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無人島転生 第3話         「男の浪漫と女子の現実の大衝突」


三日目の朝は、これまでになく気持ちよく目覚めることができた。
「あー、気持ちいい」
ユミが改良してくれたベッドは本当に快適で、野宿とは思えないほどぐっすり眠れた。隣を見ると、ユミもすでに起きて、いつものように身だしなみを整えている。
「おはようございます、エリさん」
「おはよう、ユミさん」
昨日の「神経質すぎる」発言以来、お互い少し気を遣っているところがあったが、基本的な関係は良好だった。
「今日は何をしましょうか?」
「そうですね…食料の確保と、住環境の改善を…」
ユミが計画的に話している時、突然海の方から大きな音がした。
「なんだ?」
二人で海を見ると、何か大きなものが岸に向かって泳いでくる。昨日のユミの時とは明らかに違う。もっと大きくて、もっと荒々しい。
「人?」
「でも、泳ぎ方が…」
その「何か」は豪快にバタフライで泳いできて、最後は勢いよく砂浜に駆け上がった。
「うおお! やっと着いた!」
立ち上がったのは、20代半ばの筋肉質な男性だった。日焼けした肌、がっしりした体格、そして何より、上半身裸で堂々としている。
私とユミは、思わず顔を見合わせた。
「男の人…」
「しかも…その…」
確かに男性は魅力的だった。筋肉もあるし、顔も悪くない。でも、問題があった。
「臭い…」
ユミが小声でつぶやいた。確かに、海水と汗と、何かよくわからない匂いが混じった、強烈な男性臭がしている。
「おう! お前らも転生してきたってことか?」
その男性は、私たちに気づいて歩いてきた。
「あ、はい…私、田中エリです」
「佐藤由美です」
「俺は田中武志だ。タケシって呼んでくれ」
「田中?」
私は驚いた。
「私も田中です」
「マジで? 親戚かもな」
タケシは豪快に笑った。でも、その時に口の匂いも…
「うっ…」
ユミが小さく顔をしかめた。
「俺、建設現場で働いてたんだ。現場監督ってやつ」
タケシは胸を張って自己紹介した。
「男は黙って力仕事だからな。細かいことはよくわからんが、体力には自信がある」
「そうなんですね…」
私は少し困った。この人、悪い人ではなさそうだけど、なんだか価値観が違いすぎる。
「それにしても、女の子二人だけじゃ大変だろ? 俺がいれば安心だぜ」
「いえ、私たちもそれなりにやってますよ」
ユミが控えめに言った。
「そうか? でも、重いものとか運べないだろ?」
タケシは私たちの生活環境を見回した。
「なんだこれ? ちゃんとした家も作ってないのか?」
「家って…」
「男なら、まず寝床をしっかり確保しなきゃな」
タケシは腕組みをして、偉そうに言った。
「俺に任せろ。一日で立派な家を作ってやる」
「でも、材料とか…」
「材料? その辺の木を切って組めばいいだろ」
「計画は? 設計図は?」
ユミが心配そうに聞いた。
「計画? そんなもん、頭の中にある」
タケシは頭をトントンと叩いた。
「男は勢いが大事なんだよ。細かいことをゴチャゴチャ考えてたら、何もできねぇ」
私とユミは、また顔を見合わせた。

「とりあえず、木を切ってこよう」
タケシは森に向かって歩き始めた。
「ちょっと待ってください」
ユミが慌てて止めた。
「木を切るって、何で切るんですか?」
「何でって…」
タケシは困ったような顔をした。
「石で…叩いて…」
「石で?」
「のこぎりがないなら、仕方ないだろ」
ユミは頭を抱えた。
「それじゃあ、まともな家なんて作れませんよ」
「うるせぇな。やってみなきゃわからないだろ」
タケシは石を拾って、森に向かった。
「あ、待って…」
私たちも慌てて後を追いかけた。
森の中で、タケシは適当な木を選んで、石で叩き始めた。
「うりゃー!」
ゴンゴンと石を木にぶつけるが、当然、木は倒れない。
「おかしいな…」
「当たり前です」
ユミがため息をついた。
「石で木は切れません」
「じゃあ、どうすんだよ」
「まず、道具を作るんです」
「道具?」
「石を削って、刃物を作って…」
「めんどくせぇな」
タケシは石を放り投げた。
「だから言ったでしょ。計画が必要だって」
「計画、計画って、うるせぇな。女は細かいことばっかり気にして」
「細かいことって…」
ユミの顔が少し怒ったような表情になった。
「安全管理も、効率も、全部重要なことです」
「安全? 効率? 男はやる気があれば何でもできるんだよ」
「やる気だけじゃ、木は切れませんよ」

