無人島転生 第4話 「平和の天使と呼ばれた女の正体」
四日目の朝、私たちは三人で協力して朝食の準備をしていた。
「タケシさん、薪集めお疲れ様です」
「おう、これくらい朝飯前だぜ」
昨夜の雨で濡れたタケシだったが、一夜明けると元気になっていた。やっぱり男性は体力があるんだなと思う。
「エリさん、火起こしをお願いします」
「はーい」
私は手のひらに炎を作って、薪に火をつけた。三人で分業すると、確実に効率が上がる。
「いいチームワークになってきたね」
「そうですね。昨日はいろいろありましたが…」
ユミも少し笑顔になった。タケシの身体洗い作戦が功を奏して、匂い問題もかなり改善されていた。
そんな時、また海の方から人影が見えた。
「また誰か来る?」
「今度は女の人みたいですね」
その人は、前の三人とは違って、とても落ち着いた泳ぎ方で岸に向かってきた。無駄のない、効率的な泳法。
「おはようございます」
砂浜に上がってきたのは、22代前半の、とても上品な女性だった。肩まで伸ばした黒髪をきちんと束ねて、同じ白い布の服を着ているのに、なぜか他の人よりもずっと整った印象。控えめだけど、よく見るとスタイルも良い。
「私、山田綾と申します。アヤと呼んでください」
「私はエリです」
「ユミです」
「タケシだ」
「よかった、人がいた」
「みなさんこれはどういう状況なんでしょうか」
アヤさんは、とても丁寧に質問した。
「みんな同じ境遇みたいだよ」
「それにしても、これで同じ境遇の人が四人ですね。賑やかで素敵です」
「そうですね。一人より断然いいですよ」
「もっと人は増えるのか気になりますね」
「ところで…」
アヤさんは私たちの生活環境を見回した。
「皆さん、とても転生されたばかりとは思えないくらい生活整えてますね。」
「少し大変そうではありますが…」
「大変って?」
「えーっと…」
アヤさんは言葉を選びながら話した。
「皆さん、それぞれ違う意見をお持ちのようで…なんとなく空気が…」
確かに、タケシとユミの間には、まだ少し緊張感があった。
「あー、そうなんです」
私は苦笑いした。
「価値観が違うから、時々議論になっちゃって」
「そうなんですか。でも、それって自然なことですよね」
アヤさんは優しく微笑んだ。
「皆さん、それぞれ素晴らしい個性をお持ちですから。きっと話し合えば、良い解決策が見つかりますよ」
「この人、いい人そう」
私は安心した。アヤさんみたいな人がいれば、チームワークも良くなりそうだ。
「ところで、アヤさんは魔法使えます?」
「魔法ですか? どうやって使うの?」
説明の通りアヤさんは目を閉じて集中してみたが、何も起こらなかった。
「あれ? 何も…」
「大丈夫、大丈夫。そのうち使えるようになるって」
タケシが励ました。
「練習すれば使えるようになるかもしれませんね」
「そうですね。ありがとうございます」
アヤさんは少し残念そうだったが、すぐに笑顔になった。
「魔法が使えなくても、他のことでお役に立てるよう頑張ります」
「ところで、アヤさんは転生前、何をしてたんですか?」
「一般事務をしていました。特別なスキルはありませんが、調整とか、みんなの意見をまとめるのは得意かもしれません」
「おお、それはありがたいな」
タケシが言った。
「俺とユミちゃんの仲裁をエリちゃんがやってるけど、大変そうだもんな」
「そんなことないですよ」
私は慌てて否定したが、確かに調整役は疲れることもある。
「では、早速ですが」
アヤさんが提案した。
「今日は何か予定がおありですか?」
「住環境の改善ですね」
ユミが答えた。
「昨日簡単な小屋を作ったんですが、まだまだ改良の余地が…」
「俺はもっと大きな家を作りたいんだ」
タケシが割り込んだ。
「男なら立派な家を建てるべきだろ」
「でも、材料の調達から計画的に…」
「計画はいいって。まずやってみよう」
また始まった。私が頭を抱えそうになった時、アヤさんが口を開いた。
「皆さんの意見、どれも素晴らしいと思います」
三人は顔を見合わせた。
「段階的に進めてはいかがでしょう? まず小屋を改良して安全性を確保してから、大きな家の建設に取りかかる」
