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第4回:DJ機材・録音機材・マイクまで…“機材大国”としての日本

ここまでの3回で、日本の電子楽器の層の厚さは、YAMAHA、Roland、KORGのような有名メーカーが並んでいるからではなく、学校教育、工業都市、そして役割の違う企業群が重なってできたものだと見てきました。

では、その話をもう一歩外側へ広げると何が見えるのか。
たぶん、日本の本当の強みは「楽器」そのものだけではありません。DJ機材、録音機材、マイク、ヘッドホン、配信機材まで含めて、音を出す前後の道具が異様に厚いことにあります。日本は楽器大国というより、むしろ機材大国として見るほうが、実態に近いのかもしれません。 

楽器だけでは見えない、日本の強さ

その違いは意外と大きいです。
楽器大国という言い方だと、どうしてもピアノ、シンセ、ギターのような「演奏する道具」が中心になります。でも実際に音楽を成り立たせているのは、その外側の機材です。曲を選ぶ、つなぐ、録る、持ち出す、聴く、配信する。そうした一連の流れのあちこちに日本企業がいる。しかも1社が全部を独占しているのではなく、用途ごとに強い会社が何社も連なっている。この厚みこそが、日本の機材文化の特徴だと思います。 

DJ機材では、日本企業が“現場の標準”を作ってきた

象徴的なのがDJ機材です。
現在のAlphaThetaは、Pioneer/Pioneer DJの技術と系譜を引き継ぐ企業として、自社のDJ事業は1994年のCDJ-500から始まったと説明しています。Pioneer DJの公式サイトでも、1994年のCDJ-500を“世界初のフラットトップ型DJ CDプレーヤー”と位置づけ、さらにCDJとDJMのシリーズが長年にわたって“世界のクラブ標準”を形づくってきたとしています。

ここで重要なのは、日本がクラブ文化の本場だったかどうかではありません。クラブの現場で使われる道具の標準を、日本企業が作ってきたという事実です。 

ハードだけではなく、準備や運用まで含めて強い

しかもAlphaThetaの強みは、ハードウェアだけでは終わりません。
rekordboxの公式サイトでは、このソフトウェアをAI、クラウド、自動化技術を備え、複数の音楽ストリーミングサービスにも対応するDJソフトとして案内しています。クラウド機能の説明でも、Cloud Library Syncによってツアー中でもライブラリを効率的に扱えることが前面に出ています。

つまり日本のDJ機材は、単にCDJやミキサーのような箱物が強いのではなく、プレイ前の準備から本番、ライブラリ管理までを含むワークフロー全体へ広がっているわけです。 

録音機材では、TASCAMが“音を残す環境”を広げてきた

録音機材の世界で同じ役割を担ってきたのがTASCAMです。
TASCAMは1971年にTEACのプロ用音響機器販売会社として始まり、公式にはリール・トゥ・リールのMTR、カセットMTR、DTRS、デジタルミキサーなど、その時代ごとの技術で世界に新しい録音環境をもたらしてきたと説明されています。

しかも現在の説明では、録音スタジオだけでなく、放送、コンサートホール、会議室、教育施設、商業施設、インターネット配信システムまで支えている。つまりTASCAMは、録音の専門ブランドであると同時に、“音を扱う現場”そのものを広く支えるブランドになっています。 

スタジオの外へ録音を持ち出した、日本の機材思想

TASCAMが面白いのは、プロ機だけの会社では終わらなかったことです。
TEACの公式ヒストリーでは、1979年のTEAC 144を“世界初の標準カセットテープ4トラック・ポータブルMTR”として紹介しています。高品質でコンパクト、しかも平均的なミュージシャンにも手が届く価格だったというこの機材は、録音をスタジオの外へ持ち出した象徴でした。

さらに現在のTASCAMは、ポッドキャストや配信向けカテゴリを独立して持ち、Mixcast 4、DRシリーズ、Modelシリーズなどを並べています。ここには、日本の録音機材メーカーが、プロの現場から宅録、さらに配信まで連続的に市場を広げてきた流れが見えます。 

ZOOMは“個人クリエイターの機材”を軽くした

ZOOMも、その流れをかなりよく表している会社です。
ZOOMの公式沿革を見ると、1983年創業後、1990年に最初の自社製マルチエフェクター、2001年に最初のマルチトラックレコーダー、2006年に最初のハンディオーディオレコーダーH4、2015年に最初のプロ用フィールドレコーダーF8、2020年には最初のマイクまで投入しています。