二人の議論を見ていて、私はだんだん頭が痛くなってきた。
「まあまあ、二人とも…」
「エリちゃんはどう思う?」
タケシが私に聞いた。
「え? えーっと…」
正直に言って、どちらの言い分もわかる。タケシの「やってみよう」という積極性も大事だし、ユミの「計画的に」という慎重さも大事だ。
「両方大事なんじゃないかな?」
「両方って?」
「やる気も大事だし、計画も大事」
タケシは不満そうな顔をした。
「女はすぐそうやって、曖昧なことを言う」
「曖昧って…」
今度は私が少しムッとした。
「別に曖昧じゃないよ。バランスが大事だって言ってるだけ」
「バランス? 男はな、白黒はっきりつけるもんなんだよ」
「はっきりって…」
ユミが割って入った。
「現実を見てください。石で木を切ろうとして、結果はどうでした?」
「それは…」
「計画なしにやった結果、時間と労力の無駄になったでしょう?」
タケシは黙り込んだ。でも、納得しているわけではなさそうだ。

「とりあえず、昼食にしませんか?」
私が提案した。お腹も空いてきたし、このまま議論を続けても、平行線だと思ったからだ。
「昼食? 何があるんだ?」
「果物と貝です」
「貝? 生で食うのか?」
「火を通します」
私は手のひらに炎を作って見せた。
「おお! 魔法か!」
タケシの目が輝いた。
「俺も使えるぞ」
タケシは集中して、手に石を載せた。すると、石がだんだん硬くなっていく。
「強化魔法だ。ものを硬くできる」
「すごいですね」
でも、石を硬くしただけでは、木は切れない。
「それで木を切れますか?」
ユミが聞いた。
「うーん…」
タケシは考え込んだ。
「石を硬くして、それで叩けば…」
また石で木を叩き始めた。確かに、硬くなった石は普通の石より効果的だったが、それでも木は切れない。
「だめだな…」
「だから言ったでしょ」
ユミが言いかけて、でも途中で口を閉じた。これ以上言うと、また喧嘩になりそうだったからだ。

昼食の準備をしながら、三人の関係はなんとなくぎこちなかった。
「あの、タケシさん」
私が話しかけた。
「建設現場では、どんな仕事をしてたんですか?」
「現場監督だよ。作業員に指示出して、スケジュール管理して…」
「スケジュール管理?」
ユミが意外そうな顔をした。
「ああ。工期に遅れたら大変だからな」
「じゃあ、計画は大事だって知ってるじゃないですか」
「それは違うよ」
タケシは首を振った。
「仕事の計画と、こういう時の計画は別だ」
「どう違うんですか?」
「仕事は責任があるからな。でも、ここは自分たちだけだろ? 失敗しても誰にも迷惑かけない」
「でも、失敗したら困るのは私たちです」
「困ったって死ぬわけじゃないだろ」
ユミは真顔で言った。
「死ぬかもしれませんよ? 怪我したら、治療できないんですから」
「大げさだな」
「大げさじゃありません。医学的に見て、この環境は…」
「また始まった…」
タケシはため息をついた。
「女は心配しすぎなんだよ」
「心配しすぎって…」
私は割って入った。
「でも、ユミさんの言うことも一理あるよ。実際、私も昨日怪我したし」
「怪我? どこだ?」
タケシが心配そうに聞いた。
「手なんだけど、もう治ったの。ユミさんが治癒魔法で…」
「治癒魔法?」
タケシはユミを見た。
「じゃあ、怪我しても大丈夫じゃん」
「大丈夫じゃありません」
ユミが強く言った。
「魔法にも限界があります。それに、副作用もあるんです」
そう言って、私の手の、ピンク色になった部分を見せた。
「おお…」
「予防が一番大事なんです」
「予防、予防って…」
タケシは頭をかいた。
「男は多少のリスクは承知で行動するもんだろ」
「承知って…」
ユミと私は顔を見合わせた。この人、本当に現場監督をやってたの?
食事を作りながら、私は二人の様子を観察していた。
タケシは、確かに力があるし、積極的だ。重い石を運んだり、薪を集めたり、力仕事では本当に頼りになる。
でも、細かいことが全然だめ。火加減を調節できないし、食材の下準備も雑だし、何より、周りのことを考えない。
一方でユミは、とても丁寧で知識も豊富だけど、時々細かすぎて疲れる。
「タケシさん、火が強すぎます」
「これくらいでいいだろ」
「貝が焦げてしまいます」
「焦げたって食えるだろ」
「でも、栄養価が…」
「栄養価って、食えればいいじゃん」
また始まった。
「二人とも、ちょっと落ち着いて」
私が仲裁に入った。
「タケシさん、火を少し弱くしてもらえる?」
「わかった」
「ユミさんも、完璧じゃなくても大丈夫だよ」
「でも…」
「大丈夫、大丈夫」
何とか食事を作り終えた。味は、まあまあだった。
「うまいじゃん」
タケシは満足そうに食べた。
「でも、もう少し塩分を控えめにした方が…」
「ユミさん」
私が止めた。
「美味しいよ、これで」