「それなら、みんなの意見が活かせますね」
私は感心した。確かに、これなら誰も否定されない。
「でも、効率悪くない? 最初から大きな家を作った方が早いだろ」
タケシが疑問を呈した。
「確かに効率は大切です。でも、失敗のリスクも考えると、段階的な方が安全かもしれません」
アヤさんは穏やかに説明した。
「大きな家を作って失敗したら、小屋もなくなってしまいますよ。でも、小屋を改良しながらだと、最悪でも住む場所は確保できます」
ユミが目を輝かせた。
「リスク管理の観点ですね。素晴らしい考えです」
「それって、消極的じゃない?」
タケシはまだ納得していない様子だった。
「では、こうしてはいかがでしょう?」
アヤさんは新しい提案をした。
「小屋の改良は最低限にして、同時進行で大きな家の材料集めも始める。どちらも並行して進めるんです」
私たちは顔を見合わせた。
「すごくない? みんなの意見が全部入ってる」
「よし、やってみるか」
タケシが言った。
「俺は材料集めなら得意だからな」
「私も、安全チェックなら任せてください」
ユミも同意した。
「私は…両方手伝います」
「では、早速始めましょう」
アヤの提案で、四人の作業が開始された。
でも、実際にやってみると、そう簡単ではなかった。
「この材料、どこに運ぶんだ?」
タケシが大きな木材を運んできたが、小屋用なのか大きな家用なのか、よくわからない。
「とりあえず、共用の材料置き場を作りましょうか」
アヤさんが提案した。
それはいいアイデアだった。でも、今度は別の問題が発生した。
「この木材、雨に濡れたまま放置すると、カビが生えるかもしれません」
ユミが指摘した。
「そんなの、後で考えればいいだろ」
タケシが眉をひそめた。
「後では手遅れです」
また議論が始まりそうになった。
「まあまあ」
アヤが割って入った。
「どちらの意見も正しいですね。中間案はいかがでしょう? 簡易的な屋根をかけて、最低限の雨よけはする。でも、完璧な保管場所は後回しにする」
私は少し違和感を覚えた。アヤさんは確かに調整上手だけど、なんだか全部が中途半端になりそうな気がする。
「えーっと、アヤさん」
私が遠慮がちに言った。
「中間案って、いつも最善なんでしょうか? 時には、どちらかに決めた方がいいこともあるんじゃないかな?」
アヤは少し考え込んだ。
「そうですね…確かに、中間案が常に正解とは限りませんね」
「じゃあ、どうすればいいんだ?」
タケシが聞いた。
「うーん…皆さんで話し合って決めましょうか?」
「また中間案?」
タケシが少しイライラした様子で言った。
「なんか、いつも曖昧な結論になるな」
アヤの顔が少し曇った。
「あの、アヤさん」
ユミが優しく言った。
「無理に調整しなくても大丈夫ですよ。アヤさんの意見も聞かせてください」
「私の意見…」
アヤは少し驚いたような顔をした。
「でも、私は調整役だから…」
「調整役も一人のメンバーですよ」
「そうだぜ。俺たちと同じ、チームの一員だろ」
タケシも言った。
アヤは少し考えてから、意外なことを言った。
「実は…私、調整しようとしすぎて、自分の意見がないんです」
私たちは静かに聞いていた。
「みんなの意見を聞いて、中間案を考えることばかりやってて、自分が本当はどう思ってるのか、わからなくなることがあります」
「転生前も、会社でそうでした。いつも調整役で、会議をまとめる係で、でも自分の考えは言わなくて…」
アヤさんの声は少し寂しそうだった。
「だから、もう少し自分の意見を言えるようになりたいと思っていたんです」
「じゃあ、今度はアヤさんの意見を聞かせてください」
私が言った。
「調整役じゃなくて、一人のメンバーとしての」
「大丈夫ですよ。私たちも、みんな欠点があるんですから」
ユミも励ました。
「完璧な人なんていないしな」
タケシも頷いた。
アヤは少し考えてから、意外にハッキリと言った。
「私は、まず小屋をちゃんと改良してから、大きな家を建てるべきだと思います」
私たちは驚いた。アヤさんが、こんなにハッキリとした意見を言うなんて。
