無人島転生 第6話 「史上最悪の温泉掘削プロジェクト」
朝の洞窟で、四人は昨夜の川での入浴を思い出してため息をついていた。
「うー、やっぱり冷たかった…」エリが葉っぱの布団に包まったまま呟く。
「川の水は清潔ですが、体が冷えすぎて風邪を引きそうでした」ユミが心配そうに言う。
「男は冷水で鍛えるもんだ、なんて言ってたけどよ…」タケシも寒そうに肩をすくめる。「正直、温かい風呂に入りてぇ」
アヤが四人の顔を見回して提案した。「皆さん、同じこと考えてますよね。お風呂…温泉が欲しいって」
「温泉!」四人の声が洞窟に響いた。
「温泉なんて、穴掘って温かい水が出ればいいんでしょ?」エリが気軽に言った。
「そうですね。地熱があれば掘れば出るはずです」ユミも頷く。
タケシが胸を張る。「任せとけ!俺、建設現場で穴掘りはやったことあるからな」
「建設現場では重機があったんじゃ…」アヤが小声でツッコむ。
「あ」タケシの顔が青ざめる。「そうだった…ユンボもダンプもない」
エリがぽんと手を叩く。「大丈夫大丈夫!魔法があるじゃん。土を柔らかくする魔法とか使えばさ」
「でも、エリの魔法って今まで全部失敗してませんか?」アヤの冷静な指摘。
「う…」エリが固まる。
四人は島の中央部、聖なる泉の近くに集まった。足元を触ってみると、確かにほんのり温かい。
「ここだ!ここ掘れば絶対温泉出る!」エリが興奮する。
「では、道具を…」ユミが周りを見回す。「あの、シャベルはどこですか?」
「ホームセンターにある」タケシが反射的に答えて、みんなで沈黙。
「…ないよね」エリが小さく呟く。
「つるはしは?」ユミ。
「ない」
「スコップは?」
「ない」
「せめて金属の道具は?」
「ない」
四人が現実を直視した瞬間だった。
「全部手作りか…」タケシがため息。
「尖った石を木の棒につければいいんじゃない?」エリが提案。
一時間後。
「石、割れた」
「木、折れた」
「縛る紐がない」
「そもそも石を木にどうやってつけるの?」
四人は手作り道具作りの段階で早くも挫折しかけていた。
なんとか尖った石と木の棒を組み合わせた原始的な道具を作った四人。いよいよ掘削開始。
「よし、いくぞ!」タケシが気合を入れて地面に石を打ち込む。
ゴツン。
「…硬い」
「土って、こんなに硬かったっけ?」エリが首をひねる。
「現代人は、掘り返された柔らかい土しか見たことないんですよ」ユミが医学的に分析する。
「自然の土は粘土と石と根っこでガチガチです」アヤが事務的に報告。
十分後。
「はあ、はあ、はあ…」四人全員が息切れ。
「まだ…5センチくらいしか掘れてない…」タケシが愕然とする。
「現代人の体力、やばすぎない?」エリが地面に座り込む。
「やっぱり魔法使おう」エリが立ち上がる。
「大丈夫ですか?今まで全部失敗してるじゃないですか」ユミが心配する。
「今度は違うよ!土を柔らかくするだけだから!」
エリが両手を地面にかざして魔法を唱える。
「土よ、柔らかくなれ〜」
一瞬、地面が光る。
「おお!」四人が期待の眼差し。
次の瞬間、地面が泥沼と化した。
「うわああああ!」
四人の足が膝まで泥に沈む。
「抜けない!抜けない!」エリがパニック。
「だから言ったじゃないですか!」ユミが怒りながらも必死に足を引き抜こうとする。
「魔法って、加減ができないのか?」タケシが泥まみれになりながら呟く。
「皆さん、落ち着いて…」アヤが冷静を装うが、彼女も泥だらけ。
「このままじゃ沈んでいく!」エリが泣きそうになる。
「まず、パニックにならないでください」ユミが看護師モードで指示。「お互いに手を取って、ゆっくり引き抜きましょう」
「重いものに掴まって」タケシが近くの木の枝を掴む。
四人で手を繋ぎ、慎重に泥沼から脱出。全身泥だらけの四人が川岸に転がり込んだ。
「魔法、禁止!!!」全員で言った。
泥を洗い流し、今度は魔法なしで挑戦することにした四人。
「分業制にしましょう」アヤが提案。「エリさんが土を掘って、ユミが土を運んで、タケシさんが穴を広げて、私はみなさんをフォローします」
「お、それいいな」タケシが賛成。
