宇宙ビジネスとスピリチュアルの奇妙なダンス
スピリチュアルマーケティングを解剖する【6】
深夜の種子島、光の柱を残してロケットが昇る。
轟音が雲を割るたび、誰かの「願い」が金属の棺に封じられ、成層圏を突き抜けていく。
衛星、遺灰、祈り――三つは区別されぬまま、真空を共有する貨物になった…。
市場は想像より熱い。調査会社によれば、2023年の宇宙観光市場は8億8千8百万ドル、2030年には100億ドルを超えると試算される。年率四割の伸びを正当化するのは「地球外体験」という唯一無二のストーリーだ。令和のこの時代は、数字よりも物語が資本を呼び込む。
中でも注目なのが宇宙葬だ。米国のCelestisは遺灰の一部を地球周回や月面に届けるサービスを三十年近く続けている。価格は五千ドルから。
競合のElysium Spaceは「流れ星として帰還するプラン」を用意し、2,490ドルで宇宙と火の葬列をセット販売する。死後の旅に値札を貼るビジネスモデルが創り出すストーリーは、宇宙版“戒名”かもしれない。
もっと、もとっと遠くへ――月面墓地計画も走り出した。
2024年1月、米社アストロボティックの月着陸船に遺灰を載せる構想は推進系トラブルで頓挫したが、米国最大のネイティブアメリカン集団であるナバホ族は、月を神聖なものとみなす先住民文化に対する「冒涜行為」になるとそれにもかかわらず抗議した(※1)。宇宙開発と先住民の霊的権利が衝突したのだ。聖なる空白にビジネスが足を踏み入れた瞬間、文化摩擦は真空でも燃える。
心理学に目を移そう。宇宙飛行士が報告する〈オーバービュー効果〉は、地球を外側から眺めたとき生まれる畏敬と一体感だ。最新の研究では、VRで疑似体験した被験者も同様に利他性が高まったという。
高価な宇宙観光チケットを買う動機は、ステータスだけでなく「自我の境界を溶かしたい」という深層欲求かもしれない…。
しかし投資家心理はもっと俗っぽい。未上場ロケット企業のトークン、衛星NFT、メタバース天文台――高揚するストーリーは期待収益率を過大評価させる。カーネマンの〈プロスペクト理論〉が示す通り、人は小確率の大報酬に過敏だ。宇宙+霊性=無限大、という方程式は脳内で赤く点滅する。
リスクも軌道に乗る。
遺灰を積んだロケットが爆散すれば弔いは露と消え、観光フライトが延期になれば前払い金は宙づりだ。しかも宇宙法は国籍によって適用が異なり、消費者保護のシールドは薄い。真空には救済機関が存在しない。この不確実性が“神秘プレミアム”として上乗せされる構造を、私たちは冷静に読まねばならない。
とはいえ、誰もが数字だけで動くわけではない。父の遺灰が星になる瞬間に、一族の物語が更新される――そう信じる子どもの瞳を、コストベネフィットで測ることは難しい。宇宙に撒かれるのは灰とロマンと、少しの投機心。それらが混ざり合い、重力圏を脱した途端に“神話”へ昇華する。
結局、アストラルインフラは信仰と資本の折衷料理だ。
味わい方を誤れば胸焼けするが、適量なら人生のスパイスにもなる。
空を見上げる角度と財布を開く幅――そのバランスを誰が決めるのか。答えは光る軌跡のように、まだ揺れている。
次回は「予言市場と群衆心理――未来を賭ける人類のクセ」をテーマに予定している。株価と運勢が同じ盤上で踊るとき、私たちの合理性はどこまで持ちこたえるのか。
※1 AXIOS https://www.axios.com/2024/01/08/peregrine-moon-lander-launch-human-remains
作風を模索中です。ウケけないだろうなと思ったものがウケたり、パーケージされた言葉――日本語は高度な圧縮言語なんだが――を解凍せずに小難しい言い回しのまま書いてしまっていて、「しまった」と思っていたものが良く読まれていたりと…実際に書くという作業は発見と驚きの連続です。
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