「理由は?」
「失敗した時のリスクが大きすぎるからです。住む場所がなくなったら、命に関わります」
「でも、タケシさんの言う効率性も理解できます。だから、小屋の改良を急いで終わらせて、できるだけ早く大きな家の建設に取りかかる」
これは、今までで一番具体的で現実的な提案だった。
「すごく良い案ですね」
「確かに、住む場所がなくなるのはまずいな」
タケシも納得した様子だった。
「私も賛成です。段階的に進める方が安全ですね」
ユミも頷いた。
「じゃあ、アヤさんの案で決まりですね」
私が言うと、アヤは少し照れたような顔をした。
「自分の意見を言うって、なんか恥ずかしいですね」
「でも、すごく良い案でしたよ」
昼食の準備をしながら、私は四人の関係について考えていた。
アヤは確かに調整上手だけど、それだけじゃない。自分の意見もちゃんと持っている。ただ、表現するのが苦手なだけなんだ。
「魔法、まだ使えないんですけど、何かコツはありますか?」
アヤさんが聞いた。
「うーん、集中することかな?」
「感情を込めるのも大事です」
ユミが付け加えた。
「俺は、やる気だな。気合いっていうか、絶対使うぞっていう気持ち」
タケシも言った。
アヤは試してみたが、やっぱり何も起こらなかった。
「難しいですね…」
「大丈夫ですよ。魔法が使えなくても、アヤさんには調整力があります。それって、すごく貴重なスキルですよ」
私が励ました。
確かに、四人でいると、いろんな意見が出る。それをまとめるのは、本当に大変だ。
昼食後、四人で魔法の練習をしてみることにした。
「みんなで一緒にやってみませんか?」
アヤが提案した。
「エリさんの火と、ユミさんの治癒と、タケシさんの強化を組み合わせて、何か新しい魔法ができるかもしれません」
「面白そうですね」
「やってみよう」
四人で手をつないで、それぞれの魔法を同時に使ってみた。
「せーの」
私は火を、ユミさんは治癒を、タケシさんは強化を、そしてアヤさんは魔法は使えないけれど、みんなをつなげる役割を。
結果は…
「うわああああ!」
大爆発だった。
四人とも泥だらけになって、服も髪もめちゃくちゃ。
「やっぱり魔法って危険…」
「でも、楽しかったです」
アヤが笑った。
「みんなで一緒にやるって、いいですね」
確かに、失敗したけれど、四人で一緒に何かをするのは楽しかった。
夕方になって、川で身体を洗う順番決めをすることになった。
「どうしましょう?」
「女性が先?」
「でも、男性も疲れてるし…」
また議論になりそうになった時、アヤさんが提案した。
「くじ引きで決めませんか?」
「くじ引き?」
「公平だし、誰も文句言えないでしょう」
それは良いアイデアだった。
結果、タケシさん、ユミさん、私、アヤさんの順番になった。
「あの…」
アヤが恥ずかしそうに言った。
「川でも、やっぱりお互い見えないようにした方がいいですよね?」
「当然です」
ユミが即答した。
「100m離れましょう」
私も付け加えた。
確かに、川とはいえ、男女が一緒に身体を洗うのは恥ずかしい。特に、アヤさんみたいにスタイルの良い人がいると、余計に意識してしまう。
「やっぱり、距離は大事ですね」
夜になって、四人で今日の振り返りをした。
「アヤさんが来てくれて、良かったです」
ユミが言った。
「調整役がいると、議論もスムーズになりますね」
「でも、アヤさんの意見も聞けて良かった」
私も付け加えた。
「自分の考えを言うのって、勇気がいるけど大切ですね」
「ありがとうございます」
アヤは嬉しそうだった。
「明日も、みんなで頑張りましょう」
四人いると大変だけど、なんだか楽しい。
それぞれに個性があって、それぞれに欠点もあるけれど、みんなで補い合えば、きっと何でもできそうな気がする。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
四人の無人島生活は、想像以上に複雑だけど、想像以上に楽しかった。
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