実は人生のほとんどは思い込みでできていたりする話
人は、自分の頭で考えて生きていると思っている。だが実際には、そのほとんどは「思い込み」でできていたりする。
これはべつに悪口ではない。
むしろ人間という生き物の、よくできた仕組みだ。
朝起きたら歯を磨く。信号は赤なら止まる。会社では上司に敬語を使う。
こうした行動を、私たちはいちいち深く考えない。考えなくても体が勝手に動く。もし毎朝「歯を磨くべきかどうか」を真剣に考えていたら、学校にも会社にも遅刻してしまうだろう。
だから人は、世界を理解するための「簡単なルール」を頭の中に作っている。
心理学ではこれを「スキーマ」と呼ぶ。
難しい言葉だが、要するに「人生の地図」みたいなものだ。
この地図があるから、人は迷わずに生きていける。
ところが、この地図にはひとつだけ問題がある。
それは、だいたい間違っているということだ。
たとえばこんなルールを聞いたことがないだろうか。
いい学校に行けば安心。正社員なら安定。結婚すれば幸せ。
人に嫌われないようにするのが大事……。
どれも正しそうに聞こえる。
むしろ、正しいと信じている人の方が多いだろう。だが少しだけ周りを見渡すと、このルールに当てはまらない人は山ほどいる。
いい学校を出ても苦しそうな人もいるし、会社を辞めて楽しそうに暮らしている人もいる。結婚して幸せになる人もいれば、独身のまま自由に生きている人もいる。
つまり、このルールは「絶対の真実」ではない。
ただの「多くの人がそう思っていること」だ。
ここで面白い話がある。
もしあなたがフランスで生まれていたら「正社員にならないと不安」という感覚はあまりなかったかもしれない。
もしアメリカで育っていたら、三十代で大学に入り直すことは普通の選択だったかもしれない。
つまり私たちの常識は、世界の真実ではなく、たまたま生まれた場所のルールにすぎない。
この話を聞くと、多くの人がこう思う。
「そんなこと言っても、みんなそうしているじゃないか」
まさにそこがポイントだ。
人間の脳は「みんなと同じ」をとても大事にするようにできている。
昔、人間は群れで生きていた。もし集団から追い出されたら、それだけで命の危険があったのだ。
だから脳は「仲間と同じ行動をしろ」という命令を強く出す。
これは何万年も前から続く、生存のためのプログラムだ。
この仕組みはとても便利だ。
でも、SNSの時代には少しだけやっかいになる。
友だちが旅行に行く。同級生が昇進する。誰かが新しい車を買う。
そんな投稿を見るたびに、なぜか自分の人生が遅れているように感じる。
でもよく考えると、これはかなり不思議な現象だ。
SNSは「人生のハイライト」だけを並べたアルバムだ。
映画でいえば、予告編だけを集めたものだ。予告編は面白い場面しか映さない。だからそれを見て、「自分の人生はつまらない映画だ」と落ち込む必要はない。
それでも人は比べてしまう。
なぜなら、頭の中の地図に「みんなと同じ」という大きな道が描かれているからだ。
ここで、ひとつ小さな実験をしてみよう。
紙に「普通」と書く。
そしてその横に、小さくこう書き足す。
「たまたま周りの人がそうしているだけ」
たったそれだけで、「普通」という言葉の重さは少し軽くなる。
人は思っているより自由だ。
でも多くの人は、自分で作ったルールに自分で縛られている。
そして、人生を楽しそうに生きている人には、ある共通点がある。
それは、ときどき自分の地図を疑うことだ。
「本当にこれしか道はないのか?」
「ちょっと寄り道してもいいんじゃないか?」
そう考える人は、少しだけ違う道を歩く。
すると不思議なことに、地図に載っていない道が見つかる。
人生はゲームに似ている。メインルートだけ進むより、横道を探した方が面白いことが多い。
もし最近、「なんだか人生が窮屈だな」と感じているなら、一度だけこう考えてみてほしい。
「これ、本当に絶対のルール?」
そうつぶやくだけで、世界は少しだけ広くなる。
人生の面白いところはここだ。
世界そのものは、ほとんど変わらない。
でも、地図を一枚書き換えるだけで、まったく違う景色が見えてくる。