「効率的ですね」ユミも頷く。
「やってみよう!」エリが元気を取り戻す。
実際にやってみると…
「エリさん、掘る場所がバラバラです」
「ユミさん、土を運ぶ桶がすぐ満杯になります」
「タケシさん、穴の形がいびつです」
「私、フォローって何をすればいいんでしょう…」
分業制も思ったより難しかった。
「手にマメができた…」エリが手のひらを見つめる。
「腰が痛い…」ユミが腰を押さえる。
「肩がパンパンだ…」タケシが肩を回す。
「皆さん、まだ30分しか経ってませんよ」アヤが時間を確認。
「え?まだ30分?」
「嘘でしょ?もう3時間くらいやった気分」
「現代人って、こんなに根性ないの?」
「昔の人、すごすぎない?」
四人は改めて現代生活の楽さを実感した。
それでも四人は諦めなかった。休憩を挟みながら、三日間かけて穴を掘り続けた。
一日目:深さ30センチ達成。「意外と掘れるじゃん!」
二日目:深さ80センチ。「もうちょっとで水が出そう!」
三日目:深さ1メートル20センチ。ついに水が湧き出した。
「出た!水が出た!」四人が歓声を上げる。
手を浸してみる四人。
「…冷たい」
「普通に冷たい」
「ただの井戸水だ」
「温泉じゃない…」
四人の夢は脆くも崩れ去った。
穴の周りに座り込む四人。全身汗だくで、手はマメだらけ、筋肉痛で体中が痛い。
「温泉って…そんなに簡単に出るもんじゃないのかな」エリが小さく呟く。
「地質学的に考えれば当然です」ユミが冷静に分析。「適切な地熱と水脈が必要で、ただ掘っただけでは…」
「後出しで言うなよ」タケシが苦笑い。
「でも、皆さんよく三日間も頑張りましたね」アヤが労う。
「頑張ったって言われても、結果は井戸だからな…」
「でもさ」エリが顔を上げる。「なんか、みんなで一緒に頑張ったって感じがして…悪くないかも」
「確かに」ユミが微笑む。「協力することの大切さを学びました」
「汗かいて働くのも、いいもんだな」タケシが伸びをする。
「皆さんの新しい一面が見えて、面白かったです」アヤが温かく言う。
四人の間に、疲労とともに不思議な一体感が生まれていた。
「でも、絶対いつかは温泉作るからね!」エリが拳を振り上げる。
「次はもっと調べてからにしましょう」ユミが提案。
「今度は道具もちゃんと作ってからだな」タケシも決意を新たにする。
「計画的に進めれば、きっと成功します」アヤが前向きに言う。
四人が立ち上がろうとした時、エリが足を滑らせてタケシにぶつかる。
「うわあ!」
タケシが支えようとして、二人とも井戸に落ちそうになる。ユミとアヤが慌てて引っ張る。
結果、四人がもつれ合って地面に倒れ込んだ。
「きゃー!」
「うお!」
汗だくで泥だらけの四人が、絡み合うように転がっている。
「あの…皆さん、ちょっと密着しすぎでは…」アヤが赤面。
「あ、あ、あ」エリがタケシの胸に顔を埋めた状態で真っ赤。
「す、すみません!」タケシも慌てて離れようとするが、ユミと絡まって動けない。
「もう、みんなして…」ユミも顔を赤らめながら苦笑い。
夕日が島を染める頃、四人は川で汗と泥を洗い流していた。
「でも、きれいな井戸ができたよね」エリが前向きに言う。
「飲み水には困らなくなりました」ユミが実用的に評価。
「まあ、無駄じゃなかったってことだな」タケシも納得。
「では、温泉プロジェクトは一時中断ということで」アヤがまとめる。
「一時中断!」全員で復唱。
でも、四人の心の中には「いつかは絶対に温泉を」という熱い想いが残っていた。
「次はもっと上手にやろうね」エリが空を見上げる。
「絶対にリベンジしましょう」ユミが決意を込めて言う。
「今度は負けねぇぞ、温泉!」タケシが拳を握る。
「皆さんとなら、きっと成功します」アヤが微笑む。
温泉への夢は潰えたが、四人の絆は確実に深まった。そして、いつか必ず温泉を完成させるという新たな目標も生まれた。
夜空に星が瞬き始めた頃、四人は「温泉完成の日」を夢見ながら眠りについた。
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