食後、三人で今後のことを話し合った。
「住むところは必要だよね」
「そうですね。雨が降ったら困りますし」
「よし、俺が家を作る」
「だから、計画を…」
「計画はいいって」
また始まりそうになったので、私が提案した。
「分担したらどう?」
「分担?」
「タケシさんは力仕事。ユミさんは計画と安全管理。私は…調整役?」
「調整って?」
「二人の意見をまとめる係」
タケシとユミは、少し考えてから頷いた。
「それならいいかもな」
「そうですね」
でも、実際にやってみると、そう簡単ではなかった。
「ここに柱を立てよう」
「でも、基礎工事は?」
「基礎って何だよ」
「土台です。しっかりした土台がないと、家は倒れます」
「倒れるって、そんな大きな家じゃないだろ」
「大きさの問題じゃありません」
私はため息をついた。これは大変だ。
「とりあえず、小さな小屋から始めない?」
「小屋?」
「雨をしのげるくらいの簡単なやつ」
「それならすぐにでもできそうだな」
「安全性も確保しやすいですね」
やっと、二人が歩み寄った。
小屋作りが始まったが、やっぱり大変だった。
タケシは、とにかく勢いで進めようとする。
「よし、ここに穴を掘って…」
ガンガンと石で穴を掘り始める。
「ちょっと待ってください」
ユミが止めた。
「水はけを考えて、少し高い場所に…」
「水はけって?」
「雨が降った時に、水が溜まらないように」
「そんなこと、後で考えればいいだろ」
「後では遅いんです」
私は二人の間に立って、調整役をしなければならなかった。
「タケシさん、ユミさんの言うことも聞いてみて」
「でも…」
「ユミさんも、少し妥協して」
「妥協って…」
本当に大変だった。
それでも、何とか小さな骨組みができた時、タケシが言った。
「さすがに一人じゃきつい作業もあるな」
重い木材を運ぶ時、確かにタケシの力は必要だった。
「そうですね。協力すると、効率も上がりますし」
ユミも認めた。

夕方になって、簡単な屋根だけの小屋ができあがった。
「やったね」
「まあ、最低限の雨よけにはなりそうですね」
「俺の力もなかなかだろ?」
タケシは得意そうだった。
でも、問題が発生した。
「あの…」
私が言いにくそうに切り出した。
「今夜、どうやって寝る?」
三人は顔を見合わせた。
「男女一緒は…」
「さすがにまずいよね」
「俺は外で寝るよ」
タケシが言った。
「野宿くらい平気だからな」
でも、外は寒いし、危険かもしれない。
「交代で小屋を使うとか?」
「それもありですね」
結局、タケシが外で寝ることになった。でも、私たちは少し申し訳なかった。
「明日、男性用の小屋も作りましょう」
「そうですね」

夜になって、私とユミは小屋の中、タケシは外で寝ることになった。
「タケシさん、大丈夫かな?」
「男性だから、多少は平気でしょうけど…」
でも、夜中に雨が降り始めた。
「あ、雨だ」
「タケシさん、濡れちゃう」
私たちは心配になった。
「タケシさん! 大丈夫ですか?」
「平気だよ! 男は雨くらい…」
でも、声が震えていた。
「小屋に入ってください」
「でも、男女一緒は…」
「緊急事態です」
結局、タケシも小屋に入ることになった。
狭い小屋に三人で入ると、とても窮屈だった。
「すみません…」
「大丈夫です」
でも、お互いの距離が近すぎて、なんだか意識してしまう。
特に、タケシの筋肉質な身体が近くにあると、ドキドキしてしまう。でも、匂いが…
「明日は石鹸作りから始めましょうか」
ユミが小声で言った。
「石鹸?」
「植物性のアルカリで、簡易石鹸が作れると思います」
なるほど、それは名案だ。
雨音を聞きながら、三人は眠りについた。
「明日はもうちょっと上手にやろう」
私はそう思いながら眠った。
男女三人の生活は、想像以上に複雑だった。

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