外側にある。
このギャップを埋めるために登場したのが、AISASである。2004年、電通がネット時代に対応する形で提唱したこのモデルは、以下のように変化した:
Attention(注意)
Interest(関心)
Search(検索)
Action(行動)
Share(共有)
つまり、商品を知った後に人は“ググる”ようになり、買ったあとには“ツイート”するようになった。これによって、購入行動が“個人の完結”から“他者との接続”へと変わったのだ。
たとえば、あるZ世代の女性がTikTokで見かけたリップに興味を持ち(A→I)、即座にGoogleで「発色 レビュー」を検索(S)、購入して(A)、友人とのチャットで「これマジ神」と共有(S)。その一連の流れが、AISASの構造で説明される。
重要なのは、この“最後のS=共有”が、次の顧客のAttentionを生むというフィードバックループになっていることだ。
AISASとは単なる一方向の心理モデルではなく、自己増殖する消費連鎖の構造を持っている。これをマーケティングにどう使うか。AIDMAは主にマス広告型の商品に有効で、AISASはネット消費型に適している。だが、実際のところ、両者を“混ぜて”使う方が多くの場面でフィットする。
たとえば新商品プロモーションの場合、AIDMA的にテレビCMでまず“興味の起点”をつくり、そこからAISAS的にSNSへ波及させていく。この“クロスモデル設計”は、コンバージョンだけを見ている企業には見えない視点だ。
Tipsを一つ。AISASを実践に落とし込むとき、“S→A”の導線を最短化する設計が鍵になる。検索された瞬間に、レビュー・価格・購入ボタンがワンページで揃っていなければ、ユーザーは離脱する。UX設計とは、AISASの中間段階で“落ちるポイント”を最小化する行為でもある。
さらに言えば、AISASの「Share」段階では、**“共有したくなる物語”**がなければ拡散は起きない。商品の機能だけでなく、「誰かに話したくなる理由」――たとえば、「実はこのコスメ、開発者が元NASA研究員」といったストーリーの方が、人は“買う”より先に“語る”。
もちろん、これらのモデルは万能ではない。AIDMAは情報過多社会では記憶の段階が曖昧になりがちだし、AISASは“共有しない顧客”を過小評価してしまう。だからフレームワークは、使い手の想像力次第なのだ。
AIDMAやAISASは「欲望の構造化」だ。
資本主義において、購買は単なる行動ではない。それは“自分は誰で、何を大切にしているか”を可視化する手段でもある。だからこそ、人は商品に“物語”を求める。
次回は「PDCAサイクル」。マーケティングが“創造”だけで終わる時代は終わった。回し、測り、修正する。
そのループが、“戦略を生き物にする”唯一の方法かもしれない。