つまりZOOMは、ギタリスト向け機材だけの会社ではなく、エフェクト、録音、現場収録、マイクへと少しずつ音の入口と出口を広げてきた会社です。 

“ミュージシャン専用”ではなく、“音を扱う個人”へ

しかも今のZOOMは、かなりはっきり「クリエイター向け」に舵を切っています。
公式サイトでは、録音機器、マルチエフェクター、ペダル、デジタルミキサー、サンプラーなど幅広い製品群を持つと案内され、別ページではポッドキャスター向けに「Creators are evolving - and so are we.」と掲げています。ヨーロッパ向け公式ストアでも、ミュージシャンだけでなく、ポッドキャスター、フィルムメイカー、サウンドデザイナー、ストリーマー向けの機材を並べています。

ここから見えるのは、日本の機材メーカーが“音楽家専用”に閉じず、音を扱う個人全体へ市場を伸ばしてきたということです。 

Audio-Technicaは“聴く・拾う・届ける”側から支えてきた

マイクやヘッドホンの側からこの構造を支えているのがAudio-Technicaです。
Audio-Technicaの公式ストーリーでは、創業者の松下秀雄は高品質な音をもっと多くの人に届けたいと考え、1962年に“高品質な音をみんなに”という発想から会社を始め、手の届きやすいフォノカートリッジAT-1を生み出しました。その後はヘッドホン、ターンテーブル、マイクへと領域を広げ、いまも「高品質な音はアクセスしやすいものであるべきだ」という考え方を保っているとしています。

つまりAudio-Technicaは、楽器メーカーというより、“聴く・拾う・届ける”側から音楽文化を支えてきた会社です。 

配信時代にも、日本の機材は自然に入り込んでいる

その延長線上に、いまの配信や動画制作もあります。
Audio-TechnicaのCreator Packは、公式に“Streaming, Podcasting and Recording Pack”として案内されていて、ポッドキャスト、Vlog、YouTube、Twitch配信を始めたい人向けのスターターキットとして売られています。

ここで見えるのは、マイクメーカーが単にマイクを売るのではなく、創作の入口そのものを丸ごとパッケージ化していることです。かつての「放送用」「スタジオ用」だけではなく、個人の部屋での制作まで射程に入っている。日本の機材の厚みは、こういうところにも表れます。 

日本の強さは、“音の流れ”の各工程にある

こうして並べると、4社はそれぞれ違う場所に立っています。
AlphaThetaは、DJの現場とその準備環境を握っている。
TASCAMは、録音と配信の現場を支えている。
ZOOMは、個人クリエイターの機材を軽く、持ち運べるものにしてきた。
Audio-Technicaは、音を拾い、聴き、届ける部分を広く支えている。

つまり日本の強さは、「どの分野でも日本企業が一番」という単純な話ではなく、音の流れの各工程に、日本企業が自然に入り込んでいることにあるのです。 

“楽器の国”ではなく、“音を扱う道具の国”

この見方をすると、第1回からの話が少しつながって見えてきます。
日本は、最初からクラブの国だったわけでも、録音文化の本場だったわけでもありません。けれど、学校教育があり、工業都市があり、量産と改良ができる企業が育ち、その上で電子楽器が広がった。そしてその先で、演奏するための道具だけでなく、録る、混ぜる、聴く、配信するための道具もまた国内企業が担うようになった。

楽器の国というより、“音を扱う道具の国”になったと考えると、日本の景色はかなりはっきりします。 

まとめ:日本の音楽機材文化は、層でできている

たぶん、日本の電子楽器史の面白さはここにあります。
名機が多いことでも、ブランドが有名なことでもない。
プレイヤーが音を出す前から、出した後まで、必要な機材の多くに日本企業がいる。
その連なりがあるから、日本は“電子楽器が強い国”に見える以上に、“機材の国”として独特の厚みを持っているのだと思います。 

この4回で、日本の電子楽器と周辺機材の層の厚さをひと通り見てきました。
YAMAHA、Roland、KORGだけでは見えないものが、教育、浜松、企業ごとの役割、そして周辺機材まで広げることで、少し立体的に見えてきたはずです。

日本の音楽機材文化は、スター企業の物語というより、役割の違う会社たちが何層にも積み上がってできた産業の物語なのだと思います。